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世界に喧嘩を売った男

「お前!! 何考えてんだよ!!!」


 セントモル公国から離れたとある深い森に降り立った瞬間、俺はソフィアに大声で怒鳴られた。


「何であんなこと言ったんだよ!! あれが何を意味するのか、分かってるのか!!??」


「まあな……」



 ……正直、勢いでやり過ぎたと思っていた。だいたい魔王になったからって何をどうすればいいのか見当もつかない。

 国はあるのか? 城は?? 給料は???


(全然分からん。何しろ魔王なんて初めてだし。当たり前だけど……)


 それに世界征服って言いはしたが、実際何をすれば世界征服になるんだろうか。

 この力で世界をひれ伏させればいいのか?

 いやいや、真の勇者を目指す俺としては、そんな悪の具現のような真似は出来ない。魔王だけど。

 じゃあ何をどうするのか……


(全然分からん。何しろ世界征服なんて初めてだし。当たり前だけど……)


 ……俺は、出だしから完全に詰まっていた。



「……とりあえず、魔王を名乗ったからにはそれなりに動かないとな。

 まずは……そうだな……何しようか」


 俺がそんなことを呟いていると、ソフィアは頭を抱えて首を横に振っていた。



「……やっぱり、何も分かってなかったんだな。まったく、本当にどうしようもないな……」


 ソフィアの呆れっぷりは、見ていて気持ちいくらいだった。心底呆れていた。その余りの呆れっぷりに、さすがの俺も気になった。


「なんだよソフィア。何かあるのか?」


 ソフィアは一度大きく溜め息を吐いた。そして、俺の目を見て、真剣な表情で話しはじめた。



「……大志、今の魔界がどうなっているか、知っているか?」


「全く知らねえ」


「だろうね。じゃ、このアタシが直々に教えてやるよ。

 ……前魔王が倒されてから、魔界は頭を失ったままの状態なんだ。

 もともと魔界は人間界と違って、実力世界なんだよ。強ければ強いほど偉いんだよ」


(イメージ通りの世界だな。弱肉強食。魔界っぽい)


「前魔王は本当に強かった。強く聡明。いつも魔界の未来を考えていたよ。そんな魔王を私は……皆は誇りに思っていた。

 人間界の王とは違う、本当の王だった」


 そう話すソフィアは、どこか誇らしげだった。その話し方には尊敬の念以上の何かを感じた。

 もしかしたらソフィア自身、前魔王に何か特別な感情があったのかもしれない。そう思えるほど、彼女は普段とは違う顔を見せていた。



「それが、人間の勇者に倒されたんだ。当時の魔界は混乱を極めたんだ。

 ……それと同時に、各地で争いが起こり始めた。魔界の王。あらゆる魔族が、その誉れある地位を目指し始めたんだ。

 日々繰り返される戦い。流れる血。その戦火は徐々に広がりを見せた。そのまま魔界が消滅するかもしれないって思うほど、その争いは熾烈(しれつ)だったよ。

 ……そんな時、魔界屈指の実力者の2人が、新たな魔王にと名乗り出たんだ」


「魔界屈指の、実力者?」


「そうだよ。奴らは圧倒的な力を(ふる)った。奴らに挑む魔族は多かったが、その余りの強さでことごとく散って行ったんだ。そして、いつの間にか魔王の座を狙う者はその2人以外にはいなくなった。

 奴らは互いにけん制し合い、今も膠着状態になっている。奴らのどちらかが魔王になるのは、ほぼ確実だったんだ。だからそれぞれに他の魔族が味方について、いつの間にか魔界を東西に二分割して、覇権争いを始めたんだ」


「なあソフィア、その2人の実力者って何者なんだ?」

 


「ああ、それも、知っていた方がいいだろうな。

 ――東の地に陣を構えるのは、“爆炎の魔人”と謳われる武人、イフリトス。

 ――西の地に陣を構えるのは、“虚無の残影”と畏怖される奇人、シュバルツ。

 その名前と実力は、交流が遮断されたはずの人間界にまで響き渡っていた。

 そして、今や、2人の間の緊張は極限まで高まってる」


「魔界で、戦争が起きるのか?」


「いや、今はお互いに様子を見ているところだ。でも、いつ全面戦争に入ってもおかしくない」


(マジかよ………って、もしかして……)


 その時、俺は一つのことに気付いた。


「……ソフィア、その2人とも、魔王を狙ってたんだよな?」


「だから、そう言っただろ……」


「でも、俺……」


「そうだよ!! そんな状態の2人を差し置いて、お前が勝手に魔王を名乗っちまったんだよ!!!」


 ソフィアはすごい剣幕で俺に怒鳴り散らした。しかし、ソフィアの叫びはごもっともだった。


「人間界では、お前が魔王になったと騒ぎまくるだろうよ。近いうちに、魔界の2人にもその話が回るだろうな。

 奴らは思うはずだ……“その男、許すまじ”ってな!!

 ――つまり! お前はその2人に喧嘩を売ったんだよ!!」


(やっぱりいいい!!!)


「……しかも、さっきあの部屋には、人間界の三大国家のトップと三剣勇者が一同に揃ってたんだ。

 そんな中で堂々と魔王宣言をした大志を、人間達が何もせずにいるはずがない。たぶん、討伐に出るはず……」


 そしてソフィアは、俺の顔に人差し指を指した。


「要するに、大志は人間界、魔界に――この世界に、喧嘩を売ったんだよ!!」


「嘘、だろ……」


 俺は項垂れた。

 人間界側からの攻撃は予想していた。……でも、まさか魔界までもが俺の敵にまわるとは思っていなかった。魔王になれば無条件に仲間が増えるという淡い期待がどこかにあった。

 そんな自分の思慮の浅さに、俺自身も呆れ果ててしまった。


 よく考えれば、そんなことは当たり前だった。全くの見ず知らずの人物がいきなり自分たちの王を名乗れば、当然反感を買うことになる。今になって、それを理解した。


(……気付けよ、俺……)



 一人立ち尽くす俺に、ソフィアは少しだけ同情を感じたのか、声色を僅かに柔らかくして聞いてきた。



「……で? これからどうするんだ?」


「……何も考えてない」


 ソフィアは再び溜め息を漏らす。



「……とにかく、ここにいてもしょうがないから、アタシの“城”に行こうか」


「城? どういうことだ?」


「だから、“魔界”に行くんだよ」


「いやいやそうじゃなくて、何でお前が城なんて持ってるんだ?」


「ああもう、別にいいだろ!? ほら、さっさと行くぞ」


 俺の質問を実に面倒そうにしながら流したソフィアは、俺を置いて歩き始めてしまった。


「お、おいソフィア! 待てって!」


 そんなソフィアを追いかける俺。

 

 俺は、色々考えていた。

 これまでのこと、これからのこと……


 反省はしているが、後悔はしていない。思い描くものと形は少し違うが、俺は世界を救うんだ。この力で。今までゴミクズのように生活していた俺は、ようやく自分のやりたいことを見つけたんだ。役割を見つけたんだ。

 自分が正義だとまでは言わない。本当に正しかったのかなんて分からないし、他に方法があったのかもしれない。

 ……だけど、これが俺の選んだ道だ。今は、その道を歩いて行こうと思う。


(ゆっくりとした足取りでも、迷いながらでも、一歩ずつ前に進むんだ)


 魔界に向かう俺は、力強く足を踏み締めながら歩いて行った。



  

 

第1章 完

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