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お買い物 2

 会計の際、お兄さんにプリンのお礼を言ったら、イイ顔で親指を突き立ててくれた。

 僕も機嫌が良かったし、一つ頭を下げて優しく微笑み返す。

 すると、お兄さんはトマトのように赤くなってしまった。

 ……大げさだよね。

 母さんと美華の何ともいえないイヤラシイ表情が気になるけど、プリンの為ならこの位は容易なことなのだよ。 


 

 さて、お腹も一杯になった。ならばやることは決まっている。

 現在は、母さんと美華を先頭に、目的地と思われる場所に向かっている処だ。

 さり気なく前方の二人を見ると、他愛の無いことを話しながら、まるで僕に警戒している様子は無かった。

 いくか……

 少し、歩く速度を落としてみた。

 案の定、僕の行動に気付いていないのか、二人との間に距離が生まれる。

 今しかない……

 激しく心臓が脈動する。

 その音を聞きながら、素早く体を翻そうとした時だった。

「ああ、桃香ちゃん。逃げようなんてしたら、プロバイダ解約ね」

 母さんからボソリと呟く声が聞こえた。

 な! 振り向いてもいないのに何故判る。後ろに目でもあるの! 

 大体、ネット出来ないPCなんて、唯のゲーム機じゃないか! 

 あれ? それでもいいかな。

 でもチャットも出来ないし、大問題だろ!

 僕のとった行動は、折角作った距離をそそくさと詰めることだった。

「そ、そんなことする訳ないじゃない、あははは」バレてないのを祈りつつ慌てて誤魔化す。

「お姉ちゃんってさ、判りやすいよね」

 振り返った美華のツッコミが僕のガラスのハートを打ち抜いた。 


 

 僕の抵抗は報われることなく、そのまま現地に到着してしまった。

 明るいパステル調の女性服専門店は、いかにも二人が好きそうな感じだ。

 更に女性しか居ないこの空間はとても違和感を感じさせる。

 はぁ……嫌だなぁ。

 ――ってあれ? そういえば美華も服買うみたいなこと言ってたから、僕のじゃない可能性もあるよね。ならば問題無いじゃないか! そんな僕の期待を裏切るように、

「さて、お姉ちゃんにはどれが似合うかなぁ」美華が僕の左腕を掴んだ!

「桃香ちゃんは、肌が白くて、柔らかい金髪だから明るい服が良さそうよね」

 母さんにも右腕を掴まれた。

 なんですか、この絶対逃がさないというシチュエーションは。

「いやいや、僕のはいいから、美華の服を選びなよ。うん、それがいいよ」

「勿論。美華の服も買って貰うけど、お姉ちゃんが先ね!」

 美華が笑顔を向けている。目が一切笑ってないのがとても恐いんだけど。

 まるで暗殺者アサシンの目だ。誰の血を引いたんだよ!

「そうそう、桃、香、ちゃんの服がメインですからね」

 母さんからは、射撃手スナイパーに、狙われているような錯覚をする。

 ……美華が誰の血を濃く受け継いでるか良く判るね。

 そして、僕は狐……の筈、狩猟されるのはどうみても僕じゃないか!

「とりあえず、このワンピースからいってみましょうね」

 いつの間に選んだのか、母さんの左手には黄色くフリルの沢山付いたモノが握られていた。

「うん、美華もそれ可愛いと思う!」

「ええと……拒否権は?」 

「「無いよ」」

 二人に爽やかに流された。

 どうせ、爽やかなら炭酸飲料の方がいいよ!


  

 その後の僕については聞かないで下さい。

 女の買い物パワーって凄いね。とだけ伝えておくよ。

 何故か、僕の手には紙袋が三つもあるんだから。

 でもね、良い事もあったんだよ?

 今ショッピングモールでは、ガラポン大会をやっているらしくて、購入金額の回数だけガラポンに参加出来るのだ。

 僕と美華の服を買った為、結構な額を消費したみたいだから回すのが楽しみだよ。

 その原資は何処から出たかは知らないけど、世の中には知らない方がいいってこともあると思うんだ。


 

 先に他の買い物を済ませお待ちかねのガラポン会場に来た。

 夜ご飯等の食料品を購入した結果、ガラポンを回せる回数が二十一回に増えていた。

 丁度、三人で割り切れるのもイイ感じだね。

 特賞が、ハワイ旅行、一等賞が大型液晶テレビ、ニ等がブランドバックのセット、三等が携帯ゲーム機となっている。

 母さんと美華は二等が欲しいみたいだ。

 勿論僕は三等だね。神の力を見せてやるよ!

 まだ使い方は教わってないけど、為せばなると信じてみよう。

 僕達の前にも並んでいる人が居て、それを待ちながら三人で当たるといいね、みたいな話で時間を潰す。時折ベルが鳴り「おめでとうございます。○等賞です」という声が聞こえていた。

 待つ事十数分、僕達の番が来たので最初に美華から回すことになった。

 美華が赤いガラポンマシーンの取っ手を握り、ガラガラポーンって名前の如く玉を出していく……しかし、その間、一度もベルが鳴ることは無かった。

「うう、無理だったよ」美華が肩を落として母さんと交替する。

 美華の結果は、参加賞のポケットティッシュ五個と、うまい○棒二本だった。

「さぁ、行くわよ!」

 母さんは美華の敵を討つという感じで取っ手を握り、ぐるぐる勢いを付けてガラポンマシーンを半時計周りに回し始める。

 これって意味があるのかイマイチ判らない行動だけど、気持ちは判るよね。

 会場の係員さんが、少し苦笑しているのが目に入った。

 その甲斐もあったのだろう、回すこと五回目にしてベルがなる。

 トレーの中にある玉の色が紫、対応表を見ると、ティッシュペーパーの五個入りの奴だった。

「ぷっ」思わず笑いそうになったのを必死に押し込めた。

 だって、ポケットティッシュの親分みたいなものじゃない。

 景品を用意した人も、もっと考えて欲しいと思うよ。

 現に母さんが僕を睨んでるんだから……

 その後は、ベルも鳴ることなく母さんの番も終わった。

 ポケットテッシュ六個と、親分が一個だ。

「桃香ちゃん、判ってるわね!」

「お姉ちゃん! 絶対取ってよ!」

 うわ、二人の顔がマジです。真剣と書いてマジと読むあれだ。

「うん、頑張ってみるよ」

 僕のこの台詞に二言は無かった。携帯ゲーム機を取るんだからね!

 二人の痛い視線を背中に受けながら、僕は取っ手を持って回し始めた。

 母さんみたいに回せばいいってもんじゃないんだよ。

 ガラガラ、ポーンと言う感じで本体を動かし一回目がすぐ終わる。うん、白だね。

 まぁ、そんなに当たりが出たら運営も困るからこれは仕方ない。

 続けて、回すと、白……

 まだ二回だしね。

 その後、連続で回しても全部白だった。

 ちょっと! これ当たり入ってるの? 残り一回しかないじゃないか!

 やる前は期待するような感じだった母さん達も諦めモードに入っている。

 このままだと一番の当たりが母さんの親分だけというのもどこか情けない。

 だって、合計二一回も回してるんだからね。

 すぅ……はぁ……最後ぐらい精神を集中して、回すことにした。

 行くよ!

 取っ手に力を込めて回し、神様お願い、と無意識に祈りを捧げる。

 そして、回転を緩める時に気が付いた。

 僕が神様じゃないか!

 心の中でツッコミを入れていると、無情にもマシーンの出口から玉が零れ落ちていた。

 終わった、そう思った瞬間、ベルがなる!

 おおお、まさか! 

 慌ててトレーの中を見ると、落ちている玉の色は黒。

 ひょっとして携帯ゲーム機!?

 そう期待して係員さんを見ると、

「おめでとうございます。二等のブランドバックのセットになります」

 弾んだ声で言われた。とても笑顔が眩しいね。

 でも全然嬉しくないよ。

 ……世の中こんなものだよね。

「お姉ちゃん凄い!」

「桃香ちゃんは出来る娘だと思ってたわ!」

 一方の二人は大喜びだ。

「それでは、此方が景品の目録になります。後ろの交換カウンターでお好きなモノをお選び下さい」

「ありがとうございます!」

 母さんが係員さんから目録を代表して受け取った。

 僕が当てた気がするけど、まぁ別に欲しくないから問題ないけどね。

 二人はすぐにカウンターに向かって歩いていく。

 僕は少し離れたところで荷物番だ。

 あの二人の中に割り込める勇気なんて無いもん。

 暫くして戻ってきた二人の手には、確かに有名ブランドのバックセットがあった。

 ホクホク顔の処を察するに、とても満足しているようだ。

 帰宅する際の車中でも、ずっと賑やかなままだったしね。


 

 玄関を開けて中に入ると、階段の上から金色のもふもふが走ってきた。

「桃香! お稲荷さんじゃ!」

「あ!」

 尻尾を振って機嫌の良い玉ちゃんを他所に、僕はすっかり忘れてたことに困ってしまう。

 そういえば、約束してたんだよね。

 服のことで頭一杯だったからそんな余裕なかったんだよ。

「ええと……」

「ま、まさか、忘れたのか?」

 先ほどの勢いはどこへやら、玉ちゃんがシュンと耳と尻尾を垂らした。

 それを見たら、買ってくる以外の行動はあり得ない。 

 玉ちゃんの愛らしさは汚いね。本当に見た目詐欺だよ!

「そ、そんなことないよ。荷物が多かったから置きに来ただけ、今から買ってくるから待っててね」

「そうか、早く戻ってきておくれ!」

 途端に元気になる玉ちゃん。現金なものだ。

 玄関に荷物を置き、僕は急いで近所のコンビニに向かって走ることにした。

 その途中で、気付いた。あれ? 今日って損してるだけなのような。

 洋服も殆ど嫌がらせみたいなものだし、お稲荷さんも僕の自腹である。

 でも、その二つはまだいいだろう。

 冷静になれば、ブランドバックを貰ってそれを売れば僕の携帯ゲーム機は買えたんじゃないだろうか? 

 今更、売ろうと言ってもあの二人が許してくれるとは思えない。

 というより、初めから売るなんて選択肢はある筈が無いのだ。

 神様になっても、やっぱり理不尽だ!

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