お買い物 1
午前中、僕と母さん、美華の三人でTVの前のソファーに座り寛いでいた時だった。
「さて、今日は桃香ちゃんの洋服を買いに行くわよ!」
いきなり母さんが縁起でもないことを言い出した。
「わー、いいなぁ。美華も欲しいなぁ」
それを聞いた美華は羨ましそうに目を輝かせている。
僕は欲しくないんだけどね。
「あらあら、仕方ないわね、美華ちゃんも一緒に行く?」
「本当! 嬉しい」
母さんに甘える仕草は、今年から高校生なのかと疑いたくなるものだ。
けど、それが似合うのが我が妹ながら得な性格とも言える。
「それって、僕も行かないと駄目なの?」
当然の質問を母さんにしてみる。
「何を言ってるの! 桃香ちゃん一枚も女の子用の服持ってないでしょうが!」
「そうだけどさ、別に問題ないよ? 今迄の服が普通に着れるしね」
「そんなブカブカな格好では人前に出れないでしょ! ある意味萌えるものがあるのは認めるわ、しかし、そのままだとお父さんが発狂するわよ!」
今着てるのだって、多少大きくなりスウェットから肩が見えてるぐらいで不自由は無いと思うんだけどね。
でも、父さんのことを言われると痛いものがある。
我が家では、僕が父さん派、美華が母さん派でバランスが取れていたのだけど、僕が女の子になって、娘と仲の良い父親という一度やってみたかったシチュエーションが叶ったらしく、あれこれ煩くなってしまったのだ。
少し? いや大いに変態が入ってる気もする。後、萌えって何!
「じゃーさ、こうしない。下着買うときに僕のサイズ調べたじゃない? それで適当なの買ってきてよ。美華が着れるのなら問題ないからさ」
「お姉ちゃん! 洋服は女の武器なのよ。今からそんなやる気無い態度でどうするの!」
「そうよ、桃香ちゃんは少し女を磨いた方がいいわね。原石は磨かなければダイヤモンドにならないのよ!」
二人共妙に気合が入っている。少し引くぐらいだ。
それにしても、ダイヤモンドねぇ。
「僕的にはエメラルドの方が好きかな、緑色で形も素敵だよね」
「それを言うならお姉ちゃんっの目って綺麗な青色だし、サファイアがいいんじゃないかな」
「大げさだって、美華の目だって――」
黒? 黒い宝石? ええと……出てこない。
そうだ!
「チョコ○ールみたいじゃないか」
「お姉ちゃんそれ誉められてる気がしない」
美華の視線が痛い。でもさ、言い訳をさせてもらえば黒い宝石なんて簡単に思いつかないよ!
碁石よりはチョコ○ールの方がマシな筈……
「ほら、子供から大人まで愛されているお菓子だろ? それに、運がよければ玩具のバケツ缶がもらえるじゃないか、すごいお得だよ!」
「お姉ちゃん最悪」
「桃香ちゃんはまだまだね……」
二人の反応が冷たいです。
出掛ける前に、僕の部屋で丸くなってる玉ちゃんに今一番感じてる疑問をぶつけてみた。
いつもの座布団の上にちょこんとしてる姿がとてもプリティだ。
「ねー、玉ちゃん。神様って洋服とかどうしてるの?」
噂の神通力で出すのだったら、この先困らないしね。
「うん? そんなことか、作って貰えばええんじゃ。ワシクラスだと貢物で何も問題が無からな」
玉ちゃんは顔だけ向けて眠そうな目で答えてくれた。
「それって、自分で魔法みたいに作りだすのは無理なの?」
「うむ、服自体を作りだすのは無理じゃ。相手に幻術をかけて着てるように見せるのは可能じゃがな。それに、神の世界では衣服なんてあって無いようなモノじゃからな」
「そうなんだ……」
結局、買わないと駄目なのか。
「さっきから、急にどうしたんじゃ?」
突然こんなこと聞かれたら、玉ちゃんが疑問に思うのは当然かもしれない。
「あ、うん、今から母さんが洋服買いに行くって僕を連行しようとしてるからさ、なんとかならないかなぁって思ってね」
「なるほどのぉ。それならお土産はお稲荷さんでいいぞ」
ちゃっかりしてる……そして、暗に付いてこないと言ってるよね。
絶対めんどいのが判ってるな。
「それって、共食いにならないの?」
「なる訳が無かろう、油揚げに酢飯の合わせ技、素晴らしい食べ物じゃ!」
さっきまで眠そうだったのに、食べ物の話になった途端これだよ。
「そうなんだ。まぁ、気が向いたら買ってくるよ」
「絶対、買ってくるのじゃぞ!」
そう真剣に言われると茶目っ気が……
「うーん。覚えてたら買ってくるよ!」エヘって笑ってみる。
「冷たいのぉ……これが反抗期って奴なのか、こんなに桃香を大事にしてるのに」
僕の笑顔は通じなかったらしい。
玉ちゃんがカーぺっトを手でスリスリしてイジケタフリなんて始めた。
どうみても我が侭だと思うんだよね。
「もぉ、しょうがないなぁ。買ってくるから大人しくしててよ」
「やはり我が愛娘じゃ。楽しみにしておるぞ!」
ほら演技だったよ。この立ち直りの速さ何なんだろうね。
でも、神様に貢物って一般的だし、お稲荷さんぐらいは母さんも買う予定だったのかもしれない。
まぁとりあえず、10秒もふもふチャージを決行した。
玉ちゃんの尻尾に顔を埋めるだけなんだけど、沢山あるからとても癒されるのだ。
一瞬だけでも嫌なことを忘れれるよ。玉ちゃんはいつも好きなだけさせてくれんだよね
その後、母さんの運転する車で、近所のショッピングモールに連れていかれた。
隣に居る美華はとてもはしゃいでいる。
このショッピングモール、近年出来たばかりで、沢山の専門店とスーパーから成り立っている。
春休み中だけあって、僕達と同じ年代からちょっと上の人も多く見られ、結構な賑わいを見せていた。
ちなみに僕の格好は、パーカーとジーンズというありきたりの格好である。
多少ジーンズの丈が長くなり、胴回りが広がったけど着れないことは無いんだよね。
どうせ僕の為にお金を使うなら、携帯ゲーム機でも買ってくれた方がかなり嬉しいんだけど……
入り口から少し歩いた頃、
「さて、どうしましょうか? 先に洋服を買う? それとも、ご飯からにしましょうか?」
母さんが丁度お昼時の為、僕達に質問してきた。
「うーん、そうだね。確かにお腹も空いてきたかな。ご飯食べた後そのまま帰宅でも全然僕はいいよ!」
「お姉ちゃんまだそんな事言ってるの? いい加減諦めなよ。それと、美華もご飯に賛成だよ! 荷物持ったままだと邪魔になるもん」
美華に呆れた顔をされたが、ご飯には賛成らしい。
それでもツッコミどころは満載なんだけどね。
だって、邪魔になるぐらいの荷物ってどんだけ買うのって話だよ!
もう、あれだよね。ケータイゲーム機買って下さい。お願いします。
PCを買って貰ったばかりだから、他に手が回らないんだよね。
結局お昼は、母さんの鶴の一声により釜飯に決まった。
余り家では食べれないし、これはこれで美味しいので不満は無い。
美華はクレープとか言ってたけど、あれはご飯じゃないと思うんだ。
「それでは、ご注文の品は以上ですね。少々お待ち下さい――」
釜飯屋のお兄さんが、伝票を置いて僕達の座る四角いテーブルから去っていった。
「ぐふふ、お姉ちゃん凄いね」
「やっぱり私の娘よねー」
美華の目が好々爺のようになり、母さんは自慢げに僕を見ている。
残された僕は溜息が出るばかりだった。
「もうね。あれだよ。そんなに金髪が珍しいのかな? 今時金髪なんて一杯いるのにね」
「お姉ちゃん、違うよ。あれは一目惚れしたって感じだよ!」
「そうそう。桃香ちゃんの可愛いさならイチコロよね!」
う、この二人どうしてもそうしたいのか……
僕が必死に違うことにしようとしてるのに。
「気のせいだって。ほら、僕よりも美華を見て戸惑ってたろ、アレはどうみても美華狙いだな」
「お姉ちゃん、本当は判ってるでしょ? 無駄な足掻きはよしなよ」
「足掻きってなんだよ!」
「はぁ……コレでこの先やってけるのか美華は心配になるよ」
何この反応、僕間違ってないよね?
「まぁまぁ、桃香ちゃんと美香ちゃん、それに私、全員可愛いってことでいいじゃない」
纏めるつもりだろうけど、さり気に母さんも入ってるよ……
その歳で可愛いっていうのはどうかと思うんだ。
「桃香ちゃん? 何か不満でもあるのかしら?」ジロリと睨まれた。
恐い……考えを読むなんて、母さんは玉ちゃんの力が使えるの!
美華にはお姉ちゃん馬鹿だなぁって顔をされた。
「な、何も、不満は無いよ? うん、母さんの息子で僕よかったなぁ、あはははは」
「娘でしょ!」
そこは、別にツッコミ要らないんじゃ……
「お姉ちゃんも、僕とか言うのやめればいいのに、その外見で僕は無いよね」ここぞとばかりに美華が攻撃してくる。
「えー、別に僕ぐらいいいじゃん。誰にも迷惑かけないし、今更変えろって言われても無理だよ!」
「確かに治すなら早い方が良いわね。女の子が僕って少し変だもの」
母さん迄シミジミって感じで頷いている。
「いやいや、それだったら美華だってオカシイって。自分の事を美華って呼ぶのも無理あるもん、今年から高校生なんだから変えた方がいいと思うよ」
「美華のことはいいの!」
「そうね、美華ちゃんは似合ってるからいいのよ!」
何その理論!
「それなら、僕だって似合ってるよ!」
「お姉ちゃんの見た目は可愛い系だからね。わたしとかの方がより可愛く見えると思うんだよね」
「別に可愛くなんて見られたくないよ!」
「「はぁ……勿体ない(わ)」」
盛大に溜息をつかれた。
おかしい、何かが間違っている。
そう悩んでいると、店員さんが注文の品を運んできてくれた。
「お待たせいたしました」
そう言うと、僕達の前に釜飯のセットを配膳し始める。
母さんが、五目釜飯。美華が、帆立釜飯。そして、僕が、海老いくら釜飯だ。
店員のお兄さんは全て終わると、僕に目配せしてきた。
なんだろう? って小首を傾げると、
「はい、これは君がとても可愛いからオマケ」
と僕にだけプリンをつけてくれた。凄くうれしい!
「え、いいんですか?」
「ああ、今度よかったら一人で来てね」
躊躇する僕のトレーに、店員さんは満面の笑みを浮べながら置いて去っていった。
プリンは僕の大好物。うん、ついてるね! 可愛いは正義だよ!
さっきと言ってることが違う? プリンの前ではそんな些細なこと気にしないね!
「「見たわ(よ)」」
何か妖怪、苛めっ子が言ってるけど、もう耳に入らない。
僕は心が広いからね!
ちなみに、釜飯も美味しゅうございました。
プリンのお礼に又来てみたいけど、高校生の小遣いではちょっとばかしキツイ値段なんだよね。
好きな食べ物はプリンにしました。
やはりスィーツですよね。
あれ? 服買いに来た筈なのに、服のふの字も無かったw
次回こそは……