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第一の願い 3

 佐賀さんは二つあるエスカレーターの内、右の方に乗り、ホームのある二階に上がっていった。

 ちなみに、右のエスカレーターは僕の学校に向かう路線だ。

 反対方面ならば遅刻しなくてはいけなかったので、どうやら怒られなくて済みそうなのが助かった。

 だけど、神様の仕事だから別に遅れても怒られないとは思う。

 ……大丈夫だよ、うん、神様だもん……きっと。

 佐賀さんの後をバレないように進むこと暫く、佐賀さんは前方から三両目の出入り口付近で止まった。

 そこにはもう次の電車を待つ人達が居て、列が出来ていた。

 佐賀さんはその人達の後に並ぶのかと思いきや、背後のベンチに座る。

 そして、キョロキョロと誰かを探すような素振りを見せ始めた。

 僕は慌ててエスカレーターホールに体を隠した。

 背後から見たら、とても怪しい姿なので是非とも見なかったことにして欲しいね。

 佐賀さんはその間も落ち着かない様子で辺りを見回していた。

 その必死な様子から告白相手がこの時間に来るのだろうと気付き、僕も探してみることにする。

 佐賀さんの年代から言えば、高校生ぐらいまでは守備範囲の筈だ。

 幾らなんでも中学生は無いだろう。

 ホームには、今時の女子高生やキリッとしたOLが居たが、佐賀さんのお目当ての人はまだ来ていないらしく、落ち着かない。

 その間に、電車が一本来たが佐賀さんは乗ることも無く見送っていた。

 うーん、これは長期戦になるのかな? 

 ひょっとして、相手が休みということも考えられる。

 困ったなと焦り出した時だった。

「桃~香!」

 ポンポンと頭を叩かれる。

 いきなりの衝撃と声に慌てて振り向く――

 すると、見たことのある短い頭髪をした野性味溢れる健康児がいた。

「なんで八雲が此処にいるの!?」僕は目を丸くする。

 用があるから先にいっていいよと伝えた筈なのに想定外だ。

「ん? 先も何も今がいつもの時間だろうが」

「……なるほど、そういう説もあるかもしれない」

 ホームの時刻板は僕達の普段乗る時間になっていた。

 八雲が学校に行くなら当然の結果とも言える。

「てかさ何で此処にいるんだ?」

 うっ……まさか神様の修行していたとは言い難い。

 否、言うべきなのか? 秘密にしなくてもいいような気もする。

 でも拙いか、こういうのは守秘義務があって顧客の情報を漏らしたらいけないとかありそうなものだ。折角頑張ったのに罰で無駄になるのは惜しいよね。

 黙っているのが吉だろう。

「……乙女には秘密が一杯なんだよ!」

「なんじゃそりゃ――てか乙女って、やっと自分を可愛い女の子と認めたのか、これで俺と普通に付き合えるな」八雲は嬉しそうだ。

 人が苦肉の策で誤魔化そうとしたのに、その斜め上を行く返しをされてしまう。

 僕じゃなくて、美華と付き合ってくれればいいのにね。   

「怜は一緒じゃないの?」

 ならばと、いつも一緒に居る眼鏡をした理知的なもう一人の幼馴染のことを聞いてみることにした。

 僕達は三人で登校するのが常だから、二人は一緒に居る筈なのである。

「ああ、怜か……」

 するとさっきまでの元気は消え、急に八雲の声が沈んだ。

「どうしたの?」

 その変化に僕は気になり、教えてと目で訴えかける。

「今日も体調が悪くて休むらしいんだわ」

「え? 又?」

 此処最近、怜は頻繁に学校を休んでいた。

 理由を聞いたが八雲が言うように「体調が悪い」らしい。

 現に出てきても、顔色が青く本当に調子が悪いのが見てとれた。

 悪い病気じゃなければいいと心から祈るばかりだ。

「まぁ……電話が出来るぐらいだから大丈夫と思うが、こう頻繁だと少し気になるな」

「うん、わたしも……今日帰りにでもお見舞い行こうかな」

「いやそれは駄目だろ!」

 僕の何の気ない台詞を聞き、八雲が慌てたように否定してきた

「なんで? 怜の両親は共働きだから、一人で大変だと思うよ?」

「だ、か、ら、だろうが、野獣の檻の中に、桃香が入っていったら、特上サーロインステーキヨロシク、美味しく食べられちゃうだろうが!」

 ……朝から八雲の頭はそれしかないのだろうか?

 うん、無いね馬鹿だもん。

 ジトーっと睨みつける。 

「な、なんだよ?」

 その視線を受けて八雲がたじろぐ。

「いやね……馬鹿は風邪引かないからいいなと思っただけだよ」

「おい、それじゃまるで俺が馬鹿みたいじゃないか!」

「やっと自覚したの? これで八雲も進化できたね」

「ひでー、だったら桃香だって――」

「わ、た、し、が何?」

 僕は胸をズイっと突き出し、ジロリと威圧的に睨みつけて八雲の発言を封じ込める。

 八雲は一瞬、言葉に詰まるが、その後、ある一点を注視しだした。

 そして、そろりと手を伸ばし――

「柔らかそうだな……」

 そのまま、僕の胸に触ろうと近付けてきた。

「キャ!」

「痛っ!」

 ガンっと八雲の頭を殴って、それを阻止する。

 その後に胸を両腕で隠すのも忘れない。少し顔が赤くなってると思う。

 八雲は頭を殴られた頭を抑えている。

「変態! 最低! 痴漢! ちかん? いいかもしれない、このまま駅の事務所に行こうか?」

「ま、まて、ホンの出来心だ! 桃香が胸を揉んでくれと差し出すからつい手が出ただけで、他意は無い!」

「それで十分だろうが!」

「いや、その……あれだ、桃香が可愛すぎるからいけない、これが真意!」

 まだ言うか!

「へぇ……だったらアイドルには何してもいいのかな?」

「それは拙いだろ。常識的に考えてみろよ?」

 八雲にあっさり否定される。

 ……あれあれ? このイラツク感情はなんだろうね?     

 手がピクピクして殴りたいのを我慢する。

 幾ら馬鹿だとしてもそうポンポン殴るものじゃない、僕は平和主義者なのだ。

「だ……だったら、なんで僕はいいのかな?」

 怒りが堪えきれず声が少し震えているのは愛嬌だ。

「桃香はアイドルより可愛いし、恋人の体は自由に出来るものだろ?」

 八雲は当然のような素振りで白い歯を光らせた。

「何が『だろ』だ!」

 拳を握って渾身の力でボディブローを放つ――だが、

「おっ、照れるな照れるな」

 その拳を避けて軽く制服越しに細い腕を掴まれ、そのまま勢いの付いた体を引っ張られた。

 そして、軽く抱きしめられる。

「こら、変態離せ!」

 ガシガシ足で八雲の脛辺りを蹴った。

「い、痛いって、そっちから飛び込んできたんだろうが」

 八雲は痛みに手を離すが、何処か納得出来て無さそうだ。

 その隙に素早く一メートル程警戒して離れる。

「――八雲、悪いこと言わないから警察行こうよ……」

 あの状況で何でそう考えるのか僕には判らないよ。     

「どうせならラブホテルに」

 ……疲れる。八雲のブレーカー代わりの怜が居ないから、誰も暴走を止められないよ!

 僕は無力だ。ガクリと肩を落とす。

「って、電車来たな、ほら行くぞ」

 そんな僕の腕を八雲が引っ張って行く、

 しまった! 慌てたがもう遅い。

 折角、佐賀さんから見えないホールに隠れて見張ってたのに、八雲のせいで対象相手を探すばかりか姿まで見せてしまった。

 このまま、留まると不自然になってしまう。

 尚且つ、八雲が大人しくしている筈が無い。

 はぁ……又明日か、やりきれない気持ちを抱きながら佐賀さんを見ると、僕を見て急に表情を輝かせていた。

 ま、まさかね? タラリと背中に冷や汗が流れた。

  

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