第一の願い 2
相手の佐賀さんの先回りをすべく、僕と睡蓮は先を急でいた。
途中、「金色の妖精!」等と呟かれて変に注目されるが、今日は気にならない。
――という訳もなく、何時も通りに恥かしかった。
いい加減慣れてきてもいい頃だろうけど、今日は盾になってくれる八雲や怜が居ない分、遠慮なく見られている気がした。
二人のありがたみをシミジミ実感したよ。
そうこうしている間に駅に到着した。
動物の状態の睡蓮は電車に乗れないので、小さくなって僕の肩に止まりアクセサリーのフリをしている。
伊達に玉ちゃんのしもべだった訳じゃないね。
駅の入り口が見える範囲で、相手からは見えないような柱を見つけそこに移動した。
竜胆は予定通り追跡中、此処からは相手が来るまで待機である。
心に余裕が出来たこともあり、辺りを見回してみた。
駅構内は出勤、通学時間だけあって人通りが多く忙しない。
改札を通る音、切符が販売される音が常時流れて普通に朝の一幕が展開されていた。
この中にいるのだから、僕も目立つことは……
うん、気にしたら負けだ。
そもそも、長い金髪と碧眼の女子高生というだけでも十分目立つのに、僕は二つ名で呼ばれるぐらい有名らしいのだから、隠密活動には向いていないんだよ!
さっきから、チラホラ見られているのは僕は悪くないからね!
「あの、ちょっといいですか?」
そんな中、一人の青年が近付いてきて僕に声を掛けてきた。
僕と同じ高校生で、この近辺では有名な進学校の制服を着ている。
僕の通う千代保高校もそれなりの進学校ではあるが、この男子の通っている高栄高校には敵わない。
毎年何人もの学生をT大に送りこむことで有名であった。
この人は身長も高く、爽やかそうな好青年という感じで、結構人気がありそうに見える。
「な、なんですか?」
僕がいきなり話し掛けられたことに怪訝な声を出したにも関わらず、
「そ、その……」
青年は急に体をモジモジさせて、顔を真っ赤にして言い難そうに口を開け閉めを繰り返している。
どうしたんだろ?
僕はこの状態に困ってしまう。
もし今、佐賀さんが着いてしまったら、先回りした意味が無くなる。
自分で用事があるから話し掛けてきたのだろうし、早く話して欲しいのが本音だ。
ジーッと相手を見ていたら、遂に青年は覚悟を決めたらしく、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「俺、高橋日向っていいます。初めて見た時からずっと可愛いと思ってました。良かったらメールアドレス教えて頂けませんか?」
「へ?」想定外の言葉に気の抜けた声を出してしまった。
そして、徐々にその意味が頭に伝わってくると、今度は僕の顔が真っ赤になってしまう。
八雲と怜、あの二人の告白は僕の中ではなかったことになっているので、この身になってから初めてのことに不覚にも戸惑ってしまう。
どうせなら、男のまま女の子にモテたかったよ。
「だ……駄目ですか?」
僕がすぐ返事をしなかった為に、青年、日向さんは断られると思ったらしく悲痛な目をしだした。
その目を見てしまうと僕も言い難い。
この辺りが、友達や家族をしてお人好しと言われる所以なのかもしれないね。
だけど、ここは心を鬼にして――
「ええと、その――」
「恋人なんて贅沢は言いません、友達からで構いませんので!」
日向さんは僕の言葉を遮るように続きを言わせなかった。
その必死さが僕の心を迷わせる。
本来なら即否定してしまうのが一番なのは、頭では理解しているのだ。
でも……友達でも良いということなら……
元々僕は男だったんだから、男友達が増えてもいい筈――
別に構わないよ……ね?
「……ああ、はい、友達でいいのでしたら」
そう思った僕は警戒心が抜けてしまい、つい承諾してしまった。
やっぱり甘いんだろうね。
「本当ですか! ありがとうございます!」
さっきまで暗い表情を浮べていた日向さんが明るくなるのを見ると、僕もこれで良かったのかなと少し微笑ましい気になる。
このことは八雲達に話したら又怒られそうな気がするけどね……
いや、きっと問題ないよ! 友達だしね。
その後、二人で携帯を取り出し、アドレス交換をする時になって気付いた。
「あ、私の名前をまだ言ってませんでしたね」
「え、いや、別に大丈夫ですよ。伏見桃香さんですよね? 千代保二年の」
「どうして、知っているんですか!?」
日向さんに名前を言われて、僕は目を丸くしてしまう。
その反応に、日向さんが頭をかきながら軽く笑う。
「千代保の金色の妖精、伏見桃香さん、この界隈の高校では有名になっていますからね」
「そ、そうなんですか……」
僕はあははと乾いた声を出すのが精一杯だった。
どおりで注目される訳だよ!
まったく誰が僕の噂を流してるんだろうね!
日向さんとは、「すいません、友人と待ち合わせ中なんです」とお詫びをして別れた。 その際に日向さんは少し寂しそうにしていたので心が痛んだが、なんとか、竜胆達が来る迄に間に合わせることが出来たので良かった。
ひょっとして、人の恋路を野次馬根性気分で見ようなんて思ってたが為に、天罰でこんな目にあったのかと少し反省したよ。
一応僕は神様だから……天罰って降り掛かるのか謎だけど。
「睡蓮、竜胆に今どの辺りか聞いてみて」
「判りました!」
気を取り直して、睡蓮に竜胆と連絡を取って貰うことにした。
僕が直接話すには、神力を使わないといけない――こんな大勢の前で尻尾なんて出せないしね!
睡蓮は精神会話で数秒無言になった後、首を何度か振って頷く。
「後、五分程で到着らしいです」
「了解、竜胆にもよろしく伝えておいてね」
「はい!」
睡蓮は元気に返事して、そのまま竜胆と精神会話を再開した。
「後、五分か……」
駅構内にある大きな時刻板を確認すると、いつの間にか僕の登校時間と大差なくなっていた。
日向さんと会話している間に、結構時間を消費していたみたいだ。
再び一人になった僕は再び注目度が増した気がするけど、流石に朝の時間だけあって皆忙しそうにしていてその後は平気だった。
一度あることは二度ある。二度あることは三度あるっていう感じで声を掛けられる人が増えていったら困るので時間が朝で良かったよ。
そう安堵していたら、
「桃香様来ます!」
睡蓮の緊迫する声が耳元に聞こえた。
「うん、判った」
僕は小さな声で頷き、入り口に注視した。
佐賀さんの見た目はまだ判らないので、手当たり次第今入り口から入ってくる人を監視する。
そして、数人通り過ぎた時、一人の大学生風の青年が見えた。
それだけなら、見逃してしまいそうだけど、その大学生の背負っているリュックの上に白い犬の人形みたいのが載っていたのだ。
僕の肩に居る睡蓮と同じ姿、竜胆だ。
どうやって追跡してるのかと思っていたのだが、背後のリュックに貼り付いているのだから見失う訳は無いよね。
目的の人、佐賀さんは迷うことなく改札を定期で抜けてホームに向かっていった。
僕も、ある程度距離を開けてついていく。
ここで、いくら僕でも自動改札が閉まるようなことはしないからね!
前持って定期も用意しておいたのだ。
自信が無かった訳じゃないよ!
でも、佐賀さんって何処かで見たことあるような気がするんだよね。
まぁ、同じ駅を利用してるんだからそれも当然かもしれないけど。




