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第一の願い 1

「う~ん」

 僕はベットの上に女の子座りをして、腕を組んで唸っていた。

 胡坐をかいた状態を見られると怒られるので、この座り方が今の定番である。

 何故悩んでいるかというと、それは――

 一日分の御神体に蓄えられた願い事を見ていたからだ。

 御神体には強い思いを自然に記憶する力があり、 



 ギャンブルで儲かりますように。

 ゴルフのコンペで勝ちたい。

 次の企画が通りますように。

 好きなあの娘と付き合いたいです。


   

 等々、多種多様な願い事があの小さい社にもたらされていたのが判る。

 神域の主である僕は、離れた場所に居ても、それを御神体から読み取ることが可能なのだ。

 ちなみに――これをする時も神力を使うので、尻尾と耳が出ていたりする。

 うん、誰も見てなければ僕は平気だよ!


 

 神格を上げるのに一番早いのは善行を積むことらしい。

 それには、人々の願いを叶えるのが手っ取り早いそうだ。

 僕の場合は稲荷神であることから、神社でのお願いを叶えるだけで修行となるのである。

 何も無い状態から始めなくてはいけない他の神からすれば恵まれているだろう。

「むぅ」

 困ったものだ。僕の使える神技は、現状のところ精神会話だけといっても過言ではない。

 これはこれで、神のお告げというハッタリをする時には便利だからいいのだが、実質的には己の身一つで解決しないといけない。 

 従って、難しい願い事を叶えるのは不可能なのである。

 神格が上がっていけば、幸運を与えたりすることも出来るらしいので、それまでは辛抱するしかないんだよね。

「決めた!」

 悩んだ末に選んだのは、『いつも朝、電車で一緒になるあの娘に告白したい』これだった。

 なんといっても、告白したい、だけ、というところが素晴らしい。

 両思いになるなんていう難関が無いのだから、比較的簡単だろうと思ったのだ。

 それに、僕も高校二年生、他人の恋路に興味が無いといったら嘘になるからね。


 

 膳は急げとばかりに、竜胆と睡蓮にこの願いをした者を割り出してもらうことにした。

 僕が見ている時に願い事をした場合以外は、どうしても本人を探してもらうしかないのでこればかりは二匹に頼むしかないのである。

 二匹は犬だけあって鼻が利く、この辺りも玉ちゃんが僕のしもべに選んだ理由なのかもしれないね。



 結構時間が掛かるかなと思い、ベットにうつ伏せになりながらコミックを読んでいると、

「「桃香様お待たせです!」」

 連絡用の勾玉から二匹の声が聞こえてきた。

 僕はコミックを脇に置きベットに座り直すと、勾玉に神力を込めた。

 その瞬間、ポンっという音と共に二匹が目の前に現れる。    

「お疲れ様、早かったね」

 労うように二匹の頭を同時に撫でる。

「「えへへ」」

 二匹は満面の笑みを浮かべ、更に白い尻尾を元気に動かしていた。

「いい子、いい子」

 その仕草があまりに可愛らしくて、更にしてしまうのは自然の摂理だと思うよ。

「桃香様大好きです!」

「私もぉ!」

 二匹は感極まった感じで僕に抱きついてきた。

 懐かれるのは嬉しいし、僕は二匹を同時に抱きしめてあげるのだった。


 

 ――暫く経って落ち着いた二匹は、僕から離れて探索結果を教えてくれた。


 

 相手の名前は、佐賀 隆、18歳の大学生。

 僕の家からも近い社であるし、住んでいる場所も近くだったので見つけるのは容易だったそうだ。

 とここまで判れば、アクションを起すのは明日になる。

 『いつも朝、電車で一緒になるあの娘』というぐらいなのだから、夜の今動いても仕方がない。

 二匹のどちらかに、翌朝ずっと佐賀さんに付いて貰っておき、誰が好きなのかを調べるところから始めることにしたのだ。     

 その為に、今日は少し早めに寝る準備をした。 


 

 翌日、起きると日差しが部屋に注がれており、本日が快晴なのを予感させた。

 僕の布団の中には金色のもふもふが居て、胸の辺りに張り付いていた。

 毎日見る光景に僕も慣れていたので、玉ちゃんの背中を撫でながら、なんとか引き剥がして立ち上がる。

 対象の佐賀さんが何時の電車に乗るのか判らないので、僕も事前に準備しないと拙いのだ。

 朝シャンを済ませドライヤーで髪を乾かしていると、竜胆から勾玉に連絡が入る。

 ドライヤーを一時止めて、勾玉で交信する。

 竜胆は待ってましたとばかりに話しだした。

「桃香様、容疑者Aが起きました!」

「……容疑者Aって、まぁいいけどね。それで、どれぐらいで出発しそう?」

 竜胆の言い様に少し苦笑しそうになるが、とりあえず用件を優先させる。

「うーん。そうですね。後、三十分ぐらいでしょうか? 男児の準備は簡単ですしね」

「ふむふむ、判ったよ。それじゃ、これからは睡蓮を通して連絡してね」

「畏まりました!」

 勾玉から光が消え、ドライヤーを再開させる。

 もう神力を使うこともないし、耳もなくなって、髪を乾かすのが楽になった。

 先程迄は、風が耳に当って少しくすぐったかったのを我慢していたのだ。


 

 僕は紺のブレザーにチェックのスカートという、慣れ始めた制服に着替え終えると、姿見の前でターンしながら確認する。

 金髪碧眼の美少女が写り、とても可愛く着こなせていた。

 もうスカートだってお手のもの――

 しくしく……いいんだ。男がスカートなんてとか考えたら負けなんだもん!

 鞄を抱えながら一階に降りると、父さん以外の全員が既に居て朝食を摂っていた。

 今日の朝食はトーストにベーコンエッグとコーンポタージュだが、玉ちゃんはいなり寿司を齧り、今日特別に居る睡蓮は桃を両手で押さえ美味しそうに食べていた。

 玉ちゃんと一緒に尻尾が機嫌良く動いててとても愛らしい。

 好物を出されたのだから、気持ちも判るけどね。

 ちなみに父さんは、二日酔いでまだ唸っているらしい。

 いい歳こいて何してるんだろね。

「うぅ、桃香ちゃん尻尾は?」

 僕がテーブルについてすぐ、対面に座っていた母さんが拗ねたような目を向けてくる。

「…………いただきます」

 僕は気にすることなく、テーブルに置かれていた朝食に手をつけた。

「お姉ちゃん、もふもふは?」

「……もぐもぐ」

 イチゴジャムを塗ったトーストをほおばり、美華の恨めしそうな視線も無視する。  「「ねぇ!」」

 そんな僕の煮え切らない態度に、二人が堪えきれなくなったらしく、癇癪を起したような声を出す。

 ……まだ諦めないのか。

 僕はコーヒーを一口含み、玉ちゃんと睡蓮の尻尾を人差し指で示した。

 二人は同時に僕の示す先を見る。

「えぇ! 桃香ちゃんのがいいの!」 

 玉ちゃん達を見た母さんは、すぐに顔を戻して駄々をこねだした。

「うんうん、お姉ちゃんのが一番気持ちいいんだもん!」

 美華も母さんと同じ意見らしい。

 はぁ……溜息が出る。行動がそっくりだよ――

 血のつながりって恐いなとシミジミ思うね。

 だからといって、そんな理由では僕は尻尾を出す気なんてさらさらない。

 此処まで嫌がるには訳があるからだ。

 それとは――



 僕の尻尾は、とても大きくて柔らかい。

 自分で抱けば、そのまま抱き枕になるほどの大きさでもある。

 此処まではまぁそれ程気にしなくてもいいだろう。

 しいていうなら僕が恥かしいぐらいだからね。

 問題は、僕の体質のせいか判らないけど、凄い敏感なのだ。

 女になってから肌に触られるだけでも敏感に反応してしまうのに、それ以上の刺激が僕を襲ってきてしまう。

 触られると力が抜けるぐらいだから一種の性感帯なのではないかと疑うぐらいのものなのだ。

 以前、報告がてらに母さん達に披露したら、とても気に入られて足腰立たなくなるまで尻尾を愛でられた前科があった。あの経験は悪夢だった。

 僕が止めてとお願いしても、「気持ちいい!」とかはしゃいで触るのを止める気配も無い。 

 二人の前で出すのを禁止しようと僕が思っても仕方ないよね。

「それじゃ行ってくるね!」

 僕はさっさと食べ終えたので、笑顔を残して玄関に向かう。

「私も行きます!」

 丁度桃を食べ終わったらしく、睡蓮が僕の後をとことこ付いてきた。

「おお、頑張るのじゃぞ!」 

「「けち!」」    

 その後方からは玉ちゃんの激励の声、母さんと美華の不貞腐れた声がリビングに響いていた。

 きっとあの二人は頬をリスのように膨らましているのだろうね。

 はぁ……いつまで続くのかなこれ……

少し神様っぽくなってきました。


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