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修行開始 2

 機嫌の直った玉ちゃんは僕を社の御神体に向かわせた。

 未だに僕の腕の中にいるので指示してるのみだけどね。

 竜胆と睡蓮は僕達の後をその短い足でチョコチョコとついて来ていた。

「先ずはそこにある御神体を露出させるのじゃ」

「了解」 

 僕は意地でも降りようとしない玉ちゃんに呆れながらも左腕で抱え、右手で御神体の安置されている神棚みたいなモノの扉を開いていく。

 ――中には小さな鏡があり、紫色に薄く輝いていた。

「この鏡のことだよね?」

「うむ、そうじゃ、これがこの社の御神体になる」

 へぇと関心しつつ見ていると、腕の中の玉ちゃんが頷いた。

 思ったよりも安っぽそうだとは流石に言えない。

 仮にも御神体だしね。

「それで、この後はどうするの?」

「今から、この社の所有権限を桃香に移すことにする。鏡に手が触れれるようにしておくれ」

 ……玉ちゃんのちんまい腕では抱きついたままだと届かないのは判るけど、降りればいいんじゃないのかな?

 玉ちゃんをジトーっと見てても、やはり動く気配は無い。

 実は判ってて気付かないフリをしてるんじゃないだろうか。

「はぁ、仕方ないなぁ……」

 このままだと何も起きないし、数歩近付いて、玉ちゃんの手が鏡に触れれるようにしてあげた。

 メンドクサイよ!

「よしよし、ではいくぞい!」

 玉ちゃんはそう言うと小さな手を触れられる程の距離に持っていき、むむむと唸リ出した。

 珍しく真剣な態度に少し驚く。

 そして、「ふむ!」気合を入れた声を出した瞬間、鏡から紫色の光が溢れ出し辺り一面を照射した。まるで真昼の太陽を直射した時のような光が目を襲い、余りの眩しさに目を瞑ってしまう――

「ふぅ……」

 疲れた玉ちゃんの声を聞き、恐る恐る目を開けた時には紫だった光が消失し、鈍い鏡面を持つ鏡だけが残っていた。

「今ので、所有権が僕に移ったの?」

 何もしていない僕は小首を傾げる。

「いや、違うぞい、今のは元々宿っていたワシの神力を開放したのじゃ。御神体には一つの神力しか宿して置けんのだ、つまりはワシのモノがあれば桃香の神力を弾いてしまうのじゃ」

「ふーん。そうなんだ」

「そうなんだってツレナイ反応じゃの。まぁいい、今から桃香の神力をその鏡に宿すのじゃぞ」

「う……」

 思わず僕は言葉を詰まらせた。

 その反応に、玉ちゃんが怪訝な目をして腕の中から僕の顔を伺ってくる。

 玉ちゃんが此処までしてくれてるし、引き継ぐのに神力が必要だ、と言われた時から判っていたのだけど、それをするには正常体にならねばならないのだ。

 つまり、尻尾と耳が出ちゃう訳だよね

 あの格好凄い恥かしいんだよ!

「どうしたのじゃ?」

 全く動かず困ったようにしている僕に玉ちゃんが頭の耳をピコピコさせて戸惑っている。

 うう、そうだよね。

 玉ちゃんは良かれと思ってしてくれてるんだから失礼だと思う。

「あ、うん、なんでもないよ。ちょっと恥かしいだけ」

「恥かしいじゃと?」

 玉ちゃんは全く心当たりが無いらしい。

 まぁ、あの格好は玉ちゃんからすると当たり前だもんね。

「ええとね、僕はまだ尻尾と耳があるのは恥かしいの……」

「なんじゃそんなことかい――慣れるしかないじゃろ。そもそも神であるワシらの姿を笑う不届き者等はおらんじゃろうて」

「そ、そうだよね……」

 一応そう返事をしたけど、僕的には納得した訳じゃない。

 人前では絶対変身? 出来ないよ!

 だけど今此処に居るのは玉ちゃん、竜胆と睡蓮という神族に関係する者達しか居ない。

 誰にも知られることはまず無いだろう。

 ならば、このまま何もしないと無駄に時間だけが過ぎていくだけ、僕は夕方のアニメ迄には帰りたいのだ。

 覚悟を決めた僕は、自分の中にある神力を活性化させた。

 全身に流れる力を循環させお腹の辺りから出して、外に放出する感じである。

 垂れ流しは勿体ないから体に纏う感じで神力を留める。

 それに伴ない僕の体にも変化が伴なわれた。

 制服のスカートの下からは大きな黄金色の尻尾が現れ、頭には可愛い耳がチョコンと載っているのが御神体の鏡に映っていた。

「「桃香様の尻尾綺麗です!」」

 すると、背後からお供達の叫びが聞こえてきた。

 その声に驚いて僕が振り返ると 睡蓮と竜胆が尻尾を振って歓喜している。

「うう、そうかなぁ?」

 まだ慣れてないこの姿につい照れてしまう。

「ええ、艶々してて羨ましいです!]

「やはり私達の主です!」

 二匹にそこまで言われるとちょっと嬉しくなってくる。

 一応尻尾も僕の一部だからね。

「桃香様少し触らせてもらってもよろしいですか?」

「うん? 別にいいよー、はい」

 小さい睡蓮が触りやすいように尻尾を膝の前に出して垂らすと、睡蓮が体ごと纏わり付いてきた。

「ふかふかですぅ!」

「ふにゃ……」

 僕はくすぐったいような痺れる刺激につい声を漏れてしまう。

「ああ! 睡蓮だけズルイ! 桃香様私もいいですか?」

 睡蓮の幸せそうな表情に竜胆までもがおねだりしてくる。

 正直、睡蓮だけでも十分しんどいけど、大きな目を潤ませて頼まれると断りきれない。

「あ、うん良いけど、優しくしてね――」

「ありがとうございます!」 

 竜胆は僕の台詞を聞き終わると同時に、睡蓮と反対側から体を擦るように纏わりついてきた。

「はぅ! やん! ちょっと竜胆、睡蓮強いよぉ!」

 二匹同時の刺激は予想以上に力が抜けて甘い声が止まらない。

「気持ちいですぅ!」

「良い匂い!」

 白い尻尾を振りながら、くりっとした大きな目を輝かす二匹。

「や、止めてってばぁ! こらぁ、怒るよぉ!」

「桃香様大好きですぅ」

「私もです!」

 二匹は僕の尻尾に夢中で全然聞いてない!

「ほぉ……楽しそうだのぉ?」

 そんな中、底冷えする程の冷たい声が僕の胸の辺りから聞こえてきた。 

 ギクっとして、二匹は固まる。

 まるでその冷気に当てられたかのようだ。

 同時に僕も救われる。

 はぁはぁはぁと僕の吐息の音だけが辺りに流れていた。

「今はやることがあったのでなかったかのぉ?」

 玉ちゃんの嫌味にギクギクと二匹は体を振るわせている。

「玉ちゃん、そう苛めちゃ駄目だよ。竜胆と睡蓮だって悪気がある訳じゃないんだし」

 その間になんとか立ち直った僕は、二匹を威圧してる玉ちゃんの耳を撫でながら、それ以上責めさせない為に、僕の方に顔を向けさせる。

「ふむ、まぁ桃香がそう言うならいいのじゃがの」

 それだけで機嫌が直る玉ちゃん。判りやすいんだから。

 僕に助けられた二匹は、渋々という感じで僕の尻尾から離れたが、まだ諦めきれなそうに僕を見ていた。

 うちの母さんと美華もメロメロだったし、ある意味僕の尻尾は凶器だね!

 自分も刺激でヘロヘロにされるというモノだから、武器としては役に立ちそうにないけど……

 とりあえず、今はやることをやっちゃおう。

 そう気分を切り替える。

「それで玉ちゃん。どうやって僕の神力を御神体に注げばいいの? さっきの玉ちゃんみたいに唸ってればいいってことは無いのでしょ?」

「あれは……はぁ、まぁいいわい、さっきワシがやったように手を鏡に触れるぐらいの距離にかざしてみるのじゃ」

 呆れて疲れたような声を出されたよ?

 軽い冗談なのに……

「うん、こうだよね」

 僕は言われたように手を鏡の近くにかざす――

 すると、一瞬にして御神体の鏡がピンク色に輝きだした。

 へっ?

「よし完了じゃ!」 

 こんがらがっている僕とは違い、玉ちゃんは満足そうだ。

「い、今ので終了?」

 態々尻尾と耳を出したのに、あっけなすぎるよね?

「ああ、そうじゃ、桃香の神力は容量が多いから一瞬じゃったが、神力が少ないものはこれだけでも一日や二日も掛かるんじゃぞ」

「そうなんだ……」

 誉められてるとは判るけど、実感が沸いてこない。

「これで、この社は桃香の神域となったわけじゃ、後は願い事をしてくれる人を待つのみじゃな、阿、吽、きちんと桃香を助けるのだぞ」 

「竜胆です!」

「睡蓮です!」

 二匹の非難の声が静かな社の境内に木霊した。


これで下準備完了ですかね。

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