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修行開始 1

 めでたく神術を使えるようになったけど、これを行使するのには弱点があった。

 それとは、神力を消費することにより、体に負担が掛かるというお決まりの展開ではない。

 前に玉ちゃんから言われたように僕の神力は多いらしいのだ。

 普通の神術を使う程度なら、ダム湖の水をちょろっと放出するようなもので好きなだけ行使出来るらしい。

 なら、何が問題かというと……神術を行使すると尻尾と耳が出てしまうのだ。

 いや、それは正しくないかもしれない。

 尻尾と耳がある状態が正常であるのだから、その状態じゃないと使えないのである。

 酷い話だと思う。

 だって、この格好目立つから、とても恥かしいもの……

 更に問題があって、下着に穴なんて空いてないのだから、尻尾が出ることでずり下がってしまい半分お尻を出した状況になってしまうのだ。

 幾ら尻尾が大きくてその部分が隠れているといっても、これでも僕は立派な乙女? あれ、立派な……まぁそこは置いておいて、破廉恥な行為なんだよ!

 最初から穴開けて尻尾出しとけばみたいなことを思うかもしれないけど、目立つだけでなくこの尻尾の破壊力は抜群過ぎで無理だった。

 さっき、朝ご飯がてら母さんと美華に見せた処、喜々として黄金色の尻尾を陵辱されたのである。

 すごい敏感な部分を、ねちっこく弄られた為に、朝からぐったりすることになってしまったのだ。

 これは、見せてはいけないと僕が思うのは当然だよね。

 ということで、僕は部分変化を常時掛けておくことにした。

 まぁ、僕の場合はベースが人間だから、元の形にしただけなんだけど。

 後、この術を極めていくと、完璧な狐にもなれるらしいよ。

 きっと僕の狐は可愛いに違いないね。



 放課後に神様修行を始めるということで学校には普通に登校させられた。

 起きてからずっとワクワクしてるぐらいだし、勉強なんて頭に入らないと思うんだけど、神たるものが不真面目ではいけないとかなんとかで行かされたのである。

 母さんの意向が働いていると勘ぐってしまうのは僕だけじゃない筈だ。

 だって、それを言っていた時の玉ちゃんが油揚げを口にしてたんだもの。

 仕方ないので、果報は寝て待てって言うぐらいだし、楽しいことを取って置くのはいいことだと自分を慰める。

 弁当の好きなおかずを僕は最後まで取って置く派だしね。

「ふふふ」

 そう、登校してすぐ、教室の自分の席で放課後のことについてあれこれ想像していると、

「桃香、妙に機嫌がいいな。何かいいことでもあったのか?」

 八雲が近寄ってきて怪訝な表情を浮べながら訊ねてきた。

「気のせいだよー♪」

 一応誤魔化すつもりだけど、言葉の端が緩んでしまうのは仕方ないよね。

 正直者は辛いよ!

「そうか、ならいいや」

「え、いいの?」

 だけど、八雲にあっさり話題を終了されると不満が募る。

 どうしてもって言うなら教えてもいいかなぁって思ってたのに、なんだかなぁだよね。

「おう、いいぞ、どうせ桃香のことだから下らないことだろうしな」

 むか! 言うにことかいてそれが理由か!

「わたしの話のどこが下らないのかな?」ジトーと睨む。

「おいおい軽い冗談だろうが、すぐ怒るってことはまさか生理か?」

 八雲が肩を竦めて呆れているけど、僕は悪くない!

 尚且つ、せ、生理とか……そんなもの僕にある訳がないよ!

 あれ? ないよね……あるのかな? 辛いって話だし……どうなんだろ――

「おーい、本当に生理なのか?」

 僕が返事もせずにむぅっと唸ってた為に八雲の勘違いが加速している。

「違うよ!」

 これは否定しとかないと。 

「だったら、なんだよ? アレか? ドジだから電車で次の駅まで乗り過ごしたのに憤りを感じたとか?」

「……八雲さ。幾らわたしだって電車で乗り過ごすなんてことはしたことないよ」

 本に夢中になってて、気付いたら隣の駅だったなんてことがあったのは内緒だよ。

「そかそか、幾ら桃香でも、本でも読んでない限りは大丈夫だろうしな」

 お前はエスパーか! 

「……そ、そんなことないからね!」

「その焦りようからして今日じゃないけど、本当にあったみたいだな、でも桃香が可哀想だから無かったことにしてやるよ」

 頭をポンポンと叩かれた。

 馬鹿にされてるよ!

「煩いなぁ! 偶には別の世界を探検しないと、新しい発見はないんだよ!」

「そかそか、今度は迷子にならないように八雲お兄さんと一緒の時にするんだよ、約束だからな」

 挙句に頭を撫でられる。

 むーかーつーくー! でもちょっと気持ち良いとか思ってないからね!

「髪が乱れる!」

 パンと頭の上の八雲の手を叩いてどかすと八雲が手を痛そうに撫でている。

「暴力反対! 大体桃香の髪って金色で綺麗だけじゃなくて触り心地抜群なんだから少しぐらい、俺にもおすそ分けしてもいいだろうが」

「……なんで僕の髪を八雲におすそ分けしないといけないのかな?」

「ふ、判らんのか?」

 自信満々の八雲に戸惑う。

「判る訳ないよ! 只の痴漢行為としか思えないね」

 八雲はチッチッチと顔の前で指を振る。

「ふっ、所詮桃香もその程度だったということか――」

「更に意味不明になったんだけど」

「しょうがないなぁ、ならば言おう! 俺のモノは桃香のモノ、そして桃香のモノは俺のモノ、夫婦の財産は活かしあうものなのだ!」

「…………」

 八雲は格好よく決めたつもりらしいけど、僕は余りの馬鹿さ加減に開いた口が塞がらない。

 いつ夫婦になった! それ以前に恋人になった記憶すらない。

 更に言うなら、なんで僕が八雲と付き合わないといけないんだ!

「八雲さ、悪いこと言わないから、病院行きなよ……今ならまだその馬鹿も治る可能性があると思うんだ」哀れなものを見るように諭してあげた。

「ふむ、桃香と一緒なら病院に行くぞ。やはり産婦人科に行くのは一人じゃ心細いだろうしな」

 ……僕は無力だ。

 というか、生理や産婦人科とかなんで朝からそんな話ばっかりなのかな!

 助けてよ怜! 

 こういう時、八雲の暴走を抑えてくれるもう一人の幼馴染を頼ろうと怜の席を見るとまだ席は空だった。

 今日は珍しく登校する時間に居なくて、そろそろ来ているのかと思ったのだけど……


 

 結局、怜が学校に来ることはなかった。

 八雲の馬鹿さが二倍増しになったのは言うまでもない。



 放課後になり、家の近所にある小さな社に向かった。

 神様の修行というのは、簡単に言うと人々の願いを叶えることなのだ。

 見習い中の僕に多数の願いを叶えるなんて出来る訳も無く、小さなことからコツコツとはじめるに手頃な場所ということらしい。

 昔から知っているその場所は、百坪も無い小さな土地に、赤い社と入り口を守る狛犬の像しかない処である。

 住宅街の中にポツリとあり、そこだけ木々が溢れているがちゃんと掃除が行き届いているのか荒んだ雰囲気も無く清らかな感じのする場所だった。


 

 ――到着した僕が入り口近くの狛犬の像を横切ろうとすると、ポンっという音をさせしもべの竜胆と睡蓮が僕の目の前の地面に現れた。

 二匹は白い尻尾を振り、目の淵の青とピンクの模様の中にある瞳を嬉しそうに輝かせている。

「「桃香さま!」」

「あっ、竜胆、睡蓮こんにちわ」

 僕はしゃがんで二匹の頭を撫でる。

 二匹の尻尾の勢いが更に増しブンブンと音が聞こえる程だ。

「「桃香さまもっとしてくださいー!」」 

「あはは、仕方ないなぁ。少しだけだよ」

 二匹に甘えられた僕も、これだけ喜ばれると気分は悪くない。

 頭から尻尾までを撫でてあげるとクゥンクゥン言いながら僕に体をすりよせていた。

「ええのぉ、お前等は。ワシも桃香にしてもらいたいのぉ」

 すると、拗ねたような声が赤い社の方から聞こえ、階段の前に金色の体を丸めて体から顔だけを此方に向けている玉ちゃんに気付いた。 

 待ち合わせしたのが玉ちゃんなんだから、居て当然だった。

「玉ちゃんはいつもやってあげてるでしょ? 今日は竜胆と睡蓮の番だよ」

 僕も玉ちゃんに顔だけ向けて諭すよう言う。

「な! ワシよりそやつらのほうが大事なのか!」

「どっちも大事だよ。玉ちゃんのは我が侭でしょ!」

「「と、桃香さまぁ……」」

 僕と玉ちゃんの言い合いに、竜胆と睡蓮は私達は大丈夫ですみたいな遠慮する目を向けてきたけど、僕は気にすることなんてないよと優しく微笑む。

 沈んでいた二匹の表情が明るくなった。

「桃香様は優しいです」

「エロ、いえ玉藻様とは大違いです」

 竜胆はまだしも、睡蓮、今エロ狐って言おうとした? やっぱりそうなの?

 ジトーっと玉ちゃんを見てしまう。

「桃香その目はなんじゃ。そして、お主等! ワシが散々可愛がってやった恩を忘れたのか!」

 玉ちゃんに責められ二匹は首を縮ませて耳をシュンとさせた。

「玉ちゃん! 竜胆と睡蓮を苛めちゃだめ!」

「ワシは苛めてなどおらん! 桃香が悪いんじゃ!」

 玉ちゃんはぷぅっと頬を膨らまして横を向いてしまう。

 まるで子供みたいな反応だ。

 もう仕方ないなぁ。

「竜胆、睡蓮ちょっとゴメンね」

 僕は二匹の頭に軽く触れた後立ち上がり、その脇を抜けながら社の階段に座る玉ちゃんに向かって近付くと、丸まっている玉ちゃんを胸に抱きかかえる。

 そして、頬で玉ちゃんの頭をスリスリしながら、喉元をくすぐってあげた。

 それまでは無反応だった玉ちゃんはすぐに僕の胸に顔を押し付け甘えるような仕草をとる。

「折角桃香の為に待っておったのに、ワシを放置するとは酷いもんじゃ」

「玉ちゃんありがとね。わたしが玉ちゃんをないがしろにする訳ないじゃないの」

 ニッコリと玉ちゃんの目を見る。

「どんなもんじゃか、さっきだって竜胆と睡蓮に夢中だったじゃないか」

 めっちゃ拗ねてるよ!

「そんなことないって、玉ちゃんが大好きなんだからさ」

「……本当か? それなら誰が一番好きなんじゃ……」

 はぁ……そこまで僕に言わせたいのかな?

 軽く竜胆と睡蓮を横目で見たら、僕の考えを理解できたらしくお願いしますとばかりに頷いている。

「玉ちゃんが一番だよ。ほら、その証拠に抱きかかえているのは玉ちゃんだけでしょ」

「そ、そうか、そうじゃな! ワシとしたことが不覚じゃったわ!」

 今の一言で急に元気になった玉ちゃんは耳をピコピコさせて喜んでいる。

 単純で良かったよ。

 それに、二匹が良い子で助かるね。

 今から修行する筈なのに、もう疲れた気がするよ。はぅ。

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