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神術 

「さて、今から神術の勉強をしてもらうが、心構えは大丈夫かの?」

 幾分朝日のおかげで部屋が暖かくなってきていた。

 僕のベットの上では、お尻を付けて座る玉ちゃんが偉そうに胸を張って尻尾を立てている。

 僕は玉ちゃんお気に入りのクッションに腰掛け見上げる形で瞳をキラキラさせて話を聞いていた。 「うん、やっとわたしも狐火や、神隠しのようなカッコイイ技が使えるんだよね、早く教えてよ!」

「え……そ、そうじゃな」

 あれ? 玉ちゃんが目を逸らした。

「どうしたの? わたしの溢れる好奇心は張り裂けそうだよ!」

「ああ、うん、それは判ったのじゃが……」

 未だに目を背けたままだし、初めの勢いが何処かに消えている。

 尻尾も何時の間にかシュンと垂れ下がっていた。

「もぉ焦らさないでよ。出来るんだよね? 神の術なんだから?」

「そうなんじゃが……その、余り期待しすぎないようにな……」

 僕の催促にやっと玉ちゃんは教えてくれそうだが、乗り気では無さそうだ。

「うんうん、それでどうすればいいの?」

 多少気になるけど、女にされたおかげで二人の親友からは求愛されるし、妹の美華からも八雲の件で叱られる始末。

 稲荷神になって初めて良かったと思う魔法が使えるんだから待ちきれないよ。

 僕は頑張って耐えたよね!

「それではいくぞ――まず今着ている服を脱いで全裸になるんじゃ!」

「うん、判ったよ!」

 早速、来ていたパジャマに手を掛けて上から順にボタンを外し出す。

 寝る時はノーブラだった為、すぐに白く柔らかい双丘が現れた。

 巨乳という程じゃないけど形は良いと思うんだよね。

 大事なところはパジャマに引っ掛かっていてまだ見えては居ない。

「――本当に脱いじゃうんかい!」

「え?」

 玉ちゃんのツッコムような声に、僕の手も止まる。

「急にどうしたの? 神術を使うのには必要な行為なんだよね?」

「いや、そのな……ワシとしては、そんな恥かしいことなんて出来ないよ! とか言われて、中断される予定じゃったのじゃが……」

「それって……服を脱げっていうのは冗談なの? 酷いよ玉ちゃん!」

 凄い恥かしいのを我慢してやってたのに、ありえないよね!

「いや、そのな……脱ぐ前に気付いて欲しかったのじゃがな……」

「だったら、ボタンを外す前に言ってよ! 僕の裸を見たかっただけなんじゃないの? 

このエロ狐!」

「エ、エロ狐じゃと! この稲荷神たるワシになんたる暴言を!」

「わたしだって稲荷神だから同じだもん!」

 玉ちゃんは大きな尖った歯を何回も鳴らしてプルプル怒りで震えている。

「ワ、ワシの気持ちも知らんで、よくもそう言えたもんじゃ! この親不幸者が!」

「親だったら、エロいことしないで真っ当な処を見せて欲しいよ。さっきだって僕の胸に顔をこすり付けてくるし、エロ狐そのものじゃないか!」

「あ、あれは桃香の胸が柔らかいばかりでなく、良い匂い迄させているのだから仕方ないじゃろが!」

 それ、何か違う!

「つまり、エロ狐ってことだよね! もう抱きしめてあげない!」

「まだ言うのか! それに抱いてくれないとは……折角ワシが桃香が傷つかないように気を使っていたというのになんじゃい! もう知らん――」

 玉ちゃんはそう言うと、遂にはフンとそっぽを向いて拗ねだした。

 尻尾を不満そうに振っている。 

 ――僕の為? どういうことだろうか?

 さっきは売り言葉になんとやらで怒ってしまったけど、冷静になれば玉ちゃんが僕に不都合なことする訳無いのだ。

 これは言い過ぎたかもしれないよ。

 僕が謝るべきだよね――

「ええとね、玉ちゃん。わたしが悪かったよ。機嫌治してぇ~」 

 猫撫で声、僕は狐だから狐撫で声を出して位置的に玉ちゃんを上目遣いに見る。

「ふん、もう遅いわ、今迄生きてきてエロ狐なんてはじめて言われたわ。罰当たりな話じゃ」 

 ベットを揺すってスプリングをミシミシさせて怒りを現している。

 うわ、全然駄目だね、困ったなぁ。

 玉ちゃんが言われて嬉しいことっていうと――そうだ!

「ねぇ玉ちゃん。大好きだから遠慮なく言えるんだよ。それだけ親しい証拠みたいなものだよね」

「むぅ――大好きとな? じゃが、そんなことでは騙されぞ?」

 顔はまだ不服そうだが、玉ちゃんの耳がぴょこっと立った。

 これは、効果あるかも!

「一番大好きなんだよ? 僕が甘えれるのは玉ちゃんしかないんだよ!」

 最近の情勢だと母さん達はスパルタだから、玉ちゃんしか憩いが無いのは真実だ。

「ふむ――そこまで桃香が言うなら、先程の件は無かったことにしてもいいが――今迄みたいに抱いてくれるんじゃろな?」

 玉ちゃんはそれだけは譲れないらしく、ジーと確認するように僕を見ている。

 ……そこまで抱いて欲しいとはね。

 減るもんじゃないし、僕も玉ちゃんのもふもふで気持ちがいいから、問題がないといえばそうなんだけど……どうも釈然としないものがあるよ。

 かといって、ここで駄目と言うと又拗ねるよね。

 偉い神様の筈なのに、子供の相手をしてる気がする。

 仕方ないなぁ……

「玉ちゃんだから特別にいいよ。これでいいの?」

「うむ! 満足じゃ!」

 僕が安心させるようにまっすぐ玉ちゃんの目を見て言うと、玉ちゃんの顔が太陽のように輝きだした。

 とても嬉しそうだ。

 やっぱりエロ狐の方が相応しい気がしてくる。

「それで、話を戻すけど、どうして玉ちゃんは僕に教えたくないの?」

「いや、教えたく無い訳ではないんじゃ……そのな、桃香が期待しすぎてるから落ち込みそうだと思ってじゃな……」

 少し歯切れが悪いね。

「ふーん、良く判らないんだけど、まさか、狐火とかって出せないの?」

 それだと、少し残念だよ。ロマンが無いもん。

「いや、それは無い。現にワシは使えるからな――但し、桃香にはまだ使いこなせないのじゃ。最低でも尻尾が二本になるまではな」

「つまりは、今の時点じゃ使えないから、はしゃいでる僕を傷つけたくなかったってこと?」

「そうじゃ……」

 なるほどね、玉ちゃんの優しさが良く判るよ。

「ありがとね玉ちゃん。でも、いずれは使うことが出来るんだよね?」

 これ重要!

「ああ、桃香が神格を上げていけば自然と使えるから、安心せい」

 ちょっとほっとする。

 これで僕だけ無理は悲しすぎだよね。

 となると、現時点で何が使えるんだろう?

 初めみたいに期待し過ぎないように自分の心を自制する。

「判ったよ。それなら玉ちゃんは僕に何を教えようとしてたの?」

「ああ、あれはの――」



 玉ちゃんの説明はこうだった。

 現時点の僕は見習い稲荷神みたいなもので、神力を発揮する門が狭いらしい。

 神力という水の入っている穴の開いた大きな容器を想像してもらえば判りやすく、神格を上げることでその門である穴が広がっていくそうだ。

 狐火や、神隠しのような技を使えない理由は、一時的に消費する神力がある程度纏まって必要な為、門が狭いままでは神力不足で発動しない。つまりは失敗になるのだ。

 世の中簡単にはいかないものだね。

 さてそんな中、今の段階で僕が使える神術は、


 

 部分変化――人間体に戻すこと。

 簡単に言うと、耳と尻尾を引っ込めることが出来る。


 

 精神会話――離れた相手に自分の意思を伝えることが出来る。

 誰かを脅かす時に便利だね! 


 

 以上!



 地味だ……しかし、神格が上がれば変身や、分身等も出来るようになるらしい。

 僕の戦いはここからだよ!



 END 



 とはならないからね!


  

初期の神術を悩んだのですが、最初はこの二つにしときました。



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