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学校が始まった…… 5

「いやー、良く歌ったよね。久々のカラオケ楽しかったよ!」

「そうですね。又行きましょう桃ちゃん(二人っきりで)」    

「おう、楽しかったな(次は二人だけで)」

 カラオケから出た僕は大満足だった。

 ニ時間で入ったのに、つい楽しくて一時間延長したぐらいなのだ。

 怜と八雲の台詞からも楽しんだのが伺い知れる。

 最後の方は聞き取れなかったけど、きっと気にしない方がいいよね。

 うん、僕の勘が訴えてるもの。神の勘は信じないと!

「でもあれだな、此処のカラオケの採点オカシイよな?」

「そう? わたしは素晴らしく良く出来たシステムだと思うけど」

 八雲が顔を顰めているのを見て、僕は思い出し笑いを浮べる。

「だったらなんで桃香が920点で、俺が780点しか出ないんだよ、故障以外あり得ないって」

「きっとあれだね。わたしの美声がカラオケまでも魅了したんだよ。機械は嘘付かないもんね」

「ええ桃ちゃんの声は綺麗ですから聴いてても和みましたよ」

 怜がニッコリと賛同してくれた。

「うわ、そうやっていつも怜は桃香の味方して、大体お前だって点数低かっただろうが!」

「そんなことはありませんよ? ボクの最高得点は850点でしたしね。八雲が音痴なだけなのです」

 八雲の文句に怜は心外ですとばかりに肩を竦めている。

「むむむ、そうかこれがあれか、オリジナルの歌手が歌っても高得点が取れないという奴だな。じゃなければ桃香が一位とか変だもんな」

 失礼な!

「八雲、ひがみ根性は良くないよ。素直にわたしの美声を讃えなよ!」

「ふん、そんなことするか。どうせならその美声は俺の腕の中に居る時に聞かせてくれ」

 ……又馬鹿が始まったよ。どうしてそう頭がお花畑なんだろうね。

 ああ、そうか今は春だしぴったりなのかもしれない。

 八雲に可哀想な子を見る目を向けていると、

「八雲死になさい。桃ちゃんの貞操はボクが守ります!」

 怜が代わりに怒ってくれた……だけど、貞操って――

「ふん、俺と桃香は愛し合ってるのだから、いずれ合体するのは決定事項だ。怜にとやかく言われる筋合いは無いな」

「誰と誰が愛し会ってるのですか! 八雲に取られるぐらいなら、ボクが頂きます!」

「何をだよ?」

 怜が肩をわななかせて怒りに震えているのを八雲が皮肉めいた口調でからかっている。

 怜もそれは判っているのだろうが、もう後には引けないみたいだ。

「も、桃ちゃんの初めてです!」

 顔を真っ赤にしながら宣言した。

 一方の僕はというと、身の危険を感じていた。

 し、処女を貰うとか……人の体を何だと思っているんだと声を大にして言いたいね。

「あーあ、怜は鬼畜だよな。桃香が恥かしそうに俯いてるぞ?」

 八雲に言われなくても判っていた。

 すごい顔から熱を感じていたのだから。

「あ、すいません桃ちゃん。大丈夫ですか?」

 怜が慌てて僕の肩に触れようとするのを、「やっ」思わず身を引いて避けてしまう。

 手が空を切った怜は自分の手を見て唖然としている。

 赤かった怜の顔が真っ青になっていた。

「やっぱりむっつりメガネだよな、鬼畜おにちくって怜みたいな奴のことを言う単語だろ」

 八雲の追撃にも怜は無反応だ。少し心配になってくる。

 お陰で僕も冷静さを取り戻した。

 そもそも、怜に限っては僕の嫌がることをする筈がないし、八雲が言いすぎなんだよね。

「八雲煩い。怜を苛めちゃだめだよ。大体、八雲が馬鹿なこと言うからだからね!」

「俺は本音を語っているだけだぞ、桃香の事が好きだからな」

 全然反省してないし、裏表の無い性格は好きだけど融通が効かないんだよね。

「ああ、もうわたしのことはいいの! 怜に謝るように!」

「えええ、なんでだよ? むっつりメガネってそのまんまだろ?」 

「いくら、そのまんまでも、言い方ってものがあるんだよ!」

「そのまんま……」

 怜の肩がピクリと動いた。そして、しゃがみ込み地面で『の』の字を書き出した。

 更に落ち込んだよ!

「全部八雲が悪い! 八雲反省!」

「止めを刺したのは桃香だろ?」

 う、そんな気もするけど、ここは負けちゃ駄目だ。

「八雲のせいなの!」

「うわ、めっちゃ横暴だよ――ああ、もう判った! 俺のせいだよ。悪かったな怜」

 僕がジーと睨んでいたら、八雲も遂に折れたようで嫌々ではあったが詫びを入れた。

 しかし、怜はまだ立ち直らない。

 『の』の字から、『ぬ』の字に進化していた。

 ……これは、どうしたものだろうか?

 怜が落ち込む原因は、八雲のせい、これは間違いないだろう。

 僕が触れるのを拒否したなんていうのは通販のおまけで、同じものがもう一個貰えるぐらいどうでもいい筈。

 すると……八雲の侘びが足りないのか!

「八雲土下座!」

「はぁ? なんでそこまでしないといかんのだ。しゃくだけど桃香が怜にちょっと触れてやれば治るだろ」

 おかしい、同じ高枝切り○サミが二個貰えても僕は嬉しくないのに……

「いや、きっと八雲の反省の心が届いてないんだよ」

「いいや、絶対桃香に嫌われたと思ってるんだろこれは」

 八雲の嫌われたという台詞に怜が再びピクリと体を動かし、今度は『ね』の文字を書いている。

 の、ぬ、ね、関連性が判らないけど、書き終わる時間だけは長くなっていく。

 ただし、その言葉に反応するというならば、僕が何とかすれば元気になるのだろう。

 うーん。効果ないと思うんだけど――

「ほら、怜元気だしてよ。いつもの怜に戻って欲しいなぁ?」ニパッと笑顔を向けてみる。

 すると……効果は一応あったのか、顔を地面から持ち上げて僕の方を見ている。

 後少しみたいだ。

 もぉ、世話がかかるんだから。

「ほらほら、怜立ち上がってよ」

 僕が怜に立ち上がりやすいように手を差し出すと、怜の視線が僕の手に集中した。

「あ……ありがとうございます」

 恐る恐るという感じで動かす怜の指が僕の手に触れる瞬間、それを外すなんて茶目っ気をしようか迷ったのは内緒だよ。

 怜は僕の手を力強く握り、自分の体を立ち上がらせる。

 いつのまにかとてもイイ顔になっていた。

「もう大丈夫?」

「ええ、何のことですか? ボクはいつも元気ですよ」

 一応心配だったので尋ねると、怜はメガネを指で直し普段通りの表情を見せた。

 何故か手はつながれたままだけどね。

 軽く、振っても離れそうにない……

 うーん。まぁ、いっか。そう諦めそうになった時、

「おい、そこのエロメガネ、さっさと桃香から手を離せ!」

 八雲の叱責が飛んだ。

「誰が、エロメガネですか!」

 怜は文句を言うものの、手を離す気は無いようだ。

「だったら、桃香の手を離せ、俺だって繋ぎたいんだからな!」

「そんな八雲の都合なんて知りませんよ」

 怜は何処吹く風だ。

 先ほど、避けてしまった僕的には少し悪い気がするから、このままでもいいんだけどね。 

 怜が僕に悪さする訳ないし。

 八雲なら――うん、危険だ。あれは野獣だから気をつけないと。

 ああ、でも僕も狐の一種だし、うーん。そうだと…… 

「だったら、桃香の意見はどうなんだよ?」

「桃ちゃんが嫌な訳ないじゃないですか!」

「――え、うん? 何のこと?」

 考え込んでいる間に、話は進んでいたらしくさっぱり判らなかった。

「だ、か、ら、怜と手を繋ぐのを止めたいだろ?」

「別に嫌じゃないですよね? 桃ちゃん」

 八雲は当然の如く、怜は期待するように僕を見ている。

「うーん。別にこのままでも困らないけど動き辛いかな?」

 そろそろ、完璧に立ち直ったみたいだし、怜も大丈夫だろう。

「そ、そうか」八雲は何処か不満気な返事だ。

「判りました。確かにそうですよね!」

 その一方、素直に手を離してくれた怜は嬉しそうにしている。

「なんかさ、桃香って怜に甘いよな。偶には俺にも優しくしてくれよ」

 すると、今度は八雲が拗ね出した。

 次から次へともう!

「わたしはいつも優しいと思うけどね」

「確かに桃香は優しいよ。でもなんか女になってから冷たい気がする!」

「そう?」

 八雲の言動が馬鹿なだけだと思うけど、少しドキッとしてしまった。

 差別してる気はまったくないのだ。

「そうだよ! なら今度は俺の番だよな」

「へ?」

 八雲は僕が油断しているいる間に、僕の片手を握るとそのまま歩きだした。

「ちょ、ちょっと危ないよ!」

 急に動きだしたものだから、ふらついてしまう。      

「ほらほら、エロメガネは置いてさっさと帰ろうぜ、そろそろ暗くなるしな」

「あ、うん。帰るのはいいけど、皆で帰ろうよ」

 八雲がそのまま進むものだから、連れられるように歩かされる。

「こら! 八雲なんてことを!」

 怜からも非難の声が聞こえたけど、八雲は気にしていないようだ。

 はぁ……二人共子供みたいだよね。

 昔から、よく取り合って喧嘩してたのは知ってるけど、なんで今回は僕なのかな。

 第一、僕の意思は何処にいったの!


 

 八雲はなんだかんだですぐに、僕の手を離してくれた。

 あのままずっと歩いているのは恥かしかったから助かったよ。

 家の方に向かって進んでいると、近くの公園に差し掛かったところで、二人連れの女の子が見えた。その内の一人は見慣れた後ろ姿だ。

 私服のチュニックワンピースとチェックのパンツルックという格好をしていた。

「あれって? 美華ちゃんじゃないですか?」

 怜も気付いたようで僕に確認してきた。

「うん、そうみたいだね。美華は明後日入学式だから遊びに行ってたのかな」

「ああ、うちの学校でしたっけ? 納得です」

 僕と怜が話している間に、   

「おーい、美華」

 八雲が声を掛けていた。

 呼ばれて振り返った美華が急に目を輝かせる。

 そして、八雲と一緒に居る僕に驚き、怜に気付くとペコリと頭を下げた。

 すると美香はすごい勢いで僕に近付いてくる。

「お、お姉ちゃん! ちょっと!」

「え?」

 そして、その勢いのまま僕の腕を握って少し離れた公園の方まで引っ張っていかれた。

 残された美華の友達や八雲と怜は何事だろうという視線を向けている。


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