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学校が始まった…… 4

 そのまま、八雲、怜の二人と一緒に帰り、今は家の最寄駅に到着したところだった。

 僕達三人は家が近所なので、帰り道はどうしても一緒になるのだ。

「桃ちゃん、これから時間はありますか?」

 改札で定期を使って抜けた後、怜が僕に尋ねてきた。

「うん? これから家に帰ってPCで遊ぶぐらいだよ」

「そうですか――」

 僕の返答を聞いた怜は何処か嬉しそうだ。

「おお、なら、これからちょっと遊んで帰ろうぜ!」

 しかし、八雲が乗り気で会話に加わってくると、怜の雰囲気が一変した。

「八雲はさっさと帰りなさい。邪魔ですよ」

「なんじゃそりゃ! 俺も桃香と遊びたいぞ! 春休みの間、家庭の事情とかなんとかで会えなかったんだからな」   

「それは、ボクも一緒です。なので、桃ちゃんと二人きりにして欲しいのですがね」

「ま、まさかお前、やましいことをしようとしてるのか!」

 八雲に疑う視線を浴びせられて、怜が慌てる。

「そんなことしません。ボクは純粋に桃ちゃんと二人でいたいだけです!」

「うわ、それはアレだろ? デートしたいとか思ってるんだよな。これだからむっつりメガネは恐いわ」

「誰がむっつりですか!」

「まぁまぁ、二人共落ち着きなよ。周りから見られてるよ?」

 二人が喧嘩を始めそうになるのを、僕はヤレヤレと肩を竦めながら宥めることにした。

 女になったのが恥かしかったのもあるけど、修業とやらをしていたせいで時間が無くなり、二人と今日迄会えなかったのだから、少しは僕にも罪悪感があるのだ。

「そうですね。八雲静かにしなさい」

「ああ? 怜に言われたくはねえよ!」

「なんですって?」

「なんだよ!」

「だ・か・ら! 迷惑になるでしょ?」

「ごめん」「すいません」

 僕が少し言葉に力を込めると、二人はすぐに頭を下げて謝ってきた。

 まったく、なんでこうすぐ喧嘩になるんだろうね?

「とりあえず、此処に居ても邪魔になるし、ちょっと場所を変えようよ」

「ああ」「はい」


 

 この竹駒駅には、駅ビルが隣接するように建てられており、改札から直接向かうことが出来る。

 僕達は、そのロビー近くにあるベンチで今後の予定について話すことにした。

 現在は一時過ぎ、お昼時ではないので、殆ど周りに人影は無かった。

「それじゃどうする?」

 僕が二人の顔を伺うように左右を見た。 

 何故か、座る位置で揉め出したので、怜、僕、八雲の順で座っている。

「そうだな、桃香の水着を買いにいこう。俺が可愛いのを選らんでやるぞ!」

「却下……」

 八雲の戯言は即、否定する。

 聞かなくても良かったのではないかとすら思うね。

 それに、なんで四月に水着が必要なんだよ!

「桃ちゃん、八雲はやはり此処に置いて二人で遊びにいきませんか?」

「なっ!」

 八雲は驚いているが、その怜の案には心から賛同したくなる。

 だけど、昔からの習性でこの後、八雲が煩くなるのが判ってるからそうもいかない。

 幼馴染は気心が知れてて便利なようで不便だ。

「うん、それもいいんだけど、今日は三人で遊べるところにしよ。この姿になって初めてだし、どうせなら皆で行けるところがいいかな」

「桃ちゃんが言うなら仕方無いですね」

「さすが俺の彼女だな」

 二人は頷いている。だけど、八雲……

「誰が彼女だ!」

「勿論! 桃香に決まっているだろ」

「馬鹿は黙りなさい。桃ちゃんはボクの彼女です!」

「「え?」」

 八雲と二人で、思わず怜の顔を見てしまった。

 怜は僕達にじっと視線を向けられて、今口走ってしまったことに気付いたのだろう、徐々に顔が赤くなり始めた。

 それを誤魔化すようにメガネを指の甲で上げ、コホンっと咳払いをする。

「気のせいです」

「「え!」」

 再びボクと八雲の声が同調した。

 気のせいという言葉は無いと思うのだけどね……

 でも、八雲と怜の反応に気になる部分があるのは確かだ。

「ええとさ、さっきから彼女とか言ってるけど、わたしの何処がいいのかな? 二人なら普通の女の子に誘われるなんて多々あることじゃない。その娘の中から彼女を探した方がいいんじゃないの?」

 こんな女歴一ヶ月も経っていない、なんちゃって女子よりも他の娘の方がいいに決まっている。尚且つ、僕には男と付き合う気なんてこれっぽっちも無いしね。

 まだ女の子と付き合う方が……いやそれもなぁ――

「ふ、まだそんなこと言ってるのか、学校を出てすぐにも言っただろうが――桃香だから好きなんだ。それ以外に何があるんだ?」

「八雲の言うとおりですよ。ボクも桃ちゃんだからす、好きなのです。他の女子なんて知りません」

 二人の台詞に心の奥底が暖かくなってくる。

 しかし、今迄ずっと男同士の付き合いをしてたのに、この変りようはある意味寂しい気がしてしまう。

「うん、でもね。二人とはずっと一緒に育ってきたようなモノじゃない。それで、いきなり男女と割り切って付き合うのもね……」

「別に気にしなくてもいいんじゃねーか?」

「はい、何も問題がありませんよ?」

 あっさり二人に肯定された。

「へっ、どういうこと?」

 遂、間の抜けた表情を晒してしまうことになる。

「桃香といい、怜といいどうしてそう物事を難しく考えるのだろうな。見た目だけ可愛いだけじゃなく、桃香の心があるからなんだぞ」

「なんで、そこにボクまで混ざっているのか判りませんが――まぁ、いいです。今の八雲の説明では判り辛いと思いますから説明しますけど、今まで通りでいいのです。男にしろ女にしろ桃ちゃんのことは好きなんですよ。それで女の子になったのなら、自然と恋人になれたらいいなというだけのことなのです」

 それって……

「わたしはこのままでいいってことなのかな? 二人のことは好きだけど、付き合うとかそんな気持ちにはなれそうに無いけど……」

「ええ勿論です」怜は優しく目を細め、

「ああ、構わないさ、俺がその気にさせてみせるからな」

 八雲は、白い歯を出してニカっと笑った。

「ありがと……」思わず、俯いてしまった。

 家で散々変らないといけないと怒られてきたのに、二人は今のままで構わないと言ってくれるのだ。

 こんなに嬉しいことは無いだろう。

 もし、僕が女の子だったら今の台詞で落ちてしまうかもしれないと思う。

 ――って、僕は女の子だった……

「よし、それで何処に行くか決めたか?」

 八雲が気分を変えるように僕の頭をポンポンと叩いた。

「え、まだ決めてないよ」

 他の話をしていたのだから、考えていた訳が無い。

「こら、なんで桃ちゃんの頭に触れているのです!」

 怜はそう怒鳴って僕の頭の上にある八雲の左手をパンと弾くと、汚れを払うように僕の頭を撫ではじめた。

 ちょっと気持ちいいかもしれない。

「こら、何しやがる!」

「それは此方の台詞です!」

 再び言い合いが開始される。その際も怜の手は離れていなかった。

「もぉ! 喧嘩は駄目だよ。それと、怜、いつまで頭を撫でてるの?」

「あ、すいません。桃ちゃんの髪の毛が気持ちよくてつい……」

 慌てて怜は手をどかしてくれたけど、少し、物足りなそうだった。

「そうだぞ、今度は俺の番な!」

 八雲が再び左手を僕に近付けてきたので、

「それは要らないからね」

 軽く手で防御して、八雲を睨みつけた。

「うわ、贔屓だ! ナニソレ汚い」

「何処が贔屓なのかな? 八雲も僕の頭を触ってたじゃないか」

「えええ、怜より短かったじゃないか。桃香の髪って長いからシャンプーの良い香りが凄いするんだよな」

 クンクン鼻で嗅いでいる……野生の動物か!

「だから何?」

 僕の冷たい視線を受けたにも係わらず、八雲は嬉しそうに口元を緩めている。

「もっと触らせろ!」

「駄目に決まってるでしょ!」

「そうです、八雲は桃ちゃんの半径三メートル以内に立ち入り禁止です」

 僕の文句に、怜が味方をしてくれた。シッシと手を動かしている。  

「ひ、ひでー。横暴!」

「いいえ、これが八雲の為でもあります。このままだと、警察に厄介になる未来が想像できますからね」

「うん、それはあるかもしれない。だって、八雲だもん」

 僕達二人が頷きあっているのが気に入らないのか、

「こらぁ! どういう意味だ!」

 八雲が癇癪を起した。


 

 その後、カラオケに行くのを決めるだけで三十分以上も掛かってしまった。

 すごい労力を消費した気分だ。

 たけど、二人の本心が聞けたのは僕の気持ちを楽にさせた。

 何故なら素のままの僕を好きと言ってくれているのだから、二人の前では無理をしなくてもいいのだ。

 それが判っただけでもとても嬉しいし、学校に出掛ける前よりも幾分足が軽くなっていた。


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