プロローグ 1
つい、もふもふコメディーを書いてしまいました。
喜んで頂けたら幸いです。
「…………」
世の中には不可解、謎のような多くの言葉が存在するが、そんなものは滅多に無いという前提の元に使われるモノだ。
もう一度言おう、遭遇する確立が少ないからこその言葉である。
それが、何故、僕の目の前で起きているのだろうか?
そこには巨大な狐がふわーと欠伸などをしているのだった。
現在居る場所は間違いなく僕の部屋である。
十六年間過ごした我が家を間違える程、まだもうろくしては居ない。
そして、僕のベットには狐が座っていた。
これが、子犬サイズなら愛らしいのだが、ベットの大半を占領する大きさで、全長が3m程も在りそうな程なのだ。といってもその大半が尻尾だけど。
黄金色に輝く艶やかな毛並みはとても触り心地が良さそうだし、尻尾ももふもふしていて、一尾だけでもお土産に欲しいと思うのは仕方ないだろう。
一尾というには訳があった。普通の狐と違い大量にあるからだ。
「ええと、狐さん? 眠いならお家に帰ってからにしてくれないかな?」
僕が遠慮するように話掛けると、狐さんは再びふわーと欠伸をして、顔をぷいっと横に背けてしまった。
可愛くないです。
でもオカシイ……この状況もそうなのだけど、恐怖心をまるで感じないのだ。
「ええと、狐さん? 尻尾を一尾くれたら嬉しいな?」
今度は狐さんも反応がありお互いの目が合った。
「…………」
すると、狐さんは僕の前でくるりと背中を向けて尻尾を差し出してくれた。
おお、言ってみるものだね。
近付いて数えてみると、九本、あれ? 九本尻尾のある狐って、確か……
等と考えている時だった――そのうちの一本が天井にぶつかる程空中に持ち上がり、素早く僕の頭に振り下ろされたのだ。
「え? なっ、うぐぅ!」
驚愕して避けることなど出来なかった僕は、急激な衝撃に意識が遠のいていくのを感じた。
嫌なら嫌って言えばいいのに……そう最後に思いながら狐さんを見ると、どこか楽しそうな様子が目に入った。
――どれくらい時間が経ったのだろう?
目が覚めると、天井が視界に入ってきた。
どうやらベットの上に寝ていたことに気付く。
後頭部には痛みが走り、さっきのが事実だったのを実感させた。
そして、顔を動かしてベットの下に目がいくと、僕を気絶させた張本人である狐さんが、カーペットの上に丸くなっていた。
僕が目覚めたのを感じたらしく、顔を此方に向けている。
「やっと起きたか……これだから最近の若者は軟弱なんじゃ」
「え?」突然のことに驚いてしまう。
狐さんが喋ると誰が思うのだろう? 話す度に赤い舌と鋭い牙が見え一家に一匹居ればネズミ取りにぴったりな気がする。
というよりも、なんで『じゃ』なの!
「まぁ、いい、それよりも気分はどうじゃ?」
「最悪だよ!」
「そうか、問題ないようじゃな」
……全然人の話を聞かないよ。
「問題大有りだよ。急に頭を叩くとか酷過ぎだよ!」
「何を言うか、お主の望みを叶えただけだろうが?」
「へ?」
僕の望み? 確か邪魔だから家に帰って欲しいと言ってたような……
「違うわ!」
「えええ!?」
狐さんの急な突っ込みに変な声を出してしまった。
「お主の考え等すぐ読み取れるのじゃ。ワシはこれでもれっきとした稲荷神だからのぉ」
「はぁ、稲荷神様ですか……ってことは油揚げが好きなの!」
「アホか!」
稲荷神様の尻尾が頭に当たり、ポカッと音が鳴った。
だが、今回は手加減をしてくれたのか、気絶するようなことはない。
「うう、酷いですよ! そう何度も殴らないで下さい。頭が悪くなりますから!」
「お主が馬鹿なこと言うからじゃろうが、それで何と希望したか思い出してみるとええぞ」
「う~ん」コメカミの辺りを指でぐるぐる回して考えてみる。
あるお坊さんが編み出した伝説的な思考法らしいのだ。
……確か――あ! 思い出した!
尻尾を欲しいとねだったのだ。
「……その通りじゃ。全くボケボケした相手だと疲れるわい」
どうやら、又心を読んだらしい。便利だね神様は。
「でも、駄目って殴られた気がするんですけど……」
「いや、一言もそんな事言っておらんぞ? ワシはちゃんと希望を叶えたのじゃ」
「うーん。意味が判らないです」
語尾がじゃって言うぐらいだし、年取ってボケてしまったのかな?
「ボケてなどおらん!」
「はい! すいません」ビクッと思わず首を竦めてしまう。
心が読めるのを忘れていた。卑怯だよ神様!
「もうええわ、ワシが説明するから黙って聞いておれ、疲れてしまうわい」
「お願いします――」
ううう、僕は無力だ……
「はじめからそういう殊勝な心がけをしとけばええんじゃ。それでは話すぞ――以上じゃ!」
――時間にして約五秒ぐらいだった気がする、稲荷神様の説明は終わってしまった。
結論、さっぱり判らないよ!
「ええと、本当に説明しました?」
「いいや、全くしてないのぉ」
この狐……我慢しろ僕、相手は神、耐えろ、耐えるんだ僕! 僕は強い子だろ……
「では、ま、じ、め、に教えてください」コメカミがひくついてる気がする。
「仕方ないのぉ、今度は本気で話してやるか……お主の願いは尻尾が欲しいという話だったな」
確かにその通りなので「ええ」と頷いた。
「そこで、ワシはその願いを叶え、ワシの後継者にしたのじゃ。いやー寝てる間にするの大変だったのだぞ。年寄りをこき使うとは酷い話じゃ」
「ええと、その後継者って何でしょう?」
尻尾と関係ないよね?
「勘の鈍い奴じゃな。つまりは稲荷神の後継者じゃ、お主は神族になったという事じゃな」
「……神族ですか、上手い冗談ですね。本当にお爺ちゃんはそういうの好きですよね」
「何も冗談等言ってないんじゃがな。現にお主の容姿はワシと変らんじゃろ?」
変らんって言われても、普通に手足の感覚はあるし狐とは思えないけど。
「まぁ、そこの鏡を見るのがええじゃろ」
「はぁ……」
納得してなさそうな僕に稲荷神様が助言してくれた。
その指示に従って、部屋の片隅にある姿見の鏡の前まで歩いていく。
年寄りの話は聞かないといけないしね。
そして、鏡の中には……
「え、えええええ!」
金髪美少女が居ました。