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ある変動の夜

R15につき、注意。

 いつもとは違う満月の夜だった。

 満月は優しく私を受け入れてくれるのに、今日は風が強くさらにどこか空が荒々しい。

 ああ、なんでこんな気持ちになるんだろう。

 おかしな物のせいだと分かっていても、それを認識したくないと脳が言う。ネズミは捨てろといった。四郎君は使えと言った。どちらも、正しく無い気がするのは、この薬に惑わされている私のせいなのだろう。

 そんなざわついた心のまま、いつものように吸血鬼は現れた。にこやかな笑顔はいつもの通りで、むしろ疑問に思う。


「麗、今晩は」


 素敵な夜だね、と続ける吸血鬼を疑わしい目で見ていたら、彼こそ私の異変に気づいた。横に静かに飛んでいるネズミは、何も言わない。それを余計に怪しんでいるようだ。


「いつもみたいに、二人は喧嘩しないの?」


 まるで、私たちに喧嘩をしろとでも言うような物言いである。おかしい。普段だったら、仲良くしてくれと請うはずなのに。

 いつもと同じだと思ったけれど、どこか違うと感じた。


「ねえ、フィフ。どういうことなのかな?」

「ゼロ様……あの……」


 この様子だと、きっと報告していないんだろうな。この薬のこと。だから、余計に彼を怒らせてしまう結果になるんだろう。

 吸血鬼は、いつもとは違う剣呑な瞳をしている。


「不思議なものがあるね」

 彼は、歩き出して、ある棚の前で止まった。そこには、例の香水の瓶が入っている。

 彼は気づいているのだ。それが何であるのかを。


「こんな物を誰に使おうとしたのかな? いけない子だね、麗」


 真っ赤な瞳が、私を捉えて離さない。


「ねえ、誰に……?」


 ばれてしまった。私の気持ちが……。

 だって、こんなものを持って彼を迎えるなんて、まさにそういうことを望んでいますと言っているようなものだ。

 恥ずかしい。情けない。


「私のせいじゃないもん。離してよ、ゼロ!」

「食べられてしまいたいんでしょう? 脱がしてあげるから、動かないで。フィフ、君は帰りなさい」

「ゼロ様……!」


 悲壮な声が飛んだが、そんなことを全く気にしていないかのように彼は残酷に告げた。


「帰れ」

「はい、ゼロ様」


 ネズミがすっと消え、残ったのは私と、不思議な笑みを浮かべている彼だけになった。


「逃がさない」


 彼が一瞬で間合いを詰めて、私は両腕を捕られた。そして、その勢いのまま、私がいつも寝起きをしているベットに押し付けられる。


「ボタン、いっぱいあるね」


 彼の顔が近づいてきたと思ったら、頬にキスをされた。優しいキスだと思ったのに、彼の目を見た瞬間にそれは優しさなんかじゃないと気づいてしまった。

 彼は流れるような速さでボタンを外していく。

 やっぱり、慣れてるんだろうな……。

 私はこの状態がまるで他人事のように思いながら、もう一方で彼の拘束から抜け出そうとして身体を動かす。男女差も、身長差も、経験値の差もあって、全く歯が立たない。


「無駄だよ、麗。早く全部見たいから、抵抗しないでくれると嬉しいな」


 半分脱げてしまった服で胸元を隠しながら、真っ赤になる。わざとではなく、ふるふると震えてしまうのは、仕方ないだろう。

 だって、さわさわと彼の手が素肌を触っているのだ。触れるか触れないかの際どい触り方に、どう反応を返せば良いのか分からない。だって、こんな経験無いもの!

 そんな私の様子を見ながら、彼はさらに獲物(わたし)を追い詰めていく。


「君が欲しい。君を食べたい」


 何度も壊れた言葉に、首を縦に振れない。だって、振ってしまえば後戻りが出来ないのを知っている。

 逃がさないとばかりに、手を口を封じられる。


「う……ふぅえ……」


 こ、呼吸が出来ない……!

 噛み付くようなキスの応酬は、やはり獲物を捕らえる捕食者のようだ。こんなファーストキス、嫌過ぎる!

 乙女の夢をぶち壊さないでぇええ!


「美味しいよ、麗」


 しゃべるためになのか、いったん私の唇を離した彼と目が合う。

 赤い瞳は、鋭すぎて目に痛い。


――食べられてしまう。


 そう思うと、余計に顔が火照ってくる。

 私の様子をどう思ったのか知らないが、彼は私の全身を上から下まで検分するようにして見た。

 胸とか、無いものは無いんだから……気になんかして無いけど……。


「邪魔だな……」


 服をビリビリに裂かれる。


「あ……」

「可愛いよ、麗。その情に濡れた震える瞳も、真っ赤に熟れた果実も、全て僕が摘み取ってあげるから」


 彼の瞳は厳しいままだったが、どこか荒れているようだった。泣きそうな顔をしているようにも見える。


「可愛いよ、麗」


 ねえ、どうしてそんなにつらそうなの? 私、何か間違った?

 怖くて聞けず、私はただ震えているだけだった。

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