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ある平日の昼

「ふう」


 ため息を吐きながら、窓から外を眺めていた。お昼休みで教室は異常なくらいざわめいているけれど、あまり関係ない。


――しばらく彼に会えない。


 頭の中はそんなことでいっぱいだ。

 その事実が少し寂しくて、少しほっとするのもまた良くない。

 寂しいなんてこと、早く慣れてしまわなければいけない。

 会いたいあんて、思いたくない。だって、会ってしまえば、きっといつもの台詞を吐かれるから。いつ、拒否できなくなるのか分からないのがまた怖い。


「あっれー。 どったの? レイちん」

「その呼び方止めてくれる?」

「いやだ。無理」


 すっぱりとそんなことを言う彼に、ムッとした。

 そんな私の雰囲気などすっぱり無視し、彼は目の前の椅子に腰掛けた。

 手にはコーヒー牛乳を持ち、ストローでちゅうちゅうと吸っている。

 どこかちゃらちゃらした印象を受ける彼は、蕪谷四郎(かぶらたにしろう)君だ。

 茶髪にピアス、目だけは黒という不思議な出で立ちで、教師陣の頭痛の種の一人である。

 まあ、本当は悪い人ではないから、人気もあるし、みんな仲良くしているんだけど。


「どうしたの? レイちん。恋煩いか何かかね?」


 それは、「うん」とも「違う」ともはっきりとは言えなかった。

 少なからず、想ってはいるんだと思う。


「ふうん。レイちんを手篭めにするなんて、なかなかレベルの高い人だねえ」


 どういう意味だ!?

 さらに機嫌を悪くすると、彼はとても楽しそうにこちらを覗ってきた。


「そっか。お年頃なんだね」

「四郎君はどうなの?」

「俺はそりゃ、万年発情期ってやつだよぉ! もうレイちんったら。分かってるくせにそんなこと聞いてくるなんて。まかせて、いつだってデきるからね」

「いや、知らないし」


 っていうか、そんなこと知りたくなんてなかったよ!

 焦って赤くなれば、彼を喜ばせるだけだと知ってはいたのだが、やっぱり簡単に顔の色なんて操作できない私は、黙りこくって顔を赤くさせていた。


「うーん。レイちん欲求不満なの?」

「んなわけあるか! そろそろ本気で起こるからねっ」

「ちえー。もう少しからかいたかったんだけど。レイちん、純情さんだから面白いし」


 やめてください、マジで勝てないんで。

 面白いとか、しゃれにもならないんで。

 そんな気持ちを汲んでくれたのか、彼は話題をがらりと変えた。


「そういえば、いつもお弁当だよね。今日はどしたの?」

「食べ終わった」


 なんかむしゃくしゃして、一瞬で食べ終わってしまったわよ!

 それが伝わったのか伝わっていないのか、彼は非常に楽しそうに笑った。


「よっぽど、相手の人のこと好きなんだねえ。うらやましーや」


 本当に羨ましいと思っているのか、ぽやぽやとしている彼の内情は全く読めない。


「そっちはどうなの? 最近、女の子が遊んでくれないって悲鳴上げてたの聞いたけど」

「うーん、そうだねえ。本命は居るよ」


 それは初耳だ。彼のことを好きな友人たち(複数形っていうのが、彼の人気を物語ってはいるんだけれど)に教えたら、さぞ面白いことになるだろう。

 どこかふざけた、どこか真剣な雰囲気が流れ、軽く冷や汗が出てくる。


「しろちゃん。何やってるの?」

「ああ、セツナ。ちょっとね、遊んでたの」


 セツナ、と呼ばれた子は、隣のクラスの大森刹那さんだ。

 ふうん。彼女が本命ってやつかな?


「遊ぶって……」


 四郎君が言うと、なんかヤらしく感じるから不思議だ。

 っていうか、彼女も多分そう思ってるんだろうな。軽く顔が赤い。


「変なこと考えないでよー! セツナのエッチ」

「エッチなのは、しろちゃんでしょ!」


 うん。それは否定しないよ、セツナさん。


「えっと。大森刹那です。お名前聞いてもいいですか?」

「はじめまして、で良いのかな? 月島麗です」

「よろしくね。麗ちゃん」


 いきなりだが、結構彼女と気が合いそうだ。

 このふんわりとした雰囲気も好みだし、ちょっとパーマがかった髪も柔らかくて好き。


「うん。よろしく、セツナさん」

「ちょっとぉ! 二人だけで盛り上がんないでよー。俺が暇じゃん。構ってよ」

「もう、しろちゃんったら」

「っていうか、しろちゃんって犬みたいでいいねえ。私もそう呼ぼっかな?」

「それはダメだなあ。しろちゃんって呼んでいいのは、世界広しといえどセツナだけなんだよね。他の人には許さないし、呼ばれても返事しないカラー」


 ああ、すごい執着じゃないですか。

 一人納得していると、セツナさんが喜んで良いのか、そんな風に言わなくてもって言おうか迷っているのが目に入ってきた。

 仲良しで非常に羨ましい限りですね、四郎君。


「ねえ、レイちん」

「なにさ?」

「君が不思議な匂いさせてるから、これあげるよ。きっと役に立つと思うしね。これ、おまじないみたいなもので、好きな人の前でつけたら相手がめろめろになるという曰くつきの品なのですよー」

「ああ、はいそうですか」

「それを今なら、なんと無料でプレゼント!」


 ばばーんと私の目の前に出された香水を見て、何の宣伝なのか疑いの目で見る。


「自由に使っても良いけど、僕の前でつけたら、一生レイちんに近づかないからねー」


 なんだその重い薬品は!?

 苦笑しているセツナさんを横目に、私はその怪しい香水をもらった。これ、本当に大丈夫な品なんだろうか。


「何かあったら、メールしてね」


 手を握ってくれたセツナさんに、多少……いやかなりの不安感を覚え、使うのよそうかと思った。

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