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ある日常の日々 2

「ねえ、麗」


 とても、可愛いらしい声がする。しかし、実際はそんな甘いものじゃない。


「今日、何で遅れて来たの?」


 ピシリ、と固まった私を耀はきらきらした瞳で見つめて来た。


「珍しいなんてもんじゃないよね」

「あー、私も知りたーい!」

「いや……あの……」


 珍しくしどろもどろになる私にクラスメートたちは、追及の手を緩めることない。むしろ嬉々として集まってくるのは、女の子の集団だからだろうか。

 恐ろしい。正直、ダッシュで逃げてしまいたい。

 そしてついでに、先生からも逃げて……って。

 どうしよう。バッドエンドしか見えてこない……。


「ちょっと、麗。聞いてるー?」


 残念ながら、聞こえてる。


「私だって、寝坊くらいするよ。土日はゴロゴロする日だよ……」

「うっそだー!」

「怪しい!」


 当たり障りのない答えに、決して納得していない彼女たちは、口ぐちに「彼氏じゃない?」とか、「キャー! 朝帰り!!」とか、勝手に盛り上がってしまっている。

 決して合っているとは言い難いが、完全に間違っているとは言えないのが悲しい。

 項垂れていると、耀は「それで? 真相は!?」と身を乗り出してきた。

 来る前に、良い訳考えておけばよかった。っていうか、多分、別の良い訳を言い始めた瞬間に、「それはない」とか「なんで最初は嘘ついたの?」とか言われるに決まってるんだ。私には分かっているんだからね!


「だから、本当にただの寝坊なんだって! それ以外に言い様がなくって……」


 寝坊は事実。吸血鬼は現実。

 その言葉を頭の中で繰り返しながら、自分を励ました。


「つまり、麗が朝起きれないくらい衝撃的な事が昨日、あったってことだよねー!?」


 「昨日」というキーワードに、本当に昨日の事が思い出されて、一瞬にして顔が赤くなった。

 だって、ゼロが! ゼロが!!

 自分のゼロに対してとった行動が次々に思い出されて……、恥ずかし過ぎて泣きたくなってきた。

 そんな私を、目を剥いて周りの彼女たち(っていうか、クラスメート全員)が見ていたなんて、全く気が付かなかった。


「ま、まさか……」

「そんな事が……!!」

「麗ちゃんがっ! れいちゃんがあぁああ!!」


 尋常ではない奇声を上げ始めたクラスメートたちに、私は首を傾げた。


「え? な、何が……?」

「麗が、どこぞの男に汚されたあああああ!!」


 その声は教室中に響き渡り、クラスメート全員が一斉にこちらを見た。


「違います」


 困りながら、しかし即答してみれば、半泣きになった耀が「敵はとってあげるから」とか訳の分からないことを言っている。

 いや、だから……。


「立ち上がれ、レイちんファンクラブよぉお!」

「どっから現れた……四郎くん……」


 しかも、みんな「おお!」とか言ってるし。

 ノリ良すぎ! っていうか、そんなもの結成してないでしょ!?


「お疲れのご様子で」


 ニヤリと笑った彼に教室中がざわめく。彼の言い方が、そういう要素を含んでいて、非常に困る。周りは周りで盛り上がっているし、誰か止めてくれないだろうか。

 そして、四郎くんってば。確実に、あれですね。

 面白そうだから現れ、煽るだけ煽ってやろうって考えなのですね。

 彼に容赦は必要ないとばかりに右手の拳を振るったら、軽々とよけられた。左手をパーに開いて頬を狙ったが、彼の右手の手刀で抑えられてしまう。

 これだから、吸血鬼(予備軍)は嫌だ……。無駄に動きが綺麗だし……。一般女子である私には叶わないという事ですね、ええ。悲しいというよりは、イラっとする。何故セツナさんはこいつと一緒に居たいと思うんだろうか。


「っていうか、何しに来た……?」

「ええ? 遊びにー?」


 わざとらしく語尾を上げた彼にイラっとしつつ、しかしフィフの気配を探れば、特に反応していないように思える。今日はゼロの指示でもあるんだろうか。四郎くんを容赦なく叩きのめしていた丸々太ったネズミを思い出していた。一安心しつつも、距離を置くべきなのか悩む。

 なんでそんなに平気そうな顔をしてるんデスカ……?

 私と四郎くんは、お互い探り合いを行う。

 彼はニコニコしている。怯えてはいない……? いや、どうだろ。両手の手のひらを見せてくるが、何がしたいんだろう。

 ……ダメだ。

 彼を理解出来たことの方が少ない私が、彼のことを分かるはずがない!


「見つめ合ってる……」

「へ?」


 そういえば静かになってたな、と思った瞬間、みんながこっちを見ていることに気づいた。

 ……何か壮大な勘違いをしてませんか?


「まさか……麗の相手って……」

「そ、そんなバカな!」


 続きを聞きたくない! しかし、聞かないと否定できない!

 半泣きになりながら、みんなが言ってくれるのを待っていると、口を挟んだ人がいた。

 煽るだけ煽ってくれた、彼だ。


「俺が愛してるのは、セツナだけ」


 明らかにいつもと違う様子に、みんな固まった。

 シーンとした中で、声を張り上げる。

 みんな聞いてくれ! 私は(吸血鬼とか吸血鬼もどきとかのせいで)死にたくないんで! ついでに友達を失いたくないんで!

 頼むから、聞いてくれ。


「そうだよ。有り得ないんだよ! この病的にセツナさんを愛している男が、どこをどうしたら私に目を向けるというんだ!? はっきり言おう。それだけはない」

「病的って、ひどー」


 間延びした声に、周りのみんなはほっとしたようだった。セツナさんの事となると、別人の様になるんだから。まったく……。

 軽く痛くなった頭を抱え、彼に言う。


「間違ってないでしょ」


 シャレにならん位にな。


「まあねー。だって、愛してるから仕方ないよー。だから、そんな不安な顔しないで。セツナ」


 入り口のドアに向かって、彼は微笑んだ。私は弾かれるようにそちらを向くと、覗き込むようにしてセツナさんがいた。

 四郎君はいつから気づいてたんだろう。……セツナさんセンサーでも内蔵してるんだろうか? っていうか、セツナさんにいつから見られてたの!? うわっ、恥ずかしすぎる!

 そして、一瞬だけひやっとした。本当に、友達を失う所だった……。思いっきり否定しておいてよかったな、マジで。


「じゃー、お迎えがきたから帰るねー!」

「頼むから早く行ってください」


 そして出来れば、しばらく帰って来ないで欲しい。


「はいはい。身体には気をつけるんだよ、レイちん。イロイロあるだろうしねー」


 最後の一言は余計だ!

 睨みつけるが、まったく効果がないようだ。私のことなど見ずに、するりと人と人の間を抜けセツナさんの腰に手を回し、歩き出した。

 彼は引っ掻き回しすだけ引っ掻き回しておきながら、何も回収せずに消えていった。

 何しに来たんですか、マジで……。

 しかし、四郎くんのあのムカつくほど間延びした声でほっとしてしまう私って、この日常に毒されてしまっているのかもしれない。

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