2010年クリスマス小話
「…………世の中は浮かれすぎていると思わないかい? 麗」
「ああ、そっか。もうすぐクリスマスか」
私は貼っているカレンダーを振り返りながら、ふむふむと頷いた。今日は今年最後の満月である12月21日。二日後は天皇誕生日で、手帳は赤く染められている。私たち学生は、冬休みを楽しみにしているはずである。
「ごめんね」
「なんで貴方が謝るの? クリスマスは暴徒化していたいけな美女を襲ってしまう性癖でもあるの?」
「いや、そんなことはないけども」
だったら、なんで彼は謝るんだろうか。理解不能だ。
机に突っ伏しながら、あーだこーだ言っている姿は、どうもいけない。
「せっかくクッキーも紅茶もあるのに、何が不満なの?」
さくりと一口齧ってみるものが、味にはなんら問題は無い。むしろ力作だった。
「ああ、ツリー型が良かったとか? でも、別に私はクリスマスとかで浮かれる気はないし」
「……そう。あ、麗。クッキーは凄く美味しいよ! 麗が作ってくれたものは全部美味しい」
「全く褒められている気がしないんだけど」
「え、何で!?」
でも、少し嬉しかったから、紅茶を追加で淹れてあげることにした。
**
――ごめんね、こんな僕でも一緒に居られたら良いのに。
そう言えない雰囲気がここにはあった。天皇誕生日もクリスマスイブもクリスマスもも大晦日も元日も、彼女は一人で過ごすのだろうか。そりゃ、友達と会ったりはするだろう。しかし、その友達たちも家族と過ごす時間が多いだろうし。彼氏と過ごす人も多いかもしれないが、彼女にはそんな輩は居ない(居て欲しいなんてこれっぽっちも思っていない)ようだし、関係ないだろう。関係ない。ないよね? 麗。
――ごめんね。
僕に出来たのは、無意味に謝ることだけ。クッキーを褒めることだけ。
こんな時、僕はとても恨めしくなる。悠久の時を生きていると言われているとはいえ、今がひどく恋しいのだ。むしろ、今だけが存在すればよかったのに。今までの時間なんていらないから、もっと麗と過ごせれば良いのに。
「今日は綺麗な満月だね」
「うん。すごく、綺麗」
麗は僕を見たまま、少しだけ笑ってくれた。可愛い笑顔に、胸がきゅっと締め付けられる。
僕みたいなモンスターに付け入られてしまうほど……、彼女は、弱っているのだろうか。
「次の満月には、パーティをしようか」
「え?」
「クリスマスだか新年だか知らないけど、お祝いしたいんでしょ?」
「え、え、え?」
「だったら、しよう」
なんで麗はこんなに良い子なんだ!? っていうか、僕が言い出すべきことだったよね、これ。
自分に辟易としながらも、心の中は温かかった。
「プレゼント、用意するよ」
「いきなり何? 靴下にでも入れてくれるの?」
ちょっと楽しくなってきたらしい彼女に、僕も調子を合わせてみた。
「うん。大きな大きな靴下にね」
僕が入って、僕をプレゼントなんてしても麗は喜ばないだろうしな。何が良いだろう。
クリスマス当日にフィフに届けてもらおうと思う。で、パーティでももう一つ何か彼女に送ろう。
「期待しないで楽しみにしてる」
「うん、そうしてくれると嬉しいかな」
僕は彼女の望んでいるものがちっとも分からなかったから、そう答えた。
麗に贈り物……。それは、それは楽しみだった。
**
クリスマス当日、サンタに扮したフィフが届けたのは、こうもり型のぬいぐるみだった。
「汚いのが、一匹居るのに……」
「汚い!? 誰のことを言ってるんだ!? この小娘め! 私もお前にこんなものを届けたいなんて思わなかった!……が、あんな楽しそうなゼロ様は初めてで……言えるか、そんなこと!!!」
こんな会話がなされたのは、必然だった。