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あるネズミの考

 私は身を隠し、屋根に上がった。

 「好きにしろ」と言われたので、好きなだけ持ってきたクッキーを口に放る。

 甘い焼き菓子は、嫌いではない。

 だが、麗が食べているのを見てもまるで美味しそうに見えない。

 ゼロ様のように気品を漂わせるでもなく、私のように口いっぱいに頬張る訳でもなく。

 ……ゼロ様はなんであの馬鹿娘を好ましく思うのか。


 全くあの馬鹿娘め!

 忠告してやれば全く聞き入れない。その癖、人を呼びつけ、寂しそうにする。

 そんなにゼロ様が恋しいのか。だったら、精一杯足掻けば良いのに、それが出来ない。

 浅ましい、人間の娘だと思う。

 あのお方への唯一の繋がりと言っていいだろう、私を濁った瞳で見る娘。

 あの瞳は、ゼロ様以外を見ない。

 今はゼロ様へ全てが向いているから許してやろう。しかし、ゼロ様以外を愛した瞬間に消し去ってやる。

 何故、分からないのだろう。

 麗は、欠けた物を求めるように、縋るようにただ見つめ続ける。

 そして、不安定な馬鹿娘は、たまに自分自身に対応しきれなくなるのだ。

 まあ、それはきっと彼女の境遇にあるに違いない。


 私はあの娘の両親を見たことが無い。

 あの小娘は、あの年で一人暮らしをしているというのか?

 いや、それにしては、部屋が多過ぎるし、男物の靴や馬鹿娘の着そうに無い服も存在する。

 しかし、いつも他の部屋は静かで物音一つしない。だからこそ、私とゼロ様は何の問題もなく馬鹿娘とお茶を飲んだりも出来るのだが。

 少なくとも、私達が麗に会いに来る時には、あいつは独りで月を見上げている。

 ゼロ様は、悲しげに「聞いてはいけないよ」とだけ私に告げ、口を噤んだ。

 何故、問うてはいけないのだろう。さっくり聞いてしまえば、解決するだろうに。

 人間とは、面倒な生物だ。

 弱く、浅ましく、それでいて――


 殺気がした。

 どこだ?

 場所の特定が出来ず、周りに気を張る。

 強いこの殺気は、とても近くから発せられているようなのだが、出所がなかなか掴めない。

 何者だろうか。こんな平穏な町で、何の因果か不穏過ぎる気配を察している私がいる。

 殺される事は無いだろうが、面倒な!

 この家には馬鹿娘が住んでいるのだ。放置出来ないではないか!

 あまりの忌々しい事態に悪態をつく。

 相手にこちらからも殺気を放つものの、怯む様子も無かった。


「馬鹿馬鹿しい……」


 何故、こんな事をしてやらねばならないのだ。

 ゼロ様が少し目を掛けている娘だ。ただ、それだけ。

 私達のような永遠の命を持つ訳でもない。

 時間が過ぎれば、朽ちて土に還る、そんな娘だ。

 ああ、忌々しい。


 私は、その場から動けなかった。


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