表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/41

あるネズミとの夜 2

 彼の全身は闇だった。腰までありそうな長髪は曲がることを知らないように真っ直ぐだ。つり上がった目が、気の強さを表しているかのようだ。

 男性にしては少し細い気もするが、確かに私より身長が高かった。

 そして、ナルシストなだけはある。かなり顔が整っていた。

 加えて、何故か仁王立ちだ。偉そうにしているのが、腹立たしい。


「なんっか、納得いかない」


 私の言葉に、やはり気を良くするネズミ。いや、人間もどき。

 でも、ゼロと一緒に居たのだから、吸血鬼もどきなんだろうか。

 左右に分けられた、長い前髪を右手で上げながら、ニヤリと笑った。


「全身黒いね……」


 ゼロは月だった。

 フィフは夜だったのか。

 通りで気が合わないはずだ。私は闇が苦手だし、夜も好きではない。

 ただ、月は夜にならないと綺麗に見ることができないから、いつも夜を待っていたけど。


「私の創造主は、私を闇だと、夜だと言った」


 まさに私が思っていた通りの言葉がでてきて、軽く頷いた。


「その通りだと思う。でも、創造主って?」


 フィフは一瞬だけ、目を伏せた。だが、すぐに鼻息荒く話し始めた。


「私はゼロ様に望まれて生まれた使い魔なのだ! 創造主は、ゼロ様のご友人で、魔女と呼ばれたお綺麗な方だった」


 ゼロの友人で魔女で美女。胸の奥がちくりと痛む。

 私とゼロは友人と呼べる程仲が良かっただろうか? 友人になりたいわけではないのだけど、なんか嫌だった。

 それに、フィフだって、その創造主さんが好きみたいだ。

 どんな人なのだろう……?


「使い魔は創造主さんに作られるの?」


 言ってから、後悔した。

 あまり良い言い方では無かったからだ。


「私にとって、彼女は母だ」


 フィフは、鋭い目をさらに尖らせて、窓の外を睨んだ。

 珍しい表情(とはいえ、ネズミ型の時には表情なんて分からないのだが)に、私はやはり悔いる。

 彼にも色々あるんだろう。


「そう言えば、さっき何で叫びだしたの?」


 話を変えるために言った言葉に、フィフは真っ青になった。私、爆弾踏みまくってるな……。

 でも、ここまで青くなるような事があの瞬間に行われていたとは。全く記憶にない。

 フィフは何がそんなに……?


「お前が、カリノとか言うから。知り合い、いや知り合いたくない人間にカリノという奴がいて」

「知り合いたくないって、名前知ってるんなら、知り合いじゃない?」


 私はおかしいと思った事を指摘していただけだったのだが、フィフは頭を抱えて落ち込み始めた。

 キイキイ言わないフィフは珍しく、そんなに嫌いなのかとちょっと可哀想になった。

 っていうか、フィフをここまで落ち込ませる人って、どんな魔物だよ!?

 確かに、知り合いたくない。そんな人。


「でも、フィフの知り合いたくない人って、人間なの? 使い魔とか、吸血鬼じゃなく?」


 その言葉に、フィフは顔を上げた。

 ぱちくりした目は鋭く、お世辞にも可愛いとは言えないが、捨てられた犬のように見えなくないような気もする。……やっぱり、見えなかった。


「吸血鬼も使い魔も、今は通信を絶っている。昔は使い魔の友も居たのだが……な」

「そうなんだ……」


 っということは、カリノとは雁野先生という可能性もあるな。


「カリノとは、私がこの格好で公園に居た時に発見されて付きまとわれている」

「付きまとわれているぅ!?」

「あいつの目はギラギラしてて……非常に危ない」

「だいたい、なんでそんな所に居たの? しかも、その格好で」


 今度は何故かムスッとして答えられた。その顔の方がフィフらしいと思ってしまう私は、絶対間違っていない。


「私にも私の生活があるからな!」


 なんだそりゃ。

 まあ、深く突っ込まないようにしておこう。


「それより、まだ寝なくて平気なのか?」

「え?」


 時計を見れば、2時を回っていた。

 あ、明日は地獄かもしれない。私は睡眠がきちんと取れなかった時には、頭痛がするのだ。


「もう、寝るよ。お休み、フィフ」

「ああ。寝れば良い」


 そう言うものの、フィフは仁王立ちのままだ。


「帰りなよ」

「ふん。私だってこの場に留まりたいなどとは思って無いが、ゼロ様に任されたのだ」

「はい? 何を?」

「『麗を幸せにするように』とのご命令だ」

「はあ?」


 口をぽかんとあけていたら、フィフはいつの間にかネズミになっていた。

 ますます意味が分からない。


「ゼロ様のおっしゃられたことは絶対だ! お前を幸せにしてやろう」

「いや、いらん。そんな顔されてもいらんもんはいらん」

「……ならば、こっちにも考えがある!」


 そう言ったネズミは一瞬で姿をくらました。

 ……これは、つまり。


「陰ながら見守ってやろう! 感謝しろよ、小娘!」


 頭痛がしてきた。

 私が今日を通して理解出来たのは、哀しいかな平穏が遠ざかってしまったという事実だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ