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ある悩ましき昼 3

 教室に帰ろうと思って廊下を歩く。立ち話している生徒たちの横を通り抜けていくと、前から雁野先生が歩いてきた。どうしても目に入ってしまう人。でも、彼を見つけたのは、私があの人を意識していたからではなく、周りを女子生徒が囲っていたからだった。

 あの興味のなさそうな顔がどうも苦手。

 私には関係ないので、そのままその団体の横を通り抜けていこうとすると、先生からお声がかかった。


「月島さん」

「あ、はい……」


 いきなり呼ばれて面食らう。特に雁野先生と接点は無いはずだ。確かに教室に居て授業は受けているけど、発表をするわけでも手伝いをしにいくわけでもない私のことを知っているのが意外だった。


「今日、授業中に集中していなかったでしょう」

「あ、すみません……」


 ああ、そういうことですか。

 先生の授業に出ている女の子はみんな先生の一挙一動に釘付けだから、こういう目立ち方をしていてもおかしくないんだろう。……正直、面倒だ。


「そんな月島さんに、放課後手伝って欲しいことがあるのですが」

「……」


 何を考えているのか、まったく読めない。非常に怖いのは気のせいだろうか。

 じっと顔を見つめれば、お取り巻きの方々の声が上がった。


「手伝いなら、私がします!」

「いえ、私が!」


 すごい。これがファンクラブかなんかの執着心なのだろうか。

 あまりの熱気に一歩後ろに下がれば、先生が一歩前へ出てきた。


「授業の件でも話があるので、かまいませんね?」


 これって、もし嫌だって言えば、成績に影響しますかね?

 いや、そんなことはないんだろうな。少なくとも、そういうことは公平に処理しそうな気がする。なんか潔癖っぽいし。でも、理由もなしに断れるはずもなく。


「分かりました」


 周りの目線は痛かったが、先生の「授業の件」は効いているようで、これ以上何か言われることはないようだった。そうと決まれば、さっさと退散したい。


「では、数学の準備室でお待ちしてます」

「分かりました。帰りの会が終わり次第、伺います」


 よし、これでこの場から逃げられる。

 そう思った瞬間には、足を動かしていた。

 やっぱり視線が痛い気がするのだが、このままここに居るほうが彼女たちの負の感情を強めるだけだと思い、背を向けた。

 なんでこうも、今日はおかしなことがいっぱいあるんだろう。

 野本さんは可愛い感じだったのに、四郎君も雁野先生も怖いし。とりあえず、放課後も戦いっぽいなあ。

 げんなりしながら、教室に戻ってきた。

 席に着くと、いつものとおり、前の席の燿が話しかけてきた。


「おかえりー」

「ただいま。ねえ、耀。雁野先生ってどんな人?」


 一瞬驚いた顔をして、目を瞬かせる。


「珍しいね、麗が男の人に興味をもつの」

「そうかも。興味って言うよりは、恐怖? なんか放課後お手伝いと言う名のお呼び出しがあるみたいで……」

「う、うらやましい……」

「それだったら、変わって欲しいんだけど。成績の話とかしたいなんてさすがだねえ」


 恨めしそうに見れば、焦った顔をして「雁野先生ね」と話題を考えている振りをする。


「うーん。ファンクラブあるって言ったじゃない? でも、年下には興味ないらしいよ。なんでも、すっごく好きな人が居て、その人をずっと思い続けているそうな……」

「何それ」


 っていうか、先生が年下に興味あったら問題でしょ。

 これを言ったら、夢見がちな友人は食いついてきそうだったため、しゃべろうとした瞬間に止めたけれど。


「し・か・も。しかもしかもしかも、その好きな人って言うのが、外人のめっちゃ綺麗な人らしい」

「外人ねえ……」

「ありゃ、鈍い反応」


 確かにあの人人間離れしている感じがするし、なんか不思議な感じはするよね。

 ふむふむ。って、あまり参考になってない気がするんだけど。

 なんか、簡単な仕事だけだといいんだけどな。

 厳しそうな人だから、面倒な仕事言いつけられそうでもある……。


「じゃあ、もう一つ情報を! 保健の井伊波先生が振られたそうな」

「はいい!?」


 あの大人しそうな先生が、雁野先生を好きだってことがむしろ驚きなんですけど。


「まあ、ここら辺の話は信憑性無いんだけど、私はマジだと思うね」

「そんなもんですかね……? あの井伊波先生が、雁野先生を?」

「井伊波先生も結構良い性格してるんじゃないかと思うよ。だから、あのカッコイイ雁野先生を!」

「その情報はどっちかっていうと、女子生徒の嫉妬から生まれたんじゃ……? あの人、天然で童顔で一時期男子生徒がわーわー言ってたし」


 あれも雁野先生と同じで、なんか怖かったなあ。

 みんな目が血走ってたし、騒ぎが職員室全体に広がってたし。


「そんな可愛い先生が、憧れの先生に振られてしまえばいい、みたいな……?」

「割と麗も想像力がついてきたね!」


 褒められている気がまったくしない。


「あれ? でも、婚約者が居るんじゃなかったっけ? 確か、それであの騒ぎが収束したはずだったけど」

「それ以上は分かりませーん」

「適当だねえ」

「まあ、こういうのは楽しく話を盛り上げたりして、情報が錯綜するものなのでーす。まだ、どれが正解っていう答えが見つかってないからね」


 納得したようなしてないような中途半端な気持ちで居れば、次の授業のチャイムが鳴った。

 国語の冴えない先生が入ってきて、私たちのおしゃべりは中断された。

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