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ある悩ましき昼 2

R15です。

 重たい身体を引きずるようにして歩く。もしかしたら、熱があるかもしれない。病は気からというが、やっぱり色々弱ってしまっているんだろう。

 私は最初はそこまで重く考えていなかったのだ。

 よくよく考えてみると、もう会えないかもしれない。

 本当に嫌われてしまったとしたら、会いたいなどと思うだろうか。私だったら、苦手な人は避けてしまう。ゼロだって、面倒な私より後腐れの無い大人の女性の方が言いに決まっている。

 きっと、フィフだって私よりは物静かな人の方が合うだろう。

 ゼロは私の血にも興味は無くなってしまっているかもしれない。どうせ、物珍しさに私に血を請うただけだろう。いや、彼とそれだけの間柄ではないはずだ。

 少なくとも、私たちは友人で、短い間だったけど、一緒にお茶を飲んでおしゃべりした。

 でも、それも……食料のため。言ってしまえば、その言葉で終わってしまう気がした。

 こんな不安な日々を一月も過ごさなくちゃいけないんだろうか。

 ねえ。本当にもう会えない?

 ぐるぐると思考を埋めていく悲しい事実に、頭がガンガンしてくる。

 でも、どうやら目的地には着いたようだ。


「確か、ここだったよね」


 人避けがしてある不思議な空間。ゼロも確かに不思議な吸血鬼だったが、それを見せないだけ大人だった気がする。最初っから、彼の特異な能力を見せ付けられていたら、きっと仲良くなれなかっただろう。

 少なくとも、私はそういう人間だから。


 よし、ドアを開けよう。

 そう思って手を掛けたが、次の瞬間私はフリーズしていた。


「し、しろちゃんっ。ダメだってばっ!」

「何が? だって、ここに二人で居るって事はこうなるって分かってたでしょー?」


 真昼間から、何をして――!?

 中から漏れてくる声は、次第に余裕を失っていく。


「きちゃっ……よ」

「朝、俺を無視したバツ。レイちんに無視られるのはまあいいけどさー。セツナが俺以外になついているのを見ると、ね? ダメ……許さない」

「でも……っ、はな……し……」


 健気なセツナさんは、四郎君にその言葉が通じると思っていらっしゃるみたいだ。

 むしろ、怒らせるだけだろうけど。


「セツナの一番は俺でしょー? 俺と二人っきりなのに、レイちんの事を考えてるんだ。ずるいね、セツナは」


 これが四郎君の声なのだろうか。

 セツナさんにしてみたら、まあ攻めている声としか取らないかもしれないけれど。私にしてみたら、これは宣告だ。

 よっぽど、彼女に執着しているんだろう。

 そして、多分ここに私が居るのも分かってやってるな……。

 こんな困ったちゃんをよく好きになれるな、セツナさん。いや、私も「血をくれ」と言う吸血鬼さんに恋をしているみたいなんですけども。でも。

 ゼロは優しいもん。

 あー、恥ずかしい。キャラじゃない。


「っていうか、帰ろう……」


 邪魔なんかしたら、四郎君はもうセツナさんと話もさせてくれないだろう。

 私だって、この場に入っていく勇気なんて存在しない。

 四郎君から微妙に漏れている殺気に当てられる前に、退散するのが正しい選択だ。

 私は、とぼとぼとその場を後にした。


 教室に帰る気にもなれず、かといって行く当ても無い。とりあえず、近くにあった自販機でりんごジュースを購入すると、中庭へと向かった。

 人が少なく、ベンチが置いてある中庭。告白や呼び出しに使われるという噂だが、意外にも今は誰も居なかった。

 ストローをさし、紙パックのりんごジュースを啜る。

 うん、やっぱり糖分は必要みたいだ。なんか、楽になっていくのを感じる。

 話は出来なかったけど、まあ……朝の件は私にも非はあるわけだし、少し落ち着いてきた。

 あんな風に、彼が人を好きになるなんて、思わなかった。ちゃらんぽらんだという印象が強く、実際本人からも結構酷い話を聞いていたため、余計に不思議で、納得した。

 四郎君は、本当にセツナさんが好きなんだろう。だから、あんなに必死になるんだ。

 私に対する当て付けも、四郎君が純粋すぎるせいだろう。


――これ以上は入ってくるな


 その境界線を私に見せるためにあんなことをする四郎君。どうでもいい、もしくは大切しか存在しない四郎君。

 私はそんな彼の友人をやってきたのだ。こんなことでいちいち腹は立てないし、それにきっと彼には嫌われたわけじゃない。私のことを嫌いになったら、はっきり言う人だ。四郎君というのは、そういう人だ。

 私に渡した淫薬も、使い方をしっかり――というよりは、説明するなり捨てるなりしておけば、問題なかった訳だし、彼を恨むのはやっぱりお門違いなことだろう。

 人に嫌われるのは怖い。

 もう会えなくなるのは怖い。

 でも、四郎君は「セツナさん」さえ自分のものであったならば、私を切り捨てたりしないのだと私に知らせた。

 こんな事、普通ではないのに、どうしてか安心している。

 彼が絶対の友達になったからだろうか?

 そう、かもしれない。

 ゼロは綺麗過ぎていつ逃げてしまうか不安で、学校の友達は勿論信頼している子もいるけど、上辺だけな気がして。私のせいだと分かっているのに、直せない。手に入れたいと思うのに、逃げてしまうのが怖くて、触れないように気をつけていた。

 だから、四郎君もただそこに居るだけだった。恋愛感情なんて芽生えるわけは無いんだけど、四郎君にはセツナさんという絶対が居たから、隣に居ることが出来たのかもしれない。

 彼は私を必要以上に近づけない。でも、遠くなりすぎない。

 ああ、そうだ。彼の傍に居るということは、セツナさんの傍に居ることも出来る。こんな良い事は他にはない。

 残りを吸い切ると、私は立ち上がった。

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