prologue
昔に別名で書いていた作品のリメイク版です。
ゆっくりまったり頑張ります。
私は満月の夜に、窓を開けて空を見上げていた。
綺麗な月に、綺麗な星。
いつも一緒に居てくれるいっぱいのお友だちだった。
空は晴れていて――夜だったけれど――、澄んだ空気が心地良い日だった。
満月がいつもより近い気がして、手を伸ばす。
「今晩は、お嬢さん」
男の人の声がして、にゅっと人影が出てきた。
「良い夜ですね」
闇を抱えて現れた彼に驚いて、悲鳴を上げそうになった私の口を彼は片手で押さえこんだ。
背筋を冷気が抜けてきて、泣きそうになる。
「ごめんね」
ギュッと抱きしめられ、恐怖と共に別の感覚があるのを自覚した。
「ごめんね、可愛いお嬢さん」
泣いているんではないかというほど、彼の声は震えていた。
何で、こんな綺麗なのに、悲しいんだろう。
肩に顔を埋めさせられてしまい、寂しい声の持ち主の顔を見ることは出来ない。
どうにかして、肩の上に顔を出すことに成功する。
――綺麗……。
月のようにキラキラ光る髪がすぐ目の前にあり、さらさらと揺れている。
私はきゅうにそれが欲しくなった。
いや、ずっと欲しかったのだけれど、手に入るものではなかったから、諦めていたのだ。
――これなら、届く。
そう思った次には、すっと手を伸ばしていた。
「――!?」
彼の髪に触れた瞬間は、月を手に入れたような気持ちだった。
艶やかな髪は、触ると手からすぐに零れ落ち、重力に従って地面に向かって垂れる。
絶対に手には入らないから、余計に興奮した。
月は柔らかくて、すごく切ない。
「君……」
呆然とした彼と瞳が合い、私自身何がしたかったのか見失った。
ずっと、寂しかった。私だけの満月を望んでいた。
でも、彼は私の所有物にはならないし、私は彼の所有物だ。
きっとそうなると思った。いや、もうなっていたのだ。
なんて、悔しいんだろう。
「君の名前は?」
「れ、麗……」
私の戸惑う声に、彼は緩やかに笑った。
「麗。君が食べたい」