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妹を生き返らせてもらうはずが、何故か隣にいた用心棒(生きてる)が生き返った話

作者: zakoyarou100
掲載日:2026/02/14

世界の中心にある《光の世界樹》は、遠目にはただの白い柱に見えた。


だが近づけば分かる。

――あれは、木なんかじゃない。


空を貫く骨。

雲を裂く槍。

枝先から零れる光が、昼と夜の境界を曖昧にしてしまうほどの、世界そのものの心臓。


その根元に、円形の祭壇がある。

そして祭壇の前に積まれた金貨の山――一千万ゴールド。


金貨は重い。

触れれば指が痛くなるほど現実的で、冷たく、汚れていて、だからこそ価値がある。

この金貨は、二年分のボクの人生だ。


ボク――ノルグは、震える息を喉で殺して、祭壇の前に膝をついた。


(……妹を、取り戻す)


二年前。

疫病の流行で、妹のルナは――あっけなく、眠るみたいに逝った。


「お兄ちゃん……ごめんね」


笑って、そう言い残して。

そのまま閉じた目は、二度と開くことはなかった。


そして、それからの二年。

ボクは商人見習いから始め、荷車を引いて街を渡り、時には盗賊に襲われ、魔物に追われ、それでも金を稼いだ。

大人みたいに強くはなれなかったけれど、ボクにはボクの武器がある。


――人を見て、値を見て、勝ち筋を作る。


気弱でもいい。

怖くてもいい。

ボクは、妹を生き返らせると決めたから。


─────


「ふぁぁぁぁ……」


その時、背後で誰かが欠伸をした。


「で、いつ始まるんだ? 樹に向かって土下座するイベントは」

「レミッドさん……静かにしてください。神聖な場所です」


用心棒のレミッドが肩をすくめる。

背中には巨大な銃――《魔心銃マシンガン》がある。マナを弾丸のように連射する珍しい武器で、彼女はそれで魔物を蹴散らす。


ただし、本人は笑いながらよく言う。


「これがな、災いを呼ぶんだよ。マジで」


(縁起でもない……)


けれど、彼女がいなければボクはここまで辿り着けなかった。

空腹で行き倒れていたところを助けたら、なぜかそのまま居つき、用心棒を名乗った――ガサツで乱暴で男勝り。

でも、困っている人を放っておけない人。


「ノルグ、泣くなよ」

「泣いてません……」

「目、うるうるしてるけど?」

「こ、これは光が眩しいだけです!」


レミッドがニヤついた、その瞬間。

祭壇の空気が、突然“重く”なった。


木の息遣いが変わる。

いや、世界の呼吸そのものが止まるような感覚。


風が止み、鳥が黙り、音が消える。

――世界樹が、こちらを見た。


目なんてないのに、確かに見られている。

胸の内側へ、声が落ちてくる。


『一千万ゴールド。願いの対価は確かに受け取った』


声は男でも女でもない。

それなのに、逆らえない。


『さぁ、願いを叶えよう。

心に浮かべ、生を返す者の名を告げるだ』


ボクは深呼吸して、言葉を整えた。

丁寧に。失礼のないように。噛まないように。


「……ボクの妹、ルナを――生き返らせてください。二年前に死んだ、ボクの大切な――」

『承知した』


早い。

拍子抜けするほど早い。

次の瞬間、祭壇が爆ぜた。


金貨が――光に溶けていく。

一枚ずつ消えるんじゃない。山が一瞬で“溶ける”。

現実が、神話に塗り替えられる。


光の柱が空へ突き刺さり、枝から降る光が雨になって、祭壇へ集まる。


そして。

光の中から、“誰か”が現れた。


――重い音。

膝をつく影。


肩までの髪。

傷のある手。

背中に、巨大な銃。


(……え?)


喉から声が漏れた。


「……レミッド、さん?」


影が顔を上げる。

その目は、見慣れたふてぶてしさで――


「……なんだよ。そんな顔すんなよ」


レミッドが、そこにいた。


ボクの妹じゃない。

用心棒の、レミッドだ。


辺りを見見ても、誰もいない。


(まさか、失敗した?)


そう思い始めた瞬間、声が響く。


『復活対象:レミッド。儀式は完了』


――完了?


「ま、待ってください! おかしいです!」


声が裏返った。

丁寧に言う余裕なんて消えていた。


「ボクは妹を! ルナを生き返らせてって! ちゃんと言いました! 今、言いました!」

『記録に誤りはない』


祭壇に積まれた一千万は、もう灰だった。

キラキラしていたはずの金貨は消え、残ったのは焼けた金属の匂いと、灰だけ。


夢が燃えた匂いがした。


「……ふざけんな」


ーー低い声。

レミッドが《魔心銃マシンガン》を肩に担ぎ直しながら、世界樹を睨んだ。


「アタシ、死んでねーし。勝手に復活とか意味わかんねぇ。金返せ。今すぐ返せ!!」


ボクは、頭が真っ白だった。


(世界樹は間違えない――って、誰もが言う)


じゃあ、なに?

ボクの願いが、間違ってる?

それとも――世界樹が“別の形で叶えた”?


理解が追いつかない。

だけど。

現実は、待ってくれなかった。


森の方角から、足音が来る。

甲冑の擦れる音。複数の靴音。

松明の揺れる光。


(世界樹の周囲には王都の監視が張られている――そんな噂を、今さら思い出した。)


「――見つけたぞ! 魔心銃の持ち主だ!」

「回収局だ! 大人しくしろ!」


回収局。

王都が作った危険武器取り締まり機関。表向きは正義。

裏では、武器も人も“回収”していく――って噂がある。


「チッ」


レミッドが舌打ちした。


「ほらな。言ったろ。災い呼ぶって」

「えぇ……? こんなタイミングで……!?」

「タイミングなんて選べねぇんだよ!」


松明の列が迫る。

黒い法衣の術師が混ざっている。

鎖と縄を持っている。

目が“人間を見る目”じゃない。


中心にいる、指揮官らしき男が叫んだ。


「器を確保しろ! 『核』を損なうな! 魔心銃も回収だ!」


――器? 核?

意味の分からない言葉が、背筋を冷やす。


ボクが息を呑んだ瞬間、レミッドの背の《魔心銃マシンガン》が――ひとりでに唸った。

低く、獣みたいに。


銃の内部から黒い霧のようなマナが漏れ、地面に影を落とす。

それは普通のマナじゃない。冷たくて、嫌な匂いがする。


レミッドが苦々しく笑った。


「……ほら、こっちもやる気だ」

「やる気って……!」

「決まってんだろ」


レミッドは《魔心銃マシンガン》を引き抜いた。

動きは荒いのに無駄がない。戦う人間の動きだ。


「ノルグ、後ろに下がれ!」

「む、無理です! ボクの一千万が灰になったばかりなのに、今度は殺されるとか……!」

「馬鹿野郎! 生き延びてから思いっきり泣け!」


回収局が突っ込んでくる。

術師が地面に手を叩きつけ、捕縛の陣が広がった。

足が重い。動けない――!


(まずい!)


ボクは反射的に目眩しの魔法を放った。

光の粒が弾け、術師たちの視界を奪う。


「――っ!」

「いいね、商人。やるじゃん!」


レミッドが笑いながら引き金を引いた。


“ダダダダダダ――!”


音が、森を裂いた。

マナの弾丸が線になって走り、捕縛の陣が割れる。

鎖が弾け、兵が転がる。

土がえぐれ、松明が倒れ、夜が明るく燃える。


強い。強すぎる。

その強さが、怖い。


(この人……どこで、こんな戦い方を……?)


「殺すな! 器は生かして連行しろ!」


(器――レミッドさんのこと?)


背筋が冷たくなる。


「レミッドさん! こっちです!」


ボクは祭壇の裏へ走った。

事前に調べていた。世界樹の根元には、巡礼者のための古い祈祷路が残っている。

入口は、人一人分の裂け目。


「こっちに逃げ道が――!」

「ナイス、商人!」


レミッドは撃ちながら後退し、ボクの方へ跳んだ。

最後に弾幕を一斉掃射し、追っ手を押し返す。

二人で裂け目に滑り込む瞬間、背後から術師の声が飛んだ。


「逃がすな! 器を失えば、統合ができぬ! 核が――!」


統合。核。器。

嫌な単語が、綺麗に繋がっていく。


─────


裂け目の中は、根の匂いがした。

湿った土と、白い光。

暗いのに、目が慣れる。

壁は木の根。脈打つように、光が流れている。


レミッドが息を吐いた。


「……はぁ。追っ手、しつけぇな」

「レミッドさん……あなた、何なんですか?」


ボクの声は震えていた。

怒りとも悲しみとも違う。分からないものが怖い。


「世界樹が、あなたを復活対象って……ボクの願いは、妹だったのに……!」


レミッドは歩きながら、少しだけ顔をしかめた。


「知らねぇよ。アタシはアタシだ。……ただ」


一瞬、声が揺れる。


「時々、夢を見る。子どもの声で、名前を呼ぶ夢」


「名前……?」


レミッドは唇を噛む。


「『ノルグ』って。……あったかい手で、頭を撫でる夢」


ボクの視界が滲んだ。


――妹が、よくやった癖。

泣き虫のボクの頭を撫でて、笑って言った。


『ノルグ、だいじょうぶ。だいじょうぶだよ』


偶然だ。

そう思いたい。


でも、世界樹は間違えない。

回収局は“器”と呼んだ。

そして――


レミッドの《魔心銃マシンガン》が、また唸った。

今度は、さっきより強く。


黒い霧が、銃口からだけじゃなく――レミッドの胸のあたりからも漏れているように見えた。

銃と彼女の鼓動が、同じリズムで唸っている――そんな錯覚がした。


レミッドが舌打ちする。


「……くそ。これ、やっぱり――」

「やっぱり……?」


彼女は一瞬だけ言葉を止めた。

その沈黙が、答えより怖い。


出口の光へ走りながら、ボクは決めた。

妹のために稼いだ金は消えた。

でも、願いは終わってない。


(ボクは商人だ。取り返す)


――妹の真実も。

――レミッドさんの正体も。

――世界樹が“叶えた形”の意味も。


─────


出口へ飛び出した瞬間、森の空気が変わった。

冷たい夜気。だがその中に――獣の匂い。


前方の闇で、赤い目がいくつも光った。

魔物の群れだ。


そして背後では、《回収局》の松明が迫ってくる。


挟み撃ち。


レミッドが笑う。

最悪を楽しむみたいに、いつもの顔で。


「ほらな。災い、来ただろ?」


ボクは震える手でマナを練り、火の玉を作った。

小さい火。頼りない火。

それでも。


「……レミッドさん。合わせます」


レミッドが《魔心銃マシンガン》を構える。


「おう。商人の根性、見せろ」


闇が迫る。光が裂ける。

牙が地面を擦り、低い唸り声が祈祷路の出口を塞ぐように広がった。


狼型の魔物。

筋肉が異様に盛り上がり、マナの流れが暴走しているのが、素人目にも分かる。


(……こんな数、聞いてない)


背後では《回収局》の松明が森を照らし始めていた。

前も後ろも、逃げ場がない。


「……挟み撃ちか」


レミッドが、軽口を消した声で言う。

魔心銃マシンガン》を構えた背中が、やけに大きく見えた。


「ノルグ。これ、長引かせるとヤバい」

「分かってます……!」


ボクは火の玉をもう一つ作った。掌サイズ。

正直、魔物を倒すには足りない。

でも――


(怯ませるだけでいい)


商人は、全部を倒そうとしない。

勝てるところだけを抜く。逃げ道だけを作る。


「レミッドさん! 右の群れ、少し前に出てます!」

「了解!」


ボクの火の玉が地面を焼いた。

狼の足元で弾け、熱と光が広がる。


「――ッ!」


魔物の動きが止まった瞬間、レミッドが引き金を引いた。


“ダダダダダダ――!”


夜が割れる。

マナの弾幕が一直線に走り、群れを横から削る。

血とマナが飛び散り、魔物が転がる。

速い。正確。ためらいがない。


(……強い)


でも同時に。

レミッドの体から、黒い霧が噴き出した。


「……ぐっ」


レミッドが息を詰まらせる。

銃の反動じゃない。霧は――銃より、彼女自身から溢れている。


「レミッドさん!?」

「平気だ……っ。まだ動ける!」


背後から、《回収局》の術師が詠唱を始めた。


「拘束陣、展開! 『器』を捕らえろ!」


地面に光る紋様が走る。さっきより強い。

逃げ道を塞ぐように円を描く。


(まずい……!)


ボクは歯を食いしばり、目眩しの魔法を重ねた。

視界が白く弾け、術師たちの詠唱が乱れる。


「――っ!」

「チッ……!」


それでも、指揮官の声だけははっきり通った。


「急げ! 『器』の負荷が上がっている!

『核』が完全に目覚める前に回収しろ!」


『核』。

その言葉に、胸が締め付けられた。


(やっぱり……レミッドさんの中に、何かある)


魔物の残党が、再び飛びかかってくる。今度は――ボクの方へ。


「ノルグ!!」


レミッドが迷わず飛び込んできた。

魔物の牙が、彼女の脇腹を裂く。


「――痛つぅっ!!」


血が飛んだ。


「レミッドさん!!」

「くぅ……っ」

「回復します!!」


ボクは震える手で回復魔法を流し込む。

マナが傷を塞ぐ――間に合った。けれど。


その瞬間、ふわりと懐かしい匂いがした。

草花。陽だまり。

妹が髪に結んでいた匂い。


(……嘘)


喉から声が漏れた。


「……ルナ?」


レミッドの動きが一瞬止まった。

そして――彼女の目が、柔らかく揺れた。

ほんの一瞬、戦場に似つかわしくない穏やかな目。


「……なんだよ。そんな顔すんな」


レミッドは無理に笑った。


「すみません……懐かしい匂いが少し……」

「……はぁ? 匂いで人を決めんな。変態か?」

「ち、違います!!」


でも否定しきれない。

指揮官が、確信したように言った。


「やはりな……『核』が反応している。

この『器』は――『欠片』として完成している」


『欠片』。


その言葉が決定打だった。


(妹の……魂の、欠片?)


理解してしまった瞬間、足が震えた。


「ノルグ!」


レミッドが叫ぶ。


「立て! 今は考えるな!」


魔物はまだいる。《回収局》もいる。

ここで止まれば、終わりだ。

ボクは歯を食いしばり、立ち上がった。


(……考えるのは、生き延びてからだ)


レミッドが《魔心銃マシンガン》を構え、最後の弾幕を張る。


「行くぞ! 一気に突破する!」

「はい!」


二人で闇を駆けた。

弾丸が道を切り開き、火の玉が影を追い払い、回復魔法が命を繋ぐ。


背後で、指揮官の声が響いた。


「逃がすな!

その『器』は――世界樹が“選んだ”存在だ!!」


その言葉を背中で聞きながら、ボクは理解した。


――世界樹は間違えたんじゃない。

――妹を無視したんじゃない。


世界樹は、ボクに“選択”を突きつけたんだ。

妹を取り戻すか。

それとも、レミッドを生かすか。


逃げながら、ボクは決めた。


(商人として――この取引、最後まで見届ける)


─────


夜明け前の森は冷たい。

露が草を濡らし、息を吐くたび白く曇る。


なんとか――生きて延びた。

追っ手の気配が、少しずつ遠ざかっている。

レミッドが木立の奥で手を上げた。


「……待て。いったん休むぞ」


崩れかけた石の祠。

古い巡礼路の分岐点らしく、根と岩が絡み合い、外からは見えにくい。


二人は息を殺して身を潜めた。

しばらくしても松明の光は追ってこない。


「……撒けた、みたいですね」

「はぁ……さすがに、しつけぇ奴らでも森の奥までは来ねぇか」


その瞬間、レミッドの肩が大きく揺れた。


「――ぐぁっ!」

「レミッドさん!?」


脇腹の傷は塞いだはずなのに、顔色が悪い。


「……平気だ。怪我じゃねぇ」


レミッドは歯を食いしばり、《魔心銃マシンガン》を地面に置いた。

銃身から、例の黒い霧がまだ微かに漏れている。


レミッドは少しだけ目を伏せた。


「昔、王都の地下に研究所があった。

魔心銃マシンガン》の開発と、“適合者”の選別をしてた場所だ」


ボクは黙って聞いた。今は質問を挟むべきじゃない。


「アタシは、そこで“成功例”扱いされた」


成功例。

その言葉が、妙に重い。


「マナ耐性が高くて、銃に耐えられて、壊れなかった。

だから……何度も撃たされた。敵役も、実験用の魔物も、全部」


胸が痛んだ。


「逃げたんですか?」

「あぁ……逃げた」


レミッドは短く答えた。


「逃げなきゃ、もっと“組み替えられる”ところだった。

魂とか『核』とか……訳の分かんねぇ話を、あいつらは普通にしてた」


(『器』『核』『欠片』……)


繋がる。嫌な形で。


「……ボク」


喉が震えた。けど、言わなきゃいけない。


「さっき《回収局》が言ってました。

“『欠片』として完成している”って」


レミッドの指が、ぴくりと動いた。


「……そうか」


それだけ言って、少し黙る。


「なぁ、ノルグ」

「はい」

「もしさ……アタシの中に、誰かの“一部”があるとして」


レミッドはボクを真っ直ぐ見た。


「それでも、アタシはアタシだよな?」


ボクは、はっきり答えた。


「はい」


レミッドの目が見開かれる。


「レミッドさんは、ボクを助けてくれた人です。

一緒に旅して、笑って、怒って……それは全部、レミッドさん自身です」


少し間があって、レミッドがふっと笑った。


「……ほんと、お前、変な商人」

「商売人の性分です」

「意味わかんねぇよ」


そう言いながらも、声は少しだけ軽かった。

ボクは深呼吸する。


(泣いてる場合じゃない)


妹のことも。レミッドのことも。《回収局》の狙いも。

感情だけで突っ込んだら、また奪われる。


(商人として考えろ)


「レミッドさん。今の状況、整理します」

「お、来たな」


「まず、《回収局》は、あなたを『器』として回収しようとしている。

次に、世界樹は、あなたを“復活対象”として選んだ。

そして、あなたの中に『核』――少なくとも“何か”がある可能性が高い」


レミッドは黙って聞いている。


「最後に……

《回収局》は……あなたを殺す気はない」

「……まあな。殺すなら、とっくにやってる」


ボクは頷いた。


「つまり彼らは、“回収して使う”つもりです。

それは、あなたにとって――最悪の未来です」


レミッドの拳が、ぎゅっと握られた。


「……だから?」

「だから、先手を打ちます」


ボクは顔を上げた。


「情報を集めます。

《回収局》の内部事情。『核』と『器』の正確な意味。

そして――世界樹の“例外”」

「世界樹の例外?」

「はい。一生に一度の復活が、どうしてあなたに使われたのか。

そこには、必ず理由があります」

「商売人は、理由の分からない取引はしません」


レミッドはしばらくボクを見ていたが、やがて肩をすくめた。


「……分かった。アタシは頭使うの苦手だ。そういうのは任せる」

「はい。任されます」


空が、少し明るくなっている。


「次の目的地は、巡礼都市エルディアです」

「エルディア……世界樹信仰の中心か?」

「はい。あそこなら、“復活の例外”について知っている人がいます。

表の記録じゃなく――裏の、消された話を」


レミッドがニヤリと笑った。


「……危ねぇ匂いしかしねぇな」

「安全な取引なんて、ありませんから」


レミッドが《魔心銃マシンガン》を担ぎ直す。


「行こうぜ、商人。……アタシの命の値段、ちゃんと計算してくれよ?」


ボクは少しだけ笑った。


「高くつきますよ。とても……一千万じゃ足りないくらい」

「はは。最悪だな」


朝の光が森を照らす。

二人は歩き出した。逃亡者としてではなく、取引の当事者として。


─────


巡礼都市エルディアは、昼でも眩しい。


世界樹へ続く主要巡礼路の中継点として栄えた街で、白い石畳と金色の装飾がやたらと多い。

祈りのために作られた街のはずなのに――実際は祈りより金と情報が飛び交っていた。


「相変わらず人、多いですね……」


巡礼者。護衛付きの商隊。

僧衣の者もいれば、明らかに傭兵な格好もいる。


「まぁな。ここは、世界樹に近い分、人も情報も集まる」


レミッドが低い声で言う。


「でも同時に、嗅ぎ回る奴も多い。……《回収局》もな」


(だからこそ、慎重に)


街に入ってすぐ、二人は“商人らしい行動”を取った。

露骨に隠れず、露骨に目立たず。

ボクは市場へ。

レミッドは護衛を装って少し離れた場所を歩く。


(情報は、まず“無害な話題”から買う)


果物屋。香辛料屋。巡礼者向けのお守りの露店。

少額の買い物をしながら、世間話を混ぜる。


「最近、巡礼路が物騒だそうですね」

「ええ、魔物が増えたって噂で」

「王都の兵も増えてますよね」

「ああ、《回収局》の連中でしょ?」


――来た。


「《回収局》って、危険武器の取り締まりですよね?」


露店の男は声を潜めた。


「表向きはな。でも場合によっては“人”も持っていくって話だ」


胸がひやりとする。


「人、ですか?」

「そう。変わったマナを持ってる奴とか……世界樹絡みの噂がある奴とか」


ボクは深追いせず、果物を一つ多めに買った。


「……ありがとうございました」


情報は、少しずつ繋がっていく。

そうして、昼過ぎにボクはある名前を掴んだ。


――《帳簿屋のミレイ》。


表の商売は古文書と記録の仲介。

裏では“消された記録”を扱う情報屋。


(……高そうだな)


だが、行くしかない。

ボクはレミッドと合流した。


「当たり、引いたか?」

「はい。ただし……値段は高そうです」


「情報は、命より安い時もある」

「商売人としては、逆の感覚なんですけど……」


レミッドが鼻で笑った。


─────


路地裏。古い石造りの建物の地下。

重い扉を叩くと、中から声がした。


「――帳簿は、正直に付けてる?」


合言葉だ。


「はい。赤字も、黒字も」


扉がゆっくり開いた。

中にいたのは、細身の女性。年齢不詳。

目だけが異様に鋭い。


「……珍しいわね。随分若い商人だこと」

「ノルグと申します。情報を買いに来ました」


ミレイはレミッドを一瞥する。


「護衛付き? ……それも、随分物騒なのを」


レミッドは無言で睨み返した。

ボクは懐から小袋を出す。金貨が軽く鳴る。


「“復活の例外”について、知りたいんです」


ミレイの目が、わずかに細くなる。


「……安くないわよ」

「分かっています。ですが――“途中まで”で構いません」


ミレイが面白そうに笑った。


「賢いわね。じゃあ……まずはここまで」


彼女は指を一本立てた。


「世界樹の復活は確かに“一生に一度”。

でも例外が三つだけ記録されている」

「三つ……」

「共通点は――魂が“単独じゃなかった”こと」


レミッドの指が、わずかに動いた。


ミレイは淡々と続ける。


「強い感情で結びついた魂は、分かれることがある。

守りたい、代わりたい、生きてほしい――そういう願いが歪みを生む」


そして、その歪みを“資源”として見ている組織がある。


「王都《回収局》。正確には、その内部にある“再生派”」

「再生派……?」

「ええ。彼らは復活を“技術”にしたがっている。

世界樹の奇跡を、量産できる形にね」


レミッドが低く呟く。


「……だから『器』か」


ミレイは頷いた。


「『器』は魂を留めるための存在。『核』は元になる魂の中心」


ボクは震える声で尋ねた。


「『欠片』は……?」


ミレイはレミッドを見る。


「『欠片』は――もう一つの人生を、生きてしまった魂よ」


その言葉は重かった。


「……それを、統合すると?」


ミレイは一拍置いて答えた。


「『欠片』は消える。“元の形”に戻すためにね」


沈黙。

レミッドが、ふっと息を吐いた。


「つまり、アタシは……戻すための材料か」

「そうなるわね」


ボクの拳が震えた。


「……《回収局》は、今どこまで?」


ミレイは指を二本立てた。


「もう、あなたたちを認識してる。

巡礼都市に入ったのも、把握済みでしょう」


レミッドが《魔心銃マシンガン》に手を置く。


「……って事は、間違いなく」

「来るわ」


ミレイは静かに言った。


「次に捕まったら――“交渉”はできない」


ボクは深く頭を下げた。


「……はい。ありがとうございました」


ミレイは薄く微笑んだ。


「若い商人なのに……いい顔してるわ」


地下を出た瞬間、街の喧騒が戻る。

レミッドがぽつりと言った。


「なぁ、ノルグ……怖いか?」

「はい。でも――逃げるより、マシです」

「だな」


二人が歩き出す。

その背後で。巡礼路の鐘が鳴った。

同時に、街の各所で黒衣の人影が動き出す。


――《回収局》が、包囲を始めていた。


─────


鐘の音は祈りの合図だったはずだ。

だが今鳴っているそれは違う。短く、鋭く、何度も。


「……非常鐘だな」


通りの向こうで人の流れが変わる。

巡礼者が足を止め、商人が店を閉め、僧たちが建物の中へ消える。


代わりに現れたのは、黒衣の集団。

人数はざっと二十。前後を挟む配置。

逃げ道を潰す動きだ。


(完全に、囲いに来てる)


指揮官格の男が一歩前に出た。整った身なり。冷たい目。


「ノルグ殿。そして――『器』」


レミッドの眉が跳ねる。


「その呼び方、やめろ」

「事実だ」


指揮官は淡々と続けた。


「あなたは世界樹の例外に該当する存在。国家の管理下に置かれる義務がある」

「義務だと?」


レミッドが《魔心銃マシンガン》に手をかける。

周囲の局員が即座に術式を展開し、銃口が向く。


(……ここで撃ったら、終わりだ)


ボクは一歩前に出た。


「少し、お話をさせてください」


声は小さい。でも、はっきりしていた。


「あなた方の目的は“回収”ですよね。なら、破壊は本意ではないはずです」

「我々は国家機関だ。個人の感情で動くつもりはない」

「分かっています。ですが――ここで戦えば街に被害が出ます」


周囲には、まだ避難しきれていない巡礼者がいる。

指揮官も、それを分かっている。


「世界樹の街で流血沙汰。あなた方の“正義”は、どう説明するつもりですか?」


指揮官の目がわずかに細くなった。


「……脅しか?」

「交渉です」


ボクはきっぱり言った。


「ボクは商人ですから」


レミッドが横目でボクを見る。


(……やる気だな、こいつ)


指揮官は短く息を吐いた。


「……時間をやろう。だが、逃げ場はない」

「十分です」


(時間があれば、取引はできる)


「条件を提示します」

「聞こう」

「レミッドさんは『核』ではない。『欠片』として、すでに一つの人生を生きている存在です」


回収局の中でざわめきが起きた。


「統合は“消失”を意味する。それは回収ではなく、処分です」


指揮官の声が冷たくなる。


「言葉遊びだ。国家の未来のためには――」

「未来のために、誰かを材料にするのが正義ですか?」


ボクの声は震えていない。


「あなた方は世界樹の意志を無視している。世界樹は、彼女を“選んだ”」


指揮官が、はっきり眉をひそめた。


「……それ以上、世界樹を語るな」


(効いてる)


その時だった。

レミッドの《魔心銃マシンガン》が低く唸った。

黒い霧が溢れ出す。だが今までと違う。

霧はレミッドを縛るようにではなく、外へ押し返すように広がった。


術師が声を上げる。


「拘束呪式が……拒絶されている!?」


レミッドが歯を食いしばる。


「……ノルグ。さっきから、なんか変だ」

「何がですか?」

「……中が、静かなんだ」


『中』。

それが何を指すか、ボクにはなんとなく分かった。


(妹の欠片……?)


指揮官が明らかに動揺する。


「馬鹿な……まだ目覚める段階では――」


(動揺してる。今だ……!)


「見ての通りです」


ボクは静かに言った。


「あなた方の管理下に置く前に、彼女は“自分の意志”を取り戻し始めている」

「……」

「ここで無理に回収すれば、“世界樹に選ばれた『器』を壊した”という事実だけが残る」


一拍置いて。


「――取引を、やり直しましょう」


指揮官は長い沈黙の末、言った。


「……条件は?」

「本日は撤退してください」

「それだけで済むと?」

「いいえ」


ボクは真っ直ぐ見返す。


「代わりに――ボクが“例外”を調査します。

世界樹の意志を、ボクなりに検証する。結果は、あなた方にも共有します」


指揮官が低く笑った。


「……子どもが、随分大きく出たな」


「商売人は信用が命です。嘘はつきません」


「ただし――彼女を材料にする研究には、協力しません」


再び沈黙。

やがて指揮官は手を上げた。


「……いいだろう。今日は撤退する」


局員たちがざわめく。


「だが――次はない。次に会う時は“結果”を持ってこい」


黒衣の集団が街に溶けるように去っていく。

非常鐘が止まり、空気が少しだけ戻った。

レミッドが肩の力を抜く。


「……はぁ。心臓に悪ぃ」


ボクもその場に座り込みそうになるのを堪えた。


「……ボクもです」


レミッドが少しだけ笑う。


「なぁ、ノルグ。お前さ――あいつらより怖ぇわ」

「そ、それは……褒めてますか?」

「あぁ。褒めてる……誇れよ?」

「……ありがとうございます」

「顔……赤くなってるぞ?」

「赤くなってません!」


レミッドが、くくっと笑った。


「……さて、行こうぜ。約束したんだろ?」


ボクは立ち上がる。


「はい。世界樹の意志を調べます」


その夜――二人は、街の最奥へ向かった。

《回収局》が引いた“猶予”は短い。使えるうちに使う。


────


《世界樹文書庫》は、巡礼都市エルディアの最奥にあった。


大聖堂の地下。祭壇のさらに下。

石と根が絡み合い、天井から白い光が滴る場所。


「……静かですね」

「あぁ。ここはな」


案内役の老僧――エルディア僧正が答える。


「ここは、祈る場所じゃない。“読まれる”場所だ」


文書庫に本は少ない。

代わりにあるのは石板、記録結晶、樹皮のような薄片。

どれも文字が刻まれているが、完全な文章ではない。


「……欠けてますね」

「世界樹は、すべてを書き残さない。都合の悪い記録は――“落ちる”」


レミッドが鼻で笑う。


「便利な神様だな」

「便利でなければ、信仰は続かん」


僧正は淡々としていた。


ボクは胸の奥で覚悟を固める。


「……復活の例外について、知りたいんです」


僧正はボクをじっと見た。


「若いな。だが――目が逃げていない」


ゆっくり奥の石板を指す。


「三例ある。正式記録には二例しか残っていないが」


喉が鳴った。


「……残りの一例は?」

「失敗例だ」


空気が重くなる。


「魂が分かれ、再統合を試みた結果、“どちらも壊れなかった”」


レミッドが僧正を見る。


「……どういう意味だ」

「二つの魂が、別々の人生を選び続けた。

世界樹は、どちらも否定できなかった」


(否定できなかった……?)


「その結果、どうなったんですか?」

「記録が、消えた」


僧正は静かに言った。


「存在が消えたのではない。“干渉できなくなった”」


ボクは、はっとした。


(世界樹でも手を出せない状態……)


レミッドが腕を組む。


「それ、つまり――」

「選択が本人たちに委ねられた、ということだ」


僧正ははっきり告げた。

胸に熱が灯る。


(それなら……)


「……その失敗例。『欠片』の方は、どうなったんですか?」


僧正の視線がレミッドに向く。


「――強い武器を持っていた」

「……は?」

「世界樹の加護を、拒むための武器だ」


ボクは息を呑んだ。


(拒む……?)


僧正は続ける。


「世界樹は奇跡を与える代わりに、世界への“接続”を強める。

だが、拒む者もいる」

「研究所……王都の地下」


ボクが呟くと、僧正は頷いた。


「世界樹の奇跡を制御しようとした者たちだ」


レミッドの背が強張る。


ボクは確信した。


「その武器……《魔心銃マシンガン》に、似ていませんか?」


僧正はゆっくり頷いた。


「世界樹の干渉を弾き返す武器。奇跡を兵器へ落とすための装置」


レミッドが歯を食いしばる。


「……アタシは、世界樹を拒むために作られたのか」

「可能性は高い」


沈黙。

ボクは言葉を選ぶ。


「……妹のことは、まだ分かりませんか?」


僧正は首を振った。


「『核』の意志は、まだ静かだ。だが――」


一拍置いて。


「『欠片』が強く生きようとするほど、『核』もまた目を覚ます」


胸が締め付けられた。


(レミッドさんが、生きようとすればするほど……)


僧正は最後に言った。


「次に揺れるのは――彼女の“過去”だ」


レミッドが顔を上げる。


「……過去?」

「封じてきた記憶は、世界樹より先に本人を縛る。

避けられん。だが、知る価値はある」


文書庫を出ると、外は夕暮れだった。

空が茜色に染まっている。


レミッドがぽつりと呟く。


「……なぁ、ノルグ。次、アタシの話になる。多分、気分のいいもんじゃねぇ」


「それでも、聞きます」

「……覚悟、決めてんな」

「商売人ですから。知らないままの取引は、しません」


レミッドはしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。


「……じゃあ、次は――アタシが逃げた理由からだ」


その夜。


焚き火の前で、レミッドはようやく口を開いた。

その声はぶっきらぼうで、どこか投げやりで――それでも、逃げなかった。


「……最初に奪われたのは、名前だった」


─────


「――次の被験体。番号《E-17》、前へ」


呼ばれた瞬間、胸の奥が冷たくなる。

でも、顔には出さない。

レミッドは黙って一歩前に出た。


(……また、番号)


ここでは誰も名前を呼ばない。

呼ぶ必要がないからだ。


王都地下研究所。

地上から見れば、存在しない場所。記録にも地図にも載らない。

載っているのは――成果だけ。


「年齢推定、十五。マナ耐性、高。精神抵抗、標準以上」


白衣の男が淡々と読み上げる。


「《魔心銃マシンガン》適合試験、第三段階へ移行する」


レミッドは歯を食いしばった。


(第三段階……)


ここまで来て生き残っているのは、もう数人しかいない。


視線の先。

隣の檻――いや、待機室の床には、誰かが倒れていた。呼吸はある。

でも目は虚ろで、もう“戻ってこない”と分かる。


「――E-17、躊躇するな」


白衣の女が冷たく言った。


「これは、国家のための研究だ」


国家。正義。未来。

何度も聞いた言葉。


(……うるせぇ)


レミッドは無言で実験台に立った。

背中に、冷たい金属が触れる。


――《魔心銃マシンガン》。


まだ“銃”と呼ぶには無骨な形。

銃身は太く、管のようで、内部にマナを流すための符文がびっしり刻まれている。


「……重いな」


ぽつりと漏れた声に、研究員は反応しない。


「接続開始」


拘束具が締まり、肩と腰が固定される。逃げ場はない。


「マナ供給、上昇」


次の瞬間。

――熱。

内側から焼かれる感覚。


(……っ!)


叫びそうになるのを歯を噛みしめて堪える。


「耐えている……」

「数値、安定」

「やはり適合率が高い」


誉め言葉みたいに言うな。


「次。疑似対象、投入」


檻の向こうから、魔物が引きずり出された。

鎖に繋がれ弱らされているが――それでも目は生きている。


「撃て」


命令は短い。

レミッドは引き金に指をかけた。


(……やらなきゃ、次はアタシだ)


分かっている。逆らえば“処分”されるだけ。

引き金を引く。


――ダダン。


マナ弾が魔物の胴を貫いた。血が飛び、檻に叩きつけられる。


「おぉ……成功だ」


研究員が満足そうに言う。

胃の奥がひっくり返る。


(……成功じゃねぇ)


その時、胸の奥で何かが、ひくりと動いた。


(……?)


ほんの一瞬。

頭の奥で、誰かの声がした気がした。


『……だいじょうぶ』


幼い声。女の子の声。


(……誰だ?)


幻聴だ。そう思おうとした。


「E-17。次は連射試験だ」


休ませる気はない。


魔心銃マシンガン》が、再び熱を帯びる。今度はさっきより――深く。


「……ぐっ」


視界が揺れる。世界が歪む。


「精神値、低下」

「構わん。限界を見ろ」


限界?


(……ふざけんな)


その瞬間、胸の奥の“何か”が強く反応した。


『……だいじょうぶ。だいじょうぶだよ』


はっきり聞こえた。

温かい。

頭を撫でられる感覚。

レミッドの目から、涙が落ちた。


(……なんだよ、これ)


「!? 精神反応、異常!」

「数値が跳ねた……!」

「だが――安定している?」


研究員たちがざわつく。

レミッドは荒い息を吐きながら、《魔心銃マシンガン》を握りしめた。


(……アタシは、まだ壊れてねぇ)


白衣の女が、低い声で言った。


「……やはり、『核』がある」


『核』。

その言葉が、初めて出た。


「魂の残滓が、安定剤になっている。だから壊れない」


安定剤。


(……意味、分かって言ってんのか)


「E-17は成功例だ。次の段階へ進める」


成功例。

その言葉と同時に、レミッドは悟った。


(……ここにいたら、アタシは“アタシ”じゃなくなる)


実験台から降ろされる時、白衣の男が無感情に言った。


「安心しろ。君は国家に必要とされている」


レミッドは笑った。

――笑ってしまった。


(……だから、最悪なんだよ)


部屋を出る時、ガラス越しに見えた他の被験体たち。

名前を呼ばれない。未来を選べない。


(……逃げる)


その決意だけが胸に残った。

そして胸の奥で、あの声がもう一度囁いた。


『……生きて』


レミッドは唇を噛みしめた。


(……ああ。生きてやる)


それが、『器』が自分の意志を持った瞬間だった。


─────


逃げると決めた夜は、静かだった。

王都地下研究所。消灯時間。

通路を満たすのは、魔力灯の低い唸り声だけ。

レミッドは壁に背をつけ、息を殺していた。


(……今だ)


この数週間、ずっと観察してきた。

巡回の癖。鍵の交換時間。警備術式が一瞬だけ緩む“隙”。


研究所は武器を作る場所だ。

だから――油断している。


「被験体は逃げない」と。


レミッドは腰に巻いた簡易拘束解除具を引き抜いた。

自作だ。壊れかけの魔導具を寄せ集めた粗悪品。


(……頼む)


鍵が、かすかに音を立てて外れる。

その瞬間、胸の奥が熱くなった。


『……だいじょうぶ』


(……分かってる)


レミッドは通路を走った。

足音を殺し、影を選び、角を曲がる。

途中、別の被験体の部屋の前で足が止まった。


中にいるのは、少年。まだ子どもだ。

名前を呼ばれたことがない顔。


(……)


レミッドは歯を食いしばり、扉のロックを外した。


「……起きろ」


少年が怯えた目でこちらを見る。


「逃げるぞ」


説明はしない。時間がない。

二人で走る。

警報が鳴ったのは、その直後だった。


「被験体脱走! E-17、確保しろ!」


赤い光。通路に展開される拘束術式。


「……っ!」


レミッドは背中にあった“それ”を掴んだ。


魔心銃マシンガン》。


まだ完成品じゃない。制御も甘い。

撃てば、自分がどうなるか分からない。


(……でも)


止まったら終わりだ。

引き金を引いた。


――ダダダッ!!


マナ弾が通路を薙ぐ。術式が割れ、壁が砕け、研究員が吹き飛ぶ。


(……強すぎる)


その瞬間、胸の奥で何かが“弾けた”。


『……生きて』


声が、はっきりと重なった。

熱が、恐怖が、怒りが、全部一つになる。


(――これが、アタシの)


魔心銃マシンガン》が黒く唸った。

今までとは違う。銃が、レミッドに“合わせて”いる。


「な……っ、共鳴している!?」


研究員の叫び。


「『核』が――『欠片』が、主導権を!」


主導権。

その言葉に、レミッドは笑った。


「当たり前だろ。……アタシの人生だ」


出口は地上への緊急通路。警備が厚い。

追っ手。術師。兵。


「E-17! 戻れ! これは国家のためだ!」


レミッドは振り返った。


「……だから、嫌なんだよ」


引き金を引く。

弾丸は人を殺さない。

天井を撃ち、床を砕き、道を塞ぐ。


逃げるための弾幕。


(……殺したら、同じになる)


地上に出た瞬間、夜風が頬を打った。

空が――広い。

少年が震えながら言った。


「……ねえ、名前……」


レミッドは一瞬迷ってから答えた。


「……レミッドだ」


名前を口にした瞬間、胸の奥の声が嬉しそうに笑った気がした。


『……ありがとう』


それきり、その声は遠くなった。


(……消えた?)


いや。消えてない。

静かに、奥にいる。

それでいい。

レミッドは少年の手を引いた。


「行くぞ。ここからは――自分で決める」


その後、追跡を振り切る途中で、少年とは別れた。

彼は王都の外へ逃げ延び、二度と戻ってこなかった。――それでいい。


レミッドは歩いた。

闇の中を、ずっと。

逃げても、終わらない。

この銃と、この体がある限り。


だから、逃げ続けるしかなかった。

その先で――空腹で倒れ、

一人の気弱な少年に拾われるまで。


─────


夜明け前の巡礼都市エルディアは、妙に静かだった。

朝の祈りに向かう足音が聞こえる時間だというのに――気配が薄い。


「……静かすぎますね」


ノルグが呟く。


「嵐の前の静けさってやつだな」


レミッドは背中の《魔心銃マシンガン》に手を添えていた。

過去を語り終えた彼女は、どこか落ち着いている。逃げ続けていた頃の“張り詰めた感じ”が、少しだけ薄れていた。


二人が回廊を歩いていると、空気が変わった。

石畳を踏む、揃った足音。四方から、同時に。

レミッドが即座に立ち止まる。


「……来たな」


黒衣。

《回収局》。


前後左右、逃げ道を潰す配置。

昨日とは違う。交渉の余地を残さない陣形だ。

指揮官が姿を現した。昨日と同じ男。だが表情は硬い。


「ノルグ殿」


ノルグは一歩前に出た。


「……契約の話なら、昨日――」

「破棄する」


短く、切り捨てるような言葉。

ノルグの胸が嫌な音を立てた。


「理由を、お聞かせ願えますか」

「必要ない」


指揮官は冷淡に続ける。


「上層部の判断だ。例外の存在は――危険すぎる」


レミッドが低く笑った。


「便利な言葉だな。“危険”」

「君は、世界樹の均衡を乱す存在だ」


指揮官の視線がレミッドに突き刺さる。


「『核』が目覚め始めている。これ以上、自由にさせるわけにはいかない」


ノルグは理解した。


(……時間切れだ)


「……昨日の取引は?」

「君は商人としては優秀だ。だが――信用に値しない」

「理由は?」

「感情を挟んだからだ」


鋭い言葉だった。


「妹。『欠片』。選択を先延ばしにする優しさ――それは国家運営に不要だ」


レミッドの殺気が一気に膨れ上がった。


「……言い過ぎだ」


魔心銃マシンガン》が低く唸る。

《回収局》の術師たちが一斉に術式を展開した。


ノルグは手を上げた。


「待ってください」


静かな声だった。だが、不思議と通った。


「……最後に、商売人として確認させてください」


指揮官が眉をひそめる。


「まだ話すつもりか」

「はい」


ノルグは深く息を吸った。


「あなた方は、レミッドさんを回収し、統合し、世界樹を“再現可能な装置”にする」

「そうだ」

「その結果、彼女は消える」

「『欠片』だからな」


ノルグはゆっくり頷いた。


「――なら、この取引は最初から成立していなかった」

「……何?」

「商売人にとって、“商品が消える取引”は詐欺です」


一瞬、場が凍った。


「次は、こちらから条件を提示します」

「第一に。レミッドさんは『器』ではない。“世界樹に選ばれた生”です」

「第二に。統合は拒否します。それは世界樹の意志に反する」

「第三に――それでもあなた方が彼女を欲するなら」


ノルグは指揮官を見据えた。


「世界樹の前で、決着をつけましょう」


指揮官が低く笑った。


「……狂気だな」

「取引の筋です」


指揮官はしばらく黙っていたが、やがて言った。


「いいだろう。ただし条件がある」

「何でしょう」

「世界樹へ向かう道中、我々は一切手を出さない」


一拍置いて、


「――代わりに、辿り着いた瞬間、君たちに選択権はない」


レミッドが歯を食いしばる。


「……それで十分だ」


ノルグは即答した。


「三日後。世界樹の根元で会おう」


黒衣の集団が静かに去っていく。

しばらく、誰も動けなかった。


やがてレミッドが低く言った。


「……なぁ、ノルグ。後悔してねぇか」

「してません」


ノルグははっきり答えた。


「逃げるより――価値を証明する方が性に合います」

「……最悪だな、ほんと」

「褒め言葉ですよね」

「当たり前だ」


三日後。世界樹の前で、すべてが決まる。


─────


世界樹へ向かう巡礼路は、驚くほど静かだった。

《回収局》は約束通り姿を見せない。だが、気配が消えたわけじゃない。


「……見られてますね」

「あぁ……視線だけは山ほどある」


レミッドは背中の《魔心銃マシンガン》を無意識に撫でていた。

だが銃は唸らない。静かだ。


巡礼路の両脇には、白い石碑が並ぶ。

過去に世界樹へ願い、戻らなかった者たちの名。


「……多いですね」

「願いってのはだいたい“戻したい過去”だからな」


ノルグは足を止めた。


「……レミッドさん。もし、世界樹が“統合”しか認めなかったら……」


レミッドはすぐには答えなかった。

風が吹き、白い光が遠くの幹から脈打つ。

やがて彼女は言った。


「……アタシは、嫌だ。消えるのは嫌だ」


短く、はっきりと。


「誰かの都合で材料になるのは、もうごめんだ」


ノルグの胸が締まる。


「でも、お前の妹を想う気持ちが嘘だとも思わねぇ」


ノルグは俯いた。


「……はい」

「だから、お前が選ぶなら、アタシは受け止める」


優しすぎて、残酷な言葉だった。

ノルグは首を振った。


「……それは、取引になりません」

「は?」

「一方が全部を背負う取引は失敗します」


ノルグははっきり言った。


「だから、選ぶのは――世界樹と、ボクと、あなたです」


ノルグは懐から帳簿を取り出した。

旅の途中で書き続けてきたもの。金額だけじゃない。出会った人。助けたこと。助けられたこと。


「商売人は、最後に帳簿を閉じます」

「……重ぇ帳簿だな」

「はい。でも誤魔化しません」


帳簿を閉じる。


「妹の死。レミッドさんとの出会い。《回収局》。世界樹」


一拍置いて、ノルグは言った。


「“奪う願い”は、しません」


レミッドの胸がどくんと鳴った。


「妹を取り戻すために、誰かを失わせる取引はしない」

「それが、ボクの最終条件です」


沈黙ののち、レミッドが静かに言った。


「……お前に拾われて、良かった」

「……ボクもです」

「赤くなるなよ」

「……なってません」

「なってる」

「……朝日です」

「今、夕方だぞ」

「……」


二人は少しだけ笑った。


巡礼路の先が開ける。

空を裂く白――《光の世界樹》。


近づくほど、胸の奥が震える。懐かしくて、怖い。

その背後、遠くの丘に黒い影が並び始めていた。


《回収局》。


約束の時が近い。


─────


光の世界樹の根元は、音がなかった。


風も虫の羽音も、心臓の鼓動さえ遠い。

あるのは――“在る”という感覚だけ。


ノルグは自然と膝をついていた。

二度目の場所。

一度目は、夢を燃やされた場所。


白い光がゆっくり集まる。

世界樹の声が降りてきた。


『――再訪を認める』

「……ありがとうございます」

『願いは、既に一度消費された』

「はい。だから今日は、願いに来たんじゃありません」

『ならば、何を求める』


「確認です。ボクの願いは――妹を生き返らせることでした」

『……』

「でも、あなたはレミッドさんを“復活対象”に選んだ。そこには理由があるはずです」


『――理由はある』

『願いは、言葉だけで決まらぬ』

『願いとは、魂の向きだ』


ノルグの胸が震えた。


『お前は妹を失った。だが――お前は妹の代わりに生きようとした』


ノルグの目から涙が零れた。


『妹を“戻す”ことよりも、“一緒に前へ進む”ことを望んだ』

『その願いは、既に叶っていた』


光がノルグの前に集まる。

白い輪郭、小さな影。


少女が立っていた。


――ルナ。


二年前と同じ姿で、少し首を傾げて笑っている。


「ノルグ」

「……ルナ」

『『核』は、ここにある。だが『核』は“戻りたい”とは願っていない』


「……どうして」

「だってね。ノルグは、ちゃんと生きてる」

「でも……ボクは……」


ルナは一歩近づき、ノルグの頭を撫でた。


「わたしはね、ノルグが“誰かの代わり”になるの、嫌だった」

「だから……ちょっとだけ、借りたの」


ルナはレミッドをちらりと見た。


「レミッド、強いでしょ。生きるの、上手でしょ」

『『欠片』は、『核』の意志を守るために生まれた。生きることを拒まぬ存在として』

『『欠片』は、既に“別の生”となった』

『統合は、“喪失”を生む』


ノルグは震える声で言った。


「……じゃあ、ボクの願いは……」

『お前の願いは、“妹を救う”ことだった』

『そして、妹は――お前を救った』


ルナが、にっこり笑う。


「ね?」


その瞬間。

世界樹の根元に別の気配が広がった。


黒衣。《回収局》。

指揮官が一歩前に出る。


「……感動的だな。だが、感情で世界は動かない」


ノルグは立ち上がった。


「世界樹は、統合を否定しました」

「世界樹は常に正しいとは限らない」


世界樹の光が強くなる。


『――否』

『奇跡を否定する者に、奇跡を語る資格はない』


ノルグは言った。


「世界樹の前で、“誰が世界を歪めているのか”を示しましょう」


ルナは最後に言った。


「ありがとう。生きてくれて」


そして光に溶けた。

レミッドが横に並ぶ。


「……なぁ。アタシ、消えなくていいんだよな」

「はい。それが、妹の願いです」


白と黒が、調和する。


─────


世界樹の根元で、空気が張り裂ける。

白い光と黒い影。奇跡と管理。願いと制度。

指揮官が一歩前へ出た。


「君は奇跡だ。だが――奇跡は制御されねばならない」

『制御とは、奪うことか』

「最適化だ。魂は資源だ。分かれ、歪み、暴走する。ならば統合し、再利用するのが合理的だ」


レミッドが低く笑う。


「……やっぱりな。人の人生も“部品”か」

「感情論だ。君は『欠片』だ。元の『核』に戻ることで、初めて意味を持つ」

「違う」


声を上げたのはノルグだった。


「統合は救済じゃありません。失敗を隠す方法です。例外を“なかったこと”にする」

「死者の意思など、測定できん」

「できます。生きている者が、受け取ったからです」


指揮官は息を吐いた。


「……ならば力で証明するしかあるまい」


回収局の術師たちが詠唱を始める。

巨大な拘束陣が展開され、根元を覆う。


「統合術式、起動」


空気が重くなる。

レミッドの体に、黒い鎖のようなマナが絡みつく。


「レミッドさん!」

「……遅ぇよ」


魔心銃マシンガン》が白く光る。

黒ではない。拒絶ではなく――意志。


「アタシはな。もう、“借り物”じゃねぇ」


鎖が砕け散る。


「魂の主導権が……完全に――!」


レミッドは《魔心銃マシンガン》を地面に突き立てた。


「ノルグ!」

「はい!」

「最後の取引だ!」


ノルグは一瞬で理解する。


「商売人として宣言します」

「レミッドさんは――世界樹が認めた“生”です」


『肯定する』

「彼女を統合しようとする行為は、世界樹への干渉であり、奇跡の簒奪です」


「取引条件は一つ。撤退してください」


「さもなくば?」

「あなた方は、世界樹に拒絶されます」


白い光が天を貫いた。

枝が雷のように輝き、術式を打ち砕く。


『統合を拒む』

『生を奪う理を、否定する』


術師たちが膝をつく。

指揮官だけが歯を食いしばって立っていた。


「……これで終わりだと思うな」

「はい。でも、今日は――あなた方の負けです」


沈黙の後、指揮官は踵を返した。


「……撤退」


黒衣が影のように引いていく。

静寂が戻った。

レミッドが力を抜く。


「……終わった、のか」

「はい」

『願いは、果たされた』


ノルグは静かに答えた。


「はい」


─────


世界樹の根元には、もう誰もいなかった。

《回収局》は去り、術式の残滓も消え、

白い光だけが、いつもと同じように幹を照らしている。


まるで――何事もなかったかのように。


ノルグは立ち尽くしていた。

胸の奥に、ぽっかりと空洞がある。

でもそれは“失った穴”じゃない。役目を終えた場所だ。


レミッドが少し離れたところで空を見上げている。


「……なぁ、ノルグ」

「はい」

「思ったよりも……あっさり終わったな」

「……はい」


空は青く、風は穏やかで、鳥は枝に止まり、光は揺れている。

奇跡の後なのに、世界は何も変わらない。


「……なんか拍子抜けだ」

「たぶん……世界樹が正しく働いた証拠です」

「正しく?」

「誰かの人生を壊さずに、誰かを前に進ませただけですから」


レミッドはしばらく黙っていたが、ぽつりと言った。


「……お前の妹、いい奴だな」

「はい」


やがてレミッドが言う。


「……で? これからどうすんだ」


ノルグは少し考えた。

妹を生き返らせる夢。

それは、もう追わない。


でも――


「ボクは、商人を続けます」

「だろうな」

「一千万ゴールドを貯める夢は、形を変えました」

「ほう?」


「誰かが回収されない世界を作るために使います」

「……重すぎねぇか?」

「はい。でも、妹が守った世界ですから」


レミッドがふっと笑う。


「……最悪だな。ほんと、最悪の商人だ」

「褒め言葉ですよね」

「当たり前だ」


巡礼路を戻りながら、ノルグは言った。


「……レミッドさん。これからも、用心棒……続けてくれますか?」


レミッドは足を止め、わざと乱暴に言う。


「給料、上げてくれよ?」

「賃上げ交渉は、受け付けます」

「……仕方ねぇな」

「行くあてもねぇし」


その言葉に、ノルグは少しだけ安心した。

巡礼路を抜けたところで、ノルグはそっと足を止める。


振り返ると、《光の世界樹》は、相変わらず白く、静かに立っている。

その根元に――ほんの一瞬だけ、少女の影が見えた気がした。


ルナ。

微笑んで、手を振っている。


ノルグは胸に手を当て、小さく呟いた。


「……ありがとう。行ってきます」


風が吹いた。

影は消え、光だけが残る。

レミッドが不思議そうに振り返る。


「……何か見えたか?」


ノルグは首を振った。


「いいえ」


それはもう“願い”じゃない。

記憶で、約束で、支えだ。


「行きましょう」

「ああ」


二人は歩く。

金貨の山は、もうない。奇跡を使う権利も、もうない。

それでも。

――生きる理由は、ちゃんと残った。


気弱な商売人と、男勝りな用心棒。

二人の旅は、これからも続く。

それは、誰かを取り戻すためじゃない。

前に進むための旅だ。

初めての短編でしたが、いかがでしたか?

さて、このお話は、「願いが叶わなかったら、それは本当に失敗なのか?」

という疑問を膨らませる形で書き始めました。

一千万ゴールドという分かりやすい“奇跡の代価”を用意しながら、最終的に描きたかったのは、

奪わない選択をすることの強さです。

ノルグは気弱で、特別な力もありません。

それでも彼は、商人として「価値を見極める」ことをやめませんでした。金ではなく、命でもなく、

“生き方”を取引に出した少年です。

レミッドは、武器として作られ、

欠片と呼ばれ、それでも自分の人生を選び続けました。

彼女が最後まで消えなかったのは、

強さよりも「生きることを諦めなかった」からだと思っています。

妹ルナは戻りません。

けれど、彼女の願いは確かに残りました。

それを受け取ったからこそ、ノルグは前に進めたのだと思います。


この物語が、誰かの「取り戻せなかった過去」を

少しだけ肯定できるものになっていれば、幸いです。


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ブログの方にちょっとした後日談もご用意してあります。

よろしければぜひお読み下さい。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

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