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魁の紡ぎ  作者: 熊谷 柿
第3幕 北方民族の行方
27/42

因縁の相手

登場人物

〈漢〉

桓帝かんてい…………漢のみかど

唐衡とうこう…………漢の小黄門史しょうこうもんり。桓帝に仕える宦官かんがんのひとり。

梁冀りょうき…………漢の大将軍。桓帝により死に追い込まれる。

張奐ちょうかん…………漢の歴戦の将軍。故郷の涼州りょうしゅう隠棲いんせいする。

公孫延こうそんえん…………玄菟げんと郡の官吏かんり。漢からの独立を目論む。

鮮卑せんぴ

檀石槐…………鮮卑の部族の大人たいじん。各部族の大人を束ねる鮮卑のかい

素利そり…………鮮卑の部族の大人。鮮卑の軍師的存在。

慕容ぼよう…………鮮卑の部族の大人。万夫不当の豪傑。

宴茘游えんれいゆう…………鮮卑の部族の大人。鮮卑随一の狙撃手。

趙娥ちょうが…………檀石槐の妻。漢人。

和連かれん…………檀石槐と趙娥の子。

如羅じょら…………檀石槐の母。あやかしの雷獣らいじゅうにより檀石槐を身籠みごもる。

破多羅はたら…………檀石槐の祖母。如羅の母。巫者ふしゃのような特性を持つ。

弥加びか…………鮮卑の部族の女大人。剣術の手練者てだれ

厥機けつき…………鮮卑の部族の大人。素利の兄的存在。近隣諸国との外交を担当する。

置鞬落羅ちけんらくら…………鮮卑の部族の大人。宴茘游の副官。年長の歴戦の戦士。

成律帰せいりつき…………素利の弟。

南匈奴みなみきょうど

居車児きょしゃじ…………南匈奴の単于ぜんう。鮮卑の部族の大人、闕居けつきょを討った過去を持つ。

 公孫延こうそんえんからの情報に、素利そりが更に精査を加えている。

 この年、檀石槐だんせきかいは、西の鮮卑せんぴの一群を率いて并州雁門郡へいしゅうがんもんぐんに侵攻した。貌触かおぶれの中には、宴茘游えんれいゆう置鞬落羅ちけんらくらもある。宴茘游の用兵には巧みなものがあった。それを支える置鞬落羅との連携も申し分ない。戦果は上々たるものだった。

 四か月後、檀石槐は、中ほどの鮮卑の一群を率いて幽州遼西郡ゆうしゅうりょうせいぐんに侵攻した。慕容ぼようの一群を伴った。果敢な慕容に、戦士たちも良く付き従っている。戦果も申し分ないものだった。

 しかし、課題はあった。それは、宴茘游も慕容も一様に提起していた。若手の育成と戦力の増強だった。

 千騎を超える一群を束ねる力量のある者が少ない。特に、慕容の一群はそれが顕著けんちょだった。わずかだが、足並みがそろわない局面がある。副官のような存在だった闕居けつきょを失った慕容の一群は、慕容の意思が隅々の戦士にまで伝わりきれていない。率いる戦士が多くなるにつれ、それは大きなほころびになり兼ねなかった。

 東の鮮卑でも似たような状況だった。厥機けつきが外交の担当となり、鮮卑を取り巻く民族間を駈け回っていた。厥機が不在の穴は、素利の弟、成律帰せいりつきが埋めていた。

 つまり、新たな大人たいじんたちの育成が、課題として浮き彫りとなっていた。

 そして、漢の北辺、その守兵が増員されていた。張奐ちょうかんほどの将が、まだ北辺には配属されていなかった。代わりに、守兵を増員して対応しているように見えた。宴茘游と慕容がそれぞれ率いた一群は、単に守兵の増員をものともしなかっただけだった。

 鮮卑の人口は、戦果とも相まって増加傾向にある。年々、戦士も増えていくはずだが、それには時を要する。仮に、敗戦が続き、失う戦士が増えれば、侵攻する回数や人数も見直さなければならない。

 檀石槐は、弾汗山だんかんさんふもとにある啜仇水せつきゅうすいほとりに大人たちを招集した。今回は、慕容と宴茘游の姿もあったが、厥機が不在だった。

 その厥機と入れ替わるように出席したのは、成律帰だった。成律帰には、少し風変わりなところがあった。白い胡服こふくを好んで着る。この日も白い胡服をまとっていた。

 檀石槐は、大人たちを前に提唱した。

「侵攻に出た折、戦士たちをよく見る。これは、と思える者を見極め、育てる。当然、戦が得手というだけでは駄目だ。大人としての資質も見極めなければならない。これは重要なことだ」

 檀石槐は、胡床に腰を下ろし、円座となっている大人たちを見回した。

「そうだな。芽が出そうな奴を見付けたら、いきなり副官のようなことをやらせてみるのも良いかもしれねえ」

 腕組みをしている。うなずきながら聞いていた慕容が、真剣な面持ちで付言した。

 それに檀石槐も頷き返すと、続けた。

「そして、戦力の増員だが、これは、急な改善は無理だ」

何処どこの部族も若い奴は多く居るが、戦場に出るにはまだ早熟だ。数年を掛け、徐々に戦士が増えていくということだろう」

 一寸ほど伸びたひげしごきながら、宴茘游が大人たちを一望した。

「けど、どうしても急激な戦力の増加が、必要になることもあるかもしれない。それを見越して、檀石槐が先手を打ったんだ」

「あん? どういうことだ、檀石槐?」

 素利の意見を聞いた慕容は、首をかしげると檀石槐に尋ねた。

此処ここで、厥機の仕事が生きてくる。急いで戦力を増強したい場合、盟約を交わした民族に援軍を申し出る」

「ほう!」

 慕容は、膝を打って大きな声を発した。

「そういうことであれば、漢との距離が近い民族から盟約を交わした方が得策だな」

 急激な戦力増加が必要となる場合、相手は漢である可能性が高い。それを見越して宴茘游が発言していた。

「これは、厥機にも伝えてある。今は、烏丸うがん族と交渉している筈だよ」

 素利は、宴茘游に微笑み返した。

「俺からも話して良いか?」

 声の主に視線が集中した。白い胡服を纏っている。成律帰だった。揺れる藍玉らんぎょくの耳飾りが綺羅きらと輝いていた。

「何だ、成律帰? 何か云いたいことがあるの?」

 素利は、怪訝けげんかんばせを弟の成律帰に向けた。

「まだ、兄者にも云ってねえけど、公孫延さんから助言が来ている。兄者が情報の精査で忙しそうだから、俺のところに間者を寄越したんだろう。良い機会だ。いずれ、大人の皆にも意見を聞くことになるだろうと思っていたからな」

「公孫延さんは、何と云ってるの?」

 成律帰は、身を乗り出して大人たちを見渡した。成律帰に不気味な笑みが浮いた。

南匈奴みなみきょうどを取り込め――だとよ」

「――――⁉」

 大人たちは、息を飲んだ。中でも慕容は眉間みけんしわを寄せ、瞑目めいもくした。無理もない。副官の闕居は、南匈奴の単于ぜんう居車児きょしゃじに討たれている。大人たちの反応を見て、成律帰は胸を反らして腕組みすると続けた。

「まあ、そうなるよな。闕居をったのは居車児だもんな。だが、公孫延さんはそれをわかっていて助言している」

「続けてくれ、成律帰」

 檀石槐も慕容と同じように、眉間へ皺を寄せ瞑目している。

 成律帰は、一度、にこりと微笑んだ。

「南匈奴は、漢の属国に違いないが、張奐が失職した今、漢の監視が弱まっている。それに、単于の居車児は、以前、漢への反乱を張奐に看破かんぱされている」

「つまり、南匈奴は漢に恭順きょうじゅんしていない。長城の内側にいる南匈奴と盟約を交わすことで、僕たちの動きにも選択肢が増える、ということだね?」

 成律帰が、再び不気味な笑みとなった。

流石さすがは兄者。そういうことだ」

「南匈奴が、俺たちの申入れを受け入れるか。どうも、それが見えないな」

 静かに眼を開いた檀石槐が、成律帰と素利を見比べた。

「慕容は、どう思う?」

 素利が、慕容に聞いていた。慕容の意見により、大きく左右されそうな案件だった。

 慕容は、瞑目したまま応じた。

「闕居が死んだこととは、また別の話だ。俺は、檀石槐に付いて往くと決めている。それだけだ」

 檀石槐は、微笑した。それを見た宴茘游と素利にも微笑が浮いていた。

 慕容が、内心では激怒していることがわかっていた。眼を閉じたままでいるのが何よりの証拠だった。我慢を覚えた慕容が、大人たちの前で格好をつけている。それが、三人にはおかしかった。

「南匈奴と盟約を交わすにしても、時を要する筈だ。ただ、盟約を交わす相手のひとつとして数えておこう。この件は、厥機にも伝えておく」

 瞑目する慕容を見遣みやった檀石槐は、さとすように語った。

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