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魁の紡ぎ  作者: 熊谷 柿
第1幕 宿命の御子
13/52

翡翠の耳飾り

登場人物

元緒げんしょ…………異国の方士。

如羅じょら…………鮮卑せんぴの部族の娘子むすめ

投鹿侯とうろくこう…………鮮卑の部族の大人たいじん(部族長)。如羅の夫。

李平りへい…………如羅の父が連れて来た漢人の使用人。

破多羅はたら…………如羅の母。

檀石槐だんせきかい…………如羅が産んだ男児。鮮卑の部族の少年。

陳正ちんせい…………北の湖畔で暮らす李平の知人。漢からの亡命者。捕虜となった漢人を収容する施設の監督者。

其至鞬きしけん…………破多羅の夫。如羅の父。生前は鮮卑の部族の大人。

素利そり…………鮮卑の部族の少年。

慕容ぼよう…………鮮卑の部族の少年。

宴茘游えんれいゆう…………鮮卑の部族の少年。

卜賁邑ぼくほんゆう…………鮮卑の部族の大人。悪行が祟り、檀石槐により討たれる。

公孫延こうそんえん…………漢人。玄菟げんと郡の官吏かんり

 本拠の遼東まで遊牧地を移動していた。

 草原には、一騎だった。

 左の耳朶じだに垂らした翡翠ひすいの耳飾りが、風に揺れている。

 馬上の素利そりは、右腕に幾重にも巻いた縄に止まったたかを空へ放った。優雅に飛翔する鷹を眼で追った。

 志を果たすために、自分には何ができるのか。素利は、気付けばそんなことばかり考えていた。武芸が苦手な訳ではなかった。

 しかし、慕容ぼよう宴茘游えんれいゆう檀石槐だんせきかいには敵わないこともわかっていた。自分にしかできない何か、自分の役割は何か、それが何なのか頭を巡らせる日々が続いていた。

 そんなある日――。

鮮卑せんぴ族の子だね?」

 素利の後方で馬上から声を掛けてきたのは、二十歳を幾つか過ぎた頃の男だった。髪を緇撮しさつで結い、漢服を着ている。漢人だった。

 振り返った素利は、笑みを返した。漢人と遭遇するのも珍しくない地域だったが、その男は目立った特徴もない、何処どこにでも居る村夫子そんぷうしのような風体だった。

「左耳に翡翠の耳飾り……。鮮卑では、大人たいじんに有望視する若者に、印として耳飾りを着けさせる部族があると聞いている。君がそれだね?」

「良く知ってるね?」

 笑みを浮かせたままの素利は、縄を巻き付けた右腕を真横にした。その腕に空から戻った鷹が止まった。

「近くの民族のことは、少し学習しているからね。君を見る限り、鮮卑族には慧眼けいがんの者が多いようだ」

 その男は眼を細め、口辺に笑みを刷いた。

「……貴方あなたは、誰人だれ?」

 その男に興味が湧いた素利は、警戒を解かずただした。

「紹介が遅れたね。私は玄菟げんと郡の官吏かんり公孫延こうそんえんと云う者だ。君は?」

「……素利」

「聡明そうな君を見込んで相談だが、どうかな、素利。私と取引をしてみる気はないかい?」

「取引?」

 素利は、怪訝けげんかおを公孫延に向けた。

「そう。君に知識と知恵、そして、情報を渡そう。その代わり……」

 公孫延は、照れ臭そうに頭をきながら続けた。

「……私の大望に協力して欲しい」

「知識と知恵と情報……」

 素利は静かに独りちると、再び空へ鷹を放った。

「もう少し詳しく話を聞かせてよ、公孫延さん」

 笑みを浮かせた素利は、公孫延に向かって馬を進めた。考えていた何かを見付けたようだった。

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