第8話 ギルド登録と黒猫のシャモン
山賊たちからモンデルを助けたタクマ、ギルドに登録してクエストを
受けたある雨の日、黒猫のシャモンと出会う。
残りの数人に向かって踏み込み、バレットの連打からスマッシュ
(フック)をボディーに叩き込む。
常人離れした速度と威力に、山賊たちはなすすべもなく倒れていった。
「ひぃ! お、覚えてろよ!」
頭目らしき男だけが、這う這うの体で逃げていった。
伸びている山賊を縛り上げ動けなくしたところで、商人一行の代表らしい、
恰幅のいい中年の男が駆け寄ってきた。
「あ、ありがとうございます! あなた様は命の恩人でございます!」
「私はモンデルと申します、行商で護衛と共に用心しながらもう少しで
町までのところ、あ奴らに襲われて殺されるところでした。
よろしければお名前を…? その素晴らしい武術は?」
息をきらせながら忙しくお礼を言われモンデルさんの息が落ち着くのを
やや待ってから答えてみた。
「タクマといいます、技は牙狼拳を習いました。みなさんの怪我の
具合は?」「は、はい。おかげさまで。私どもの手の者は大丈夫ですが…
護衛が数人やられ亡くなりました。」
「そうですか…お悔やみを申し上げます」
「大変残念な事ですが、仕方がなかったです…」
モンデルさんも悔しそうに唇を噛み、両拳は少し震えていた。
しかしは俺の姿をまじまじと見つめ少し言い淀みながら話した。
「タクマ様…もしよろしければ、我々の目的地であるリューンの町まで、
護衛をお願いできませんでしょうか? もちろん、お礼は
弾ませていただきます」
リューンはこの先の町だ。断る理由もないそれに、こんな事があった
ばかりだお互いに心細い思いをしているのは分かる。
「私みたいのでよければ、ご一緒しましょう」
「ありがたい!安心して帰る事ができます!」
モンデルさんはやっと安心したようで顔を崩してくれた。
俺が縛り上げた賊たちは生き残った護衛達が殺していた。
裁く為に連れて行く事もできないし仲間を殺された恨みもある、
この世界では盗賊の類は殺しても罪に問わないそうだ。
案外怖い世界観だと改めて感じた、生きていく為には割切りと
平和な世界の常識を捨て早く馴染むしかないようだ。
死んだ護衛は穴を掘り丁重にを弔い賊たちは林の中に投げ捨てていった、
そのうち獣が食べて土に還るだろう。
道中、モンデルさんからこの辺りの情勢を聞いた。最近、魔物の
活動が活発化しており、それに乗じて山賊の被害も増えているらしい。
冒険者ギルドという組織があり、そういった魔物討伐や護衛の依頼を
請け負っているという。
「タクマ様ほどの腕があれば、ギルドに登録なされば引く手数多
(あまた)ですぞ」
「ギルド…」
それは、この世界で生きていくための一つの道筋になるかもしれない。
数日後、俺たちはリューンの町に到着した。石畳の立派な町だ。
モンデルさんは町でも有数の豪商だったらしく、立派な屋敷に招かれ
大層なもてなしを受けた。
モンデルさんの奥さんは泣いて喜んでくれたし子供さん達にも
大変感謝され此方が恐縮してしまう程だった。
仕事や宿が決まってないのなら何日でも家に泊まって行けと言われたが
2日程滞在させて貰いお暇することにした。
「いつでもお気軽にお越しください、タママ様なら大歓迎ですぞ!
これは私どもを助けて頂いた感謝のしるしです。」
挨拶をしてモンデル邸を出ようとした時に皮袋に詰まったお金を渡された、 ズッシリと重く多分相当な金額に違いない!
「モンデルさん、これはイケナい!こんなにして頂いたら俺が困って
しまう!」「何を言うんですか?タクマ様!貴方は私共の命の恩人ですぞ!
少ないと仰るのならその倍いや、3倍お支払いします!」
「違う違う!お金の為にモンデルさんを助けたわけではありません!
あ〜もう!ありがたく頂いておきますので後で返せと言わないで下さいよ!」
お金を要らないといってモンデルさんと皮袋の押し付け合いを
したが流石年の功、モンデルさんはニッコリしながら納得してくれた。
「それと、もしよろしければギルドマスターの『マルス』殿に紹介状を
書いておきました私の名を出せば、悪いようにはされないはずです」
「助かります、モンデルさん。皆さんありがとう!」
「どうか、お元気で!」
モンデルさん達は姿が見えなくなる迄、手を振ってくれたのだった。
翌日、俺はモンデルさんにもらった紹介状を手に、リューンの
冒険者ギルドに訪れた。酒場を兼ねたギルドの1階は、朝から多くの
屈強な男たちで賑わっていた。
「ご用件は?」
受付の愛想の良い女性に声をかける。
「タクマといいますが冒険者登録をしたい、あとモンデルさんからの
紹介状だとギルマスにわたしてもらえないかな?」
紹介状を渡すと、受付嬢の目の色が変わった。
「モンデル様から?少々お待ちください!」
奥から、いかにもギルドマスターといった風情の、片目に傷のある
壮年の男が出てきた。
「俺がマルスだ。モンデル殿の紹介とは、お前が?」
「タクマです、モンデルさんのご紹介でギルドマスターさんに
紹介状を書いてもらったのですが」
「ふむ。モンデル殿の手紙には、お前の武術で山賊を瞬く間に
撃退したとある。礼儀も弁えている様だな、分かった…早速で悪いが
その『牙狼拳』とやら、見せてもらおうか」
どうやら、簡単な実技試験があるらしい。ギルドの裏手にある
訓練場に連れていかれた。
相手は、ギルド所属でベテラン冒険者だという大柄な大剣使い。
丸太ん棒のような二の腕で大剣を振るわれたらたまったものではない。
一応、大型の木剣に変えてくれるようだが当たりどころが悪けりゃ
死ぬなぁ…腕や足でもポッキンだよ。怪我したら治療費…
貰えそうもない雰囲気ですよねー?今更、やっぱ辞めますは
通用しなさそうだし腹をくくるか!
「はじめ!」
マルスの合図で、大剣使いが襲いかかってくる。俺はロンにもらった
剣を鞘に納めたまま、素手で対峙する。「お〜りゃあ!」
ベテラン冒険者は掛け声をあげながら木剣を振り上げ
俺に向かって踏み込んできた!
大振りな剣撃を半身でスライドステップでかわし、懐へ。
右手を掴み反対に腕を折り畳みながら相手を後ろに投げ飛ばす(入身投げ!)
相手の勢いをもあり綺麗に決まった!
「なっ…!」
驚きながらもすぐに体勢を立て直す相手に、今度は正面から踏み込む。
「牙狼バレット!」顔面に青白く輝いた拳が当たる寸前で止める、
いわゆる寸止めだ。
エナジーの気配を感じ取った相手は、冷や汗をかいて動きを止めた。
完全に戦意喪失になってクビをプルプル振って木剣の先端を地面に
付けてしまった。
「…そこまでだ」ギルマスが満足そうに頷いた。
「合格だ、タクマ。お前の実力は確かのようだ。ようこそ、
冒険者ギルドへ」
「お前凄いな!あの技何処で覚えたんだ?参ったよ、まっ、
なんかあったら声でも掛けてくれ頑張れよ。」
ベテラン冒険者さんは汗を拭き拭き、意外と紳士で優しい人のようだ。
「有難うございました、また、よろしくお願いします!」
「よせやい!冒険者仲間なんだから気にするなよ、お互い様だ。」
ベテラン冒険者さんは酒場のコーナーに消えていったけど
「カッコ付けてたのに負けるなよ〜」と冒険者仲間に何だか
冷やかされていた。
「おい、受付のケリーに行ってさっさと登録を済ませてこい!」
ギルマスがケリーらしき受付嬢を指差し指示を出してくれた。
「あと、お前の担当ケリーな、分からないことは何でも聞くように」
向こうで最初に尋ねた受付さんが本人らしくケリーが苦笑いをしている…
かなりパワハラ気質のギルマスみたいだな、気を付けよう。
こうして俺は冒険者タクマとなった。モンデルさんの護衛依頼や、
近隣のゴブリン討伐と、薬草収集いった簡単なクエストをこなせるそうだ。
ギルドでの評価を少しずつ上げて信頼を高めれば、高ランクのクエストを
受ける事が出来るし昇級も望めそうだ。牙狼拳の技は、魔物の硬い皮膚や
甲殻にも打撃を通し、時にはその内部にある「魔核」を直接砕くことが
できるため、接近戦なら最適と思われる。
これからは牙狼拳に磨きをかける為、訓練にウェートを置く事とする。
あるクエストを受けた帰り道、いつも通る道の路地裏で何かが動いた…
うん?よ〜く目を細めて見てみると、ずぶ濡れになって震えている一匹の
小さな黒猫を見つけた。あれ尻尾が2つ、猫又の類か?
こっちにそんな妖怪がいるのか?やっぱ、こっちの普通のネコだよね。
「…お前も一人か」
なぜか、その黒猫に手が伸びた。黒猫の顎を優しく撫でると、目を細め
気持ち良さそうに俺の手をチロチロと舐め、喉を鳴らし出した。
「俺と来るか?」
黒猫は、目を細めながらも「ニャア」と小さく鳴く。
俺はそいつを懐に入れ宿に連れ帰った。
乾いた布で簡単に拭いてやり干し肉をナイフで刻んで皿に乗っけって
みたら、割とガッつきながら食べ出した。腹が減っていたのだろう、
平らげた後、別の皿に入れた水をピチャピチャと飲み始める。
こうして黒猫を見てみると毛並みが艷やかで割と綺麗だ、綺麗な
黒髪の女の子によくできるエンジェルリングが黒猫にも光の加減で
浮き上がるようだ。
そっと黒猫の頭から背中にかけて軽く撫でながら呟いた。
「お前の名前は…シャモン。どうだ?」
黒猫のシャモンは、満足したのか舌をペロペロとしながら俺の
膝の上で喉を鳴らしだした。
今回は少し長めで、シャモンと出会うタクマ




