第6話 潮時…
此のままではいけない、牙狼村からの旅立ちが近い?
大会の後、ロンに指導を受けた。
「大会でも他の技が出ていたが咄嗟に使える程、体に憶えこませるには
長年の修練が必要でその結果ジェドを倒したと俺は思っている。
タクマお前…記憶が少し戻っているのではないか?」
「今回はジェドのラッシュに完全にヤラれました、もう駄目だと
思った時また技が出ました」
「タクマとジェドのレベル差は全くない寧ろタクマの格闘センスは
ジェドの比ではない」
「ありがとうロン、でも技とかは体が憶えているだけで昔の事とかは
まだ…」「まあ、そこは気長にな」「ごめんロン、もう少し時間を…」
「なに牙狼拳も打撃だけの武道だから、いつかはと思ってから
タクマがやってくれたよ。そろそろ新しい牙狼拳が生まれてもいいかなと。」
「俺が違う技を使ったから」「いいさ、同族を守る為さらに強くなるのに
何の問題がある?じぃ様とも色々話さなきゃな。」
「……」
潮時だと思った、これ以上世話になる訳には行かない。俺がこの村の
一族の文化を変えちゃあいけない、別れの時が近いと思った。
季節は夏秋と変わり作物の刈り入れ時期を迎えていた、大会後は
穏やかな日々で何一つ変わらないが日常だった、アンナとウーに餌を
やり世話をする。作物の収穫や畑仕事をやり狩りを手伝い皆で食事をして
喜びを分かち合った。
春が来たら旅に出よう、豊作で賑わう村の仲間を見て思った。
牙狼拳の修行は続けていた、ジェドと組手をしたりエナジー操作や
技もいくつか覚えた。牙狼族は身軽な人が多い、普通の人間より遥かに
運動神経がいいと思う。
バク転なんかアンナでも軽く出来るし5歳くらいの子供が月面宙返りを見せてくれる、技の1つにムーンサルトキックがある。
(因みに俺はアンドロキックと独自に名前を付けてる…伸身もあるよ)
冬に入りアンナと藁縄を編む手伝いをしていた。
藁を揉み上げながら縄を編んでいく、偶に顔を上げるとアンナと
目が合うのだがアンナは恥ずかしがって直ぐ顔を伏せてしまう。
これ程までに好意を向けられると…ははっ、こっちまで
恥ずかしくなってしまうな。
昔…中学か高校の頃、付き合っていた彼女の事を思い出す。
大学受験を境に何となく距離ができて 疎遠になり自然消滅的な
別れとなったな、付き合い始めはこんな感じだったか、いつも居たいと
思ったが彼女は進学して俺は就職した。
しかし、どうしたものか…このまま牙狼村に定住して穏やかに暮らすの
も1つの選択、人生だが甘えてはいけない気がする。
モンモンとした気持ちで手を動かしていたらアンナが遠慮がちに
話しかけてきた。
「え〜っと…あのねタクマ。」「何だい?アンナ」
「あのね、もし良かったら明日、魚を取りにいかない?」
「魚か、いいね。寒いから美味い魚が食えそうだ」
俺がそう言って笑いかけると、アンナは「えへへ…」と嬉しそうに、
それでいてやっぱり恥ずかしそうに俯いた。
藁を編む手は止まったままだ。
「どこへ行くんだい?この辺りの川は詳しくないんだが」
「うん、村の東側にある川なんだけどね。冬でも凍らない、
流れが少し速いところがあって、そこに結構いるの。お父さんにも
教わった場所だから…」
「そうか、それは楽しみだな。明日は早いのかな?」
「う、うん。朝早い方が、魚も油断してるから…大丈夫?」
上目遣いで心配そうに尋ねてくるアンナに、俺はわざと胸を
叩いて見せた。 「任せろ、朝は強い方なんだ。それより、仕掛けとかは?」
「あ、それは私が用意しておくから!タクマは…えっと、寒いから
気を付けてね、暖かい格好してきてくれれば…」
「分かった。じゃあ、明日はよろしく頼むよ、アンナ先生」
「せ、先生だなんて!」 アンナは顔を真っ赤にして、慌てて藁を
編む作業に戻った。その小さな背中が、なんだかとても微笑ましく見えた。
俺も再び手を動かし始める。藁の乾いた匂いと、時折指先に感じる冷たさ。
(…甘えてはいけない、か…) 先程までのモンモンとした気持ちが、
アンナの誘いによって少しだけ、ほんの少しだけ軽くなったような気がした。
過去の彼女との別れは、結局のところ、俺が自分の将来と向き合う
事から逃げた結果だったのかもしれない。だが、アンナは違う。
彼女はこの牙狼村という厳しい自然の中で、懸命に生きている。
明日、二人で魚を取りに行く。 それがこの村で生きていくための一歩
なのか、それとも単なる気晴らしなのか、まだ分からない。
分からないが…今は素直に、アンナとの約束を楽しみだと思う事にしよう。
俺は編み上がった縄を一つまとめながら、明日の寒さに備えて、
一番厚い上着のことを考えていた。
当日はアンナと楽しい時間を過ごした。
アンナが3匹で俺が2匹釣れて夕食のオカズがに一品増えたと皆に
喜ばれた。行って良かったよ。アンナ…




