便箋44 鳥かご その1
「とにかく謎が解けてきたぞ。しかし回復薬なんてよく買えたな。そう言えば手紙に、馬車も買ったとか書いてあったな。金はどうしたんだ?」
「アダンの情報を売ったの。ほら、アダンの手紙に書いてあったじゃん。魔物娘と契約するために乱交しまくってるって」
「そこまでストレートには書いてなかったろ」
「でも居場所は書いてあったよ。ケプロスの町にいるって」
「そうだったっけ? いや、確かに書いてあったな」
「行商人にアダンの居場所を売ったの。竜王にこの情報を届けたら、きっと恩賞が出るぞって言ってやった。そしたら回復薬10個と食料と、馬車までくれた」
「その馬車で移動したわけか」
「うん」
「って……待てよ? そのとき俺の腹には、まだ聖剣が刺さったままだったのか?」
「まさか! とっくに抜いてたよ。籠手の怪力でズボッと」
「そんな無茶な。よく失血死しなかったな俺」
「私の薬草がまだあったからね。残ってたのぜんぶ噛んで、弟の腹に貼っつけたの」
「あ……あの口で嚙むやつか。効き目があるもんだな」
「さすがにあんな薬草なんかじゃ応急処置にしかなんなかった。もし回復薬が手に入らなかったら、確実に弟は死んでたね」
「聞けば聞くほど、よく生きてられたもんだな。ありがたいよ」
「感謝して」
「感謝してる。それで? 聖剣はどうしたんだ?」
「……」
「……魔女?」
「その話は、今する?」
「そんな言いかたされると気になるじゃないか」
「……」
「魔女?」
「私さっき、この城の持ち主に会いに行くとこだった……って話したじゃん?」
「ああ、そんなこと言ってたな。だから置き手紙のつもりで、あの手紙を書いたんだろ?」
「そうそう」
「それがどうしたんだ? なんの話だよ?」
「聖剣の話」
「うん。あの……聖剣は?」
「……奪われちゃった。ここの城主に」
「……」
「……」
「え?」
「ここの城主にブン取られたの」
「……ちょっと待て。魔界の城の持ち主って……」
「魔人。この地方の貴族の」
「ちょっ、ちょっと待て! 取られたってお前!」
「しょうがないじゃん。言っとくけど、素直に剣を渡したからこそ、こうやって匿ってもらえてるんだからね」
「……ほ、本当に渡してしまったのか?」
「うん。だってもういらないでしょ?」
「いらないってことあるか! あれが無いと、俺は戦えないんだぞ!」
「だって。渡さないと殺すって言われたんだもん」
「いやしかし……! あ、あの剣は、俺が教会から盗んだものだって話しただろ?」
「うん」
「それが魔人の手に渡ったなんてバレたら、俺は本当に人類の敵になる」
「教会から盗んだ時点で、弟は人類の敵でしょ」
「う……しょ、証拠は残してないし、まだ容疑者の段階のはずだ」
「だから?」
「だから、返しに行けば許されたかもしれない。まだ返しに行くチャンスはあったのに……」
「だったらちょうどいいよ。この城の魔人、教会に剣を返すって言ってたし」
「……え?」
「だからここの城主が、弟の代わりに剣を返しに行ってくれるんだってば」
「な、なんでまた?」
「剣の身代金を要求するって言ってた」
「んな……!」
「よかったね」
「バ、バカ言うな! そんなもん返すとは言わん!」
「言わないかな?」
「言うか! お、おい、最初からちゃんと話せ!」
「なにから説明したもんかな……まずここの城主、この城で事業やってんの」
「はあ?」
「聞いてってば。ただ事業、いまぜんぜん上手くいってないの。運営維持に必要な使用人がいなくなって、いまは廃業同然なんだって」
「こ、こんな大きな城の事業がか?」
「労働者不足だって。派遣ギルドの安価な労働力を大量に使ってたら、なんか正規職員のモンスターまでぜんぶ辞めちゃったんだって」
「……またこの手の話かよ」
「説明するとねえ。えーっと」
「低賃金すぎて募集かけても労働者が集まらなくなったんだろ。それで残った人材に仕事が一極集中して、優秀者からどんどんリタイヤしていったんじゃないのか?」
「あれ? よくわかったね」
「わからんほうがおかしい」
「そうなの。ギルドで人員の募集してもぜんぜん応募がないから、城の事業が完全にストップしてるんだって。そんなことが竜王に知られたら、貴族の身分を剥奪されちゃう」
「世知辛いな」
「だから金がいるみたい。そんで聖剣をネタに、人間界を恐喝するんだって言ってたよ」
「なんてこった」
「教会から金を巻き上げるんだってさ。その金で、事業を立て直すんだって。今度は正規雇用でモンスターを雇うって言ってた」
「ムチャもいいとこだ」
「え? そんなムチャかな?」
「だって、あの剣折れてるんだぞ。壊れた神器なんかに、誰が身代金なんか払うもんか……って、アッ!!」
「なに? びっくりするじゃないの」
「し、しまった……!」
「なによ?」
「……あの剣、折ってしまったんだ!」
「へ? いまさら?」
「ああしまった……これじゃ、どのみち剣を返しになんか行けっこない。忘れてた……」
「それなら大丈夫。この城の事業って、マジックアイテムの修理だもん」
「……え?」
「城の敷地に、けっこう大きい修理工場があんの。あの窓からも見えるけど」
「工場……ああ! あれ、マジックアイテムの修理工場だったのか!」
「なんだ見たの? だったのかって、じゃあなんだと思ったのよ」
「てっきり人間の改造工場かと……」
「アホ」
「そうは言うけど、本気で震えあがったぞ。てっきり俺、竜王に捕まってて爆弾人間にでもされてしまうのかと」
「よくそんな変態的な想像できるね」
「悪かったな。いや、待ってくれ。マジックアイテムの修理って、神器でも修繕できるのか?」
「できるのかって……やっぱ人間界ってテクノロジー遅れてんね。出来るよふつうに」
「お……驚いたな」
「あの聖剣も、修理してから身代金の要求するつもりでしょ」
「……ちょっと待て。お前はどうしてその話を知ってるんだ?」
「はい? どういう意味?」
「だから、その……この城の魔人が、身代金を要求する話をなんで知ってるんだ。だってそうだろ? そんな悪事のヒミツを、なんでわざわざお前に教えてくれたんだ?」
「ああ、そういう意味ね」
「ふつうに考えて、こんな悪だくみを他人に教えるはずないだろ」
「ふつうに考えたらね」
「こんな秘密を知ってしまったら、口封じされててもおかしくないぞ。なんでお前に悪事の計画を教えた上に、俺たちを自由にさせてるんだ?」
「誰が自由だなんて言ったの?」
「……え?」
「よく考えてみてよ。貴族階級の魔人がだよ? なんで犯罪者の私なんかを匿ってくれてると思うの? まして人間もいっしょに」
「……えっ」
「あたし達なんか、ソッコーで竜王軍に突き出せばいいのにさ。通報するだけでも恩賞が出るのに、金に困ってるはずの魔人が変だと思わない?」
「それは……え?」
「聖剣を没収したんだから、もう私たちなんか用済みでしょ? さっさと殺せばいいじゃん。なのに監禁さえされてない。なんでだと思う?」
「そう言われてみれば……なんでだ?」
「……」
「おい」
「3択クイズにしよっか。まず①……」
「はやく言え」
「……聞いて驚かないでよ?」
「オイ、もったいぶるなよ」
「あたしたち、じつは監禁されてんの」
「……え?」
「監禁されてんの。いま」




