表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/50

便箋41 ジバン・フレイ その4

 


「ぐっ……」

 腹の痛みがひどくなる。

 これ以上、動き回るのはムリだ。ああ、くそ。


 くそ、痛い……


 お、落ち着け。

 もう一回、はじめから考えてみよう。



 とりあえず、どうやってあの砦から脱出できたんだろうか。

 魔女が俺を連れ出したと手紙には書いてある。


 いやいや、絶対無理だ。

 足を撃たれた魔女が、俺を(かつ)げるわけがない。仮にできたとしても、ここまで走ってくるなんてムチャだ。

 火事場の馬鹿力にしても不可能すぎる。


 ということは、俺たちを助けてくれた何者かがいるはずだ。


 さっきのケープマントのやつか?

 手紙を投げこんできた、あの(あや)しいやつ。正体はわからないが、あいつが助けてくれたんだろうか? 



「ま、まさか……」


 まさか。


 さっきのアイツは竜王?

 あれは竜王だったのではないのか!?

 ここは竜王の城?


 だとすれば、あの砦。

 あの砦から俺たちをどうやって連れ出したのか、考えるまでもないではないか。


 竜王ならば、砦に自由に出入りができて当り前だ。

 だって、砦に一方通行の魔法をかけた本人なのだから。


 砦の内情が、手紙にくわしく書かれていたのも説明がつく。

 魔女を拷問して聞き出したんだ。


 つまり……



「魔女は、もう用なしってことじゃないか」


 俺は青ざめた。

 体中の血管が縮み上がる。


 魔女はもうこの世にいないのか?

 竜王に処刑されたのか?


 もともと無期懲役刑の囚人(しゅうじん)

 それが脱走まで(くわだ)てたとあっては、魔女を生かしておく理由がない。必要なことを聞き出したあとは、もう用済みではないか。


 いや待て待て、早まるな!

 まだ、そうとは限らない。


 だが魔女が生きているにせよ、竜王に(とら)えられていては無事ではいないだろう。


 じゃあ、俺を生かしている理由はなんだ?


 治療までして、どうして俺を生かしておくんだ?

 ニセの手紙を使ってまで、魔女の生存を信じさせようとするのはなぜだ?


 ……そんなの決まってる。



 俺を改造する気だ。



 ガタガタ。

 ガタガタガタ。

 俺は震えあがった。


 俺を、生物兵器として利用する気だ。


 たしか魔女に聞いたぞ。

 竜王は、敵の体内に遠隔爆弾をしかける呪文を使えると。


 俺の体内に、魔法の爆弾をしかけたに違いない。


 そうだ。

 右手だ。

 包帯で見えないが、手の甲になにかが埋めこまれている。包帯の下で、いまも青白い光を放っている。


 手の甲を慎重に触ってみた。

 石ころほどの大きさのなにか……右手に埋まってるこれは爆弾なんだ!


 俺を洗脳して、アダンに特攻させるつもりなんだ。

 弟の俺なら、アダンに近づけると考えて……外にあった巨大な工場のような施設は、人間の改造工場なんだ!


 ということは、さっきのフードのやつは、竜王の手下だ。


 俺が逃げ出さないように、魔女が無事だという手紙を見せてきたんだ。俺が絶望して自殺などしないように。


 窓だけが開く理由もこれで説明がつく。

 外から竜王軍のスナイパーが、俺を(ねら)ってるんだ。俺に不審(ふしん)な動きがあれば、即座に撃ち殺せるように見張ってやがるんだ。

 俺が爆弾のことに勘付(かんづ)いたら、ただちに始末する気なんだ。


 ガタガタガタ。

 ガタガタ……



 ドンッ!


「うわっ!」

 飛び上がる。

「あいたた! な、なんだ……あ、わ、忘れてた……!」


 (まくら)もとに置いといた謎の球体を床に落としてしまった。落下の音に、本気でビビった。腹の痛みに()えつつ、腕をベッドの下に伸ばす。


 べつに落っことしたままでもいいのだが、爆発でもされたらたまらない。拾うしかない。



「うんしょ…………くそ、どれもこれも爆弾に思えてきた」

 泣きたくなってきた。

 もう死んだ方がマシだ。

「って……アレ? なんかおかしいぞ」


 あれ?

 なんでだ?


 俺を生体兵器に改造するだけなら、なんで俺の洗脳してないんだ? 

 俺、ふつうに俺のままだぞ。


 それより待てよ?

 外から俺が見張られてるなんて、ありえない。そんな必要があるなら、窓のある部屋なんかに俺を置いとくわけがない。


 そもそも、なんで俺は拘束(こうそく)されてないんだ。

 俺を監禁する気なら、ベッドにくくりつけるなり、それこそ(おり)にでも閉じこめとけばいいんだ。

 もし俺に爆弾なんか仕掛けたのなら、みっちり監視されてなきゃおかしい。外から俺の様子をうかがうなんて非効率すぎる。



「どうなってるんだ……?」


 なんとか拾い上げた赤黒い球体を、ふたたびベッドに置いた。


 おかしい。

 これが爆弾であれマジックアイテムであれ、窓から捨てられるんじゃないのか? もちろんやらないけど。

 これが竜王軍の備品なら、こんな不用心なことするだろうか?


 なんかこの推理も無理があるぞ。


 なんで俺は拘束されてないんだよ。

 ちょっと変すぎるだろ。



「……本当にどうなってるんだ?」


 ダメだ。

 真剣に考えてみるが、状況がちっともわからない。整合性のある説明がまったく出来ない。意味不明すぎる。


 考える。

 わからない。



 そのとき。


 バアアアアアアアン!


 そのとき、いきなりドアが開いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


イタいぜ!



チャッカマン



チャッカマン

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ