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便箋40 ジバン・フレイ その3

 


 手紙だ!

 これは手紙だ!


 ガサガサガサ!

 あわてて折り紙を開くと、やっぱりそうだ。丁寧(ていねい)な文字で書かれた、魔女からの手紙だ!





■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




 親愛なる、私のジバン。

 お前がきっと目を覚ますと信じて、この手紙を書く。


 お前はいま、理解不能の状況に困り果ててるだろう。


 まず、いまお前がいるのは魔界だ。

 南ゼルモア海に面する城だ。

 私たちが閉じこめられていた砦から、120リコメートルほど離れた場所にある。


 覚えてる?

 あのときお前は、籠手に刺されて気を失った。


 私は、死にそうになってるお前を玄関室まで連れて行った。

 外に落とした籠手が、外扉を開けてくれるのを期待してだ。


 言うまでもないことだが、それは内ドアを閉めることを意味する。

 そうなれば、もう砦にさえ引き返せなくなる。


 気を失ったお前とふたり、玄関室で私は思った。

 私はお前を愛してる。


 だからお前がもし息絶(いきた)えたら、私もそのまま玄関室で死のうと思った。

 お前のあとを追って。


 幸い、そうせずに済んだ。

 5分もしないうちに外扉が開いた。

 お前の計画通り、籠手が開けてくれたんだ。


 夢にまで見た、外への出口が開いた。


 私は飛び出した。

 必死に走った。

 走って走って走って、走り抜いた。


 しばらく走ったところで、私は馬車を買った。

 馬車を走らせること2日、私はようやく隠れ家になりそうな場所を見つけた。

 それが、お前がいま目覚めた城だ。


 私はいま、この城にいない。

 だが、かならずお前のもとに戻る。

 だから安心して待っててほしい。


 愛をこめて。


 お前の魔女より。




■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■





「ふ、ふふふ。はっはっは」


 思わず笑いがこみ上げる。

 もとの流線形に紙を折り戻そうと思ったが、まったく折る順番がわからなくなった。だから広げたまま、もう一度読み返す。


 ふう。

 今度はため息が出た。


「なんだこの、ウソだらけの手紙は」


 もうわけがわからん。

 状況がまったく理解できない。


 ふと視線を上げると、部屋のドアに気がついた。

 木製のドア。

 もしかして、この部屋から出られるだろうか。窓が開いたんだし、ドアも開くんじゃないか?


 よっこらしょ、よっこらしょ。

 体を引きずりながらドアまで()いずって行った。ようやくたどり着き、ドアノブに手を伸ばす。

 ガチャ。

 ガチャガチャ。

 何度か回してみるが……


「ふ……ぐぅ……! あ、開かないな」


 ぜんぜん動かなかった。

 どうやらカギがかかっているらしい。まさか、外からしか開かない呪法がかかってるわけではないだろうが。


 よっこらしょ、よっこらしょ。

 ふたたび四つん這いでベッドに戻る。死に物狂(ものぐる)いでベッドにあがり、ごろんと仰向(あおむ)けになった。

 ドサっ!

 痛たた……


 右手、腹、背中の傷、それに加えて頭痛もしてきた。とくに右手に光る異物が痛い。もうなにも考えたくないが、考えずにはいられない。



「ぐっ……!」

 叫び出したい衝動をおさえ、俺は静かに考える。

 とりあえず、さっきの手紙について考えよう。


 まず内容だがメチャクチャだ。


 魔女が、俺を玄関室まで連れて行ったって?


 ハハハ、どうやって?

 足を撃たれた魔女がどうやってだ。


 そのうえ、砦から逃走しただと?

 そのとき俺をどうしたんだ。

 おんぶして走ったとでもいうのか?


 気を失った俺を背負(せお)って?

 その間、大ケガした俺は失血死もせずにいたというのか?


 道中で馬車を買った?

 どこにそんな金があったというんだ。


 この城を隠れ家にしている?

 人間の俺を(かくま)ってくれる施設など、魔界のどこにあると言うんだ。

 まさかこんな大きな城が、空き家だったとでもいう気か?



 この手紙は完全にウソだ。

 メチャクチャなことばかり書いてある。


 だが、そうなるとおかしなことがある。


 なんでこの手紙は、あの砦で起こったことに(くわ)しいんだ。

 とくに最後の日、俺が刺されたことまで記述してあるではないか。


 その事実を知っているのは……



 知っているのは、俺と魔女だけだ。

 つまりこの手紙を書いたのは、魔女ということになる。


 じゃあなんで、魔女はこんなデタラメの手紙を書いたのか?


 考えられるのは……



 いやいや。

 もうひとり、あの場にいたやつがいるぞ。


 聖鎧(クロス)だ。

 あの鎧は、俺たちと一緒に砦にいたんだ。

 だからあの日のことを知っているし、なによりあの鎧は(しゃべ)ることもできた。


 じゃあ文字を書くこともできるんじゃないか?

 このウソ手紙は鎧が書いた―――?



「ふ、ふふ」


 ありえない。

 いや、あの鎧なら手紙を書いたとしても驚かない。なにしろ手紙を読んだくらいだからな。書いたとしても不思議じゃない。


 だが鎧がこれを書いたなんて有り得ない。

 だって、手紙にちゃんと書いてあるじゃないか。


 玄関室(・・・)と。



 俺たちは鎧の前で、玄関室なんて言葉は一度も使ってない。

 あの砦のエントランスを「玄関室」と名付けたのは魔女だ。だからあの部屋を玄関室と呼ぶのは、この世で俺と魔女しかいないはずだ。


 つまりこの手紙を書いたのは、いや、書けるのは魔女しかいない。


 やっぱりこの手紙を書いたのは魔女だ。

 じゃあ、なんでこんなデタラメな手紙を書く?


 答えはひとつしかない。

 無理やり書かされたんだ。



「アダン……!」


 ギリっ!

 俺は歯を()みしめた。


 俺が気絶した後、砦にアダンが来たに違いない。

 竜王軍じゃない。

 竜王軍なら、オレを生かしておく理由がない。


 じゃあ俺を助ける理由があるのは誰だ?

 アダンだけだ。


 アダンめ!

 事情が変わったか、気が変わったか……とにかくあの日、アダンは砦に来たのだろう。そこで聖剣に刺された俺と、足を撃たれた魔女を見つけたに違いない。


 そしてなにが起こったか、鎧から一部始終を聞かされた。


 折れた聖剣を見て考えたはずだ。


 弟が死んではマズい。

 なんとしても生かして、教会に連行しなければ。


 だからヤツは俺を砦から連れ出し、この建物に運んで治療した―――


 下にいたケープマントは、ヤツが使役しているとかいう魔物娘だろう。つまり折り紙にして投げこんできた手紙は……


「ははは」


 (わな)だ。

 魔女がここに戻ってくると書けば、俺が逃走しないとでも思ったんだろう。


 俺を(だま)す必要がある。

 ということはつまり、魔女はここにいないということだ。


 やがて魔女を人質にして、俺を懐柔(かいじゅう)するつもりなんだ。

 いや脅迫する気だ。


 つまり……


「くそっ、あの悪魔め……!」


 アダン!

 アダンめ!

 あの野郎、魔女を拷問(ごうもん)したな!


 無理やり、魔女にあの手紙を書かせた。

 そしてどこか、この城とは別の場所に監禁してるんだ!


 その証拠に、俺が城内を動き回れないように、ドアを施錠しているではないか。魔女の不在を確かめられてはマズいからだ。


 じゃあ、なぜ窓は施錠されてない?

 ふふふ!

 決まってる。



 ……あれ?


 なんでだ?



「あれ、なんでだ? なんで窓は施錠されてないんだ?」


 ゆっくりともう一度、窓に手をかけてみた。

 ギギギイと音を立てて、簡単に開くガラス窓。ぜんぜんふつうに開く。


「どうなってるんだ? ここからふつうに逃げられるぞ……?」


 アダンがこんなミスを犯すはずがない。

 ということは……

 え?

 俺をここに連れてきたのは、アダンじゃないのか?



 おかしい。

 なにか推理が間違ってたか?




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イタいぜ!



チャッカマン



チャッカマン

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