表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/50

便箋37 脱出作戦 その4

 


 俺の腹に、剣が刺さった。


 先の折れた剣なのに……恐ろしい力で(つらぬ)かれたらしい。腹から背中にかけて、聖剣が俺を刺し抜いていた。

 おそろしい痛みと冷たさが内臓に伝わる。

 痛い。


 ゴボッ!

 もう一度、今度は血の(かたまり)を吐く。



「お、弟!」

 背後で魔女の叫び声がした。


 ……ちょっと待て、背後?

 ああそうか、俺は魔女をかばったのか。


 我ながら大したもんだ。よく間に合ったもんだ。籠手が剣を振り下ろすより早く、魔女の(たて)になったのか。

 ははは……


 腹に刺さった剣、籠手はまだその(つか)を握っていた。

 グルン!

 籠手はぐるりと握りを変える。()じりながら、剣をさらに押しこむつもりだ!



「うぐ……さ、させるか」

 あわてて籠手を(つか)まえた。右手の骨折とか言ってる場合じゃない、必死で(つか)から引きはがす。

「どう、どうだ。捕まえたぞ……!」


 どうにか捕まえることができた。俺の手から逃れるべく、激しく指を動かしている。だがもう遅い、むなしく空気を()くだけだ。

 しめた!

 死ぬほどの痛みをこらえながら、よろよろと窓穴に向かう。


 一歩、また一歩。

 俺は窓へ進む。

 ぐじゅ、ぐじゅ。

 刺さった剣が、すこしづつ腹を切り裂く。


 ドッ!

 とうとう俺はヒザをついてしまった。

「うぐぁ! あああ!」

 絶叫。


「お、弟! おとうと!」

 ずる、ずる!

 魔女が足を引きずりながら寄ってきた。


 あれ?

 魔女が老人になってるじゃないか。シワだらけの顔をさらにクシャクシャにして、大粒の涙を流している。



「お、弟。なんちゅうことじゃ……うぅ!」

「魔女……はあ、はあ。だ、大丈夫か?」


「わ、私の心配なんぞしとる場合か! 剣が、剣が刺さってしもうとる!」

「ああ、しくじったな。籠手なんかにやられるとは……ハァ、ハァ、な、情けない」


「ど、どうしよう……どうしたら……」


 泣く魔女に、俺は「どうにもならないよ」と言おうとした。

 だが、声が出ない。


 これはいけない。

 頭がぼんやりしてきた。


 ああ、これはいけない―――



「ま、魔女。頼みがある……この籠手を、外に捨てて……くれ……」

「な、なにを言うとるんじゃ! 剣を抜かんと……!」


「捨ててくれ……こいつに外扉を開けさせて……砦から逃げないとな……」

「お、弟! お、お願いじゃて、お願いじゃからもう……!」


「ハァ、ハァ……頼む。せっかく捕まえたんだ、頼むからムダにしないでくれ……」

「お、弟……ひぃいい」


 シャツと言わずズボンと言わず、俺はもう真っ赤に染まっていた。出血は止まらず、床は血だまりになっている。

 寒い……



「そ、そとに出たかった。お前と一緒に……」

「わ、私も。私もお前と……」


 俺は最後の力をふりしぼり、籠手を魔女に渡した。この瞬間、なぜか籠手の重さをまったく感じなかった。まるで、なにも持ってないみたいだった。


「ほ、ほら魔女。気をつけろよ……」


「おとうと……」

 泣き続ける魔女。

 ()れ木のように細い手が、俺の手に触れる。たぶん数秒のことだったが、俺には1分くらいに感じられた。


 魔女に籠手を(たく)した。

 なのに俺の腕は重くなってきた。変だな、籠手を持ってるときは重さを感じなかったのに。渡してから重く感じるなんて。ダメだ、もう手を上げていることもできない。


 だが、ほっとした。

 魔女はもう籠手を捨てたかな。


 わからない。


 もう、何も見えない。


 ああしまった。

 聖剣を抜かないと。


 なんとか腹に手を伸ばし、(つか)を握る。ひと思いに抜きたいのだが……ダメだ、力が入らない。

 教会から盗んだ聖剣。

 いつかは教会に返しに行くつもりだったのに、俺に刺さってちゃ返しようがない。これは困った。


 死ぬ。


 ああ、これは本当に死んだ……





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

※※※※※※※※※※※※※※


 ※※※


  ※



   ※





「どこだ、ここは……?」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


イタいぜ!



チャッカマン



チャッカマン

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ