便箋36 脱出作戦 その3
「やったぞ魔女! 籠手のやつ、無事に外へ落ちてった!」
「弟すごい! やったやった!」
魔女が俺の腰に抱きついてくる。
ぴょんぴょんと飛び跳ねる、かわいい女の子。こういう屈託のない笑顔もできるのか、この女。
俺もうれしくなって、一緒に跳ねてみる。
いやいや。
「あー、うん。それじゃ今度はもう片方の脚甲を落とそう。順調だぞ、おい」
「うん! 順調順調!」
魔女が脚甲を抱え上げた。
しかし脚甲はびくびくと激しく動き、魔女の腕から逃れようと暴れる。
「あ、この! じっとしてよ!」
「やれやれ、こいつもか。いちいち世話を焼かせるな。よし、ロープでぐるぐる巻きにして捨てよう」
「え、でもそんなことしたら落っことす意味なくない? 外で動き回ってもらわないと困るじゃん」
「ぐるぐる巻きにするだけさ。鉄格子をくぐらせる瞬間だけ動けなくすればいいんだ。巻きつけただけなら、落下の衝撃でほどけるだろ」
「ナイスアイディア! じゃあ籠手のほうは、なんか袋に入れて放り捨てよっか。袋の口を縛らないで落っことそうよ」
「袋じゃなくて布とかでいいぞ。丸めてポイだ、こんな籠手」
「オッケー、探してくる。ていうか、ここにあるもので使えるの無いかな?」
魔女は脚甲を持ったまま、きょろきょろと周りを見回した。
俺も周囲を見渡してみる。
カベ際に、謎の樽が3つ。謎の木箱がひとつ。あとは、立てかけてある謎の肖像画があるくらいだ。あの肖像、もしかして竜王か?
いや今そんなことどうでもいい。
さすがに都合よく、布やロープなんか無いか―――
―――次の瞬間。
パァン!
破裂音がした。
直後、魔女が前のめりに倒れる。
ガシャン!
ガシャンッ!
魔女の抱えていた脚甲が、放り投げられて壁にぶつかった。
「ひぎゃっ……!」
ドサ。
悲鳴をあげて倒れる魔女。俺を指さして、うめき声を漏らす。
「お、弟! 籠手が……!」
「お、おい大丈夫か? 籠手がどうした?」
籠手なら、俺の靴の下にちゃんとある。
だが。
だが籠手の人差し指の部品がない。コインを弾くように、指の先端を撃ち放ったらしい。
「なッ、こ、コイツ……!」
「う、撃たれた……」
鮮血―――魔女の足、スカートの裾から見える脹脛に、撃ち抜かれた穴が開いている。
パァン!
続けざま、籠手が中指を飛ばした。壁に向かって放たれた部品は、跳ね返ってして俺の顔をかすめた。頬を切り裂かれた衝撃で、俺は態勢を崩してしまう。
「ぐッ……し、しまった!」
不覚!
籠手を踏む力を緩めてしまった。
ザザザザザ!
ガシャガサガサガサ、ガシャンッ!
すかさず動き出した空っぽの籠手は、すさまじい速さで地面を這い回る!
そして、
シャランッ!
床に寝かせてあった聖剣を抜くや、魔女に襲いかかった。
ジャランジャラン、ジャランジャラン!
引きずる剣が、けたたましい音を立てる。先端を失った人差し指と中指に聖剣を挟み、あろうことか3本の指だけで走る籠手。
「ヒッ……ぎゃああ!」
まだ地面に倒れたままの魔女に、籠手はブンと剣を振り上げた。
魔女が身を丸め、背を見せる。
ガードになってない。
死ぬ。
「やめろっ!」
俺は走った。
魔女。
魔女を守らねば―――
―――ドスン!
「ぐぁ……」
血を吐く。
俺の腹に、剣が刺さった。
先の折れた剣なのに……恐ろしい力で貫かれたらしい。腹から背中にかけて、聖剣が俺を刺し抜いていた。
おそろしい痛みと冷たさが内臓に伝わる。
痛い。




