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便箋29 聖鎧のアダン その5

 


「どうかまず冷静にお聞きください! 私は生きており、ずっとこの砦に隠れておりました。もちろん魔女といっしょにです」

「わああああん」


 うるさい魔女。

 ちょっと黙ってほしい。



「恐れながら白状します! 私は、私の死を偽装するためにウソの手紙をバラ撒きました。兄上を(だま)すためでございます!」

「わああああん」


「面目次第もございません! ご承知のとおり、私は教会から神器を盗み出しました! 申し上げにくいことながら、私はその神器を破損させてしまったのです」

「わああああん」


「もはや国王陛下にも兄上にも会わせる顔が無く、身をひそめていた次第です。申し訳ございません!」

「わああああん」


 罪を自供する俺。

 泣く50歳の魔女。



「ことここに至ったいま、逃げも隠れもいたしません! さりながら兄上の慈悲を乞いたく、恥知らずにも申し上げる所存です!」

「わあああああん」


「いま兄上は部屋のなかにまだおられますか! あるいは外におられますか! 外におられるにせよ、扉は開けておられますか!」

「わあああああん」


「どうか外の扉を閉めることだけはおやめください! 兄上まで閉じ込められてしまいます!」

「わああああん」


 全容を伝える俺。

 泣く30歳の魔女。



「神に誓って今から申し上げることは事実です! 重ねて申し上げますが、外の扉は絶対に閉めないでください! 中からは開けられないようになっております!」

「わああああん」


「外の扉ともうひとつ、部屋の内側にもドアがありましょう。私はそのドアの向こうから話しております!」 

「わああああん」


「そのドアと扉は連動しているのです! どちらかが開いていれば、どちらかは開きません!」

「わああああん」


 扉の仕組みを説明する俺。

 泣く10歳の魔女。



「お疑いであればお試しください! 外の扉が開いておれば、このドアは開けることが出来ないはずです! ご安心を! 部屋に入るだけならば閉じ込められることはございません!」

「わああああん」


「ですが重ねまして! 外扉は絶対に開けたままにしておいてください! さもないと出られなくなってしまいます!」

「うわああああん」


「とくに念のため! 風などで扉が勝手に閉まることがないよう、お気をつけください! 剣でも石でも構いません。外扉が閉まらぬよう、ドアにストッパーをかけて下さい!」

「うわあああん」


「もしも私の願いをお聞き届けいただけますなら、お答えください! お願いいたします!」

「うわああああん」



 俺の顔面は蒼白になっていただろう。

 いまフッと思ったが……この城の窓は鉄格子で閉ざされているだけで、外気が遮断(しゃだん)されているわけではない。窓という窓から、毒のアイテムでも放りこまれたらおしまいだ。

 兄ならやりかねない。


 と。


 ガチャ。

 ガチャガチャ!



「ひい!」

「ヒッ!」

 ふたりで悲鳴をあげてしまった。


 アダンがノブを回したらしい。

 よ、よかった……どうやら玄関室にいるようだ。



「あ、兄上。そこにおられますか? そりゃ、おられるでしょうな……」

「ひいい」


 ガチャ。

 ガチャガチャ!

 ドアノブが回されつづける。


「このとおりなのです。外の扉が開いているかぎり、内側のドアは開かないのです」

「ひーひー!」


 がちゃ。

 がちゃん。

 ドアノブを破壊されたらどうしよう。

 一巻の終わりだ。


「あ、あまり乱暴にノブを(あつか)わないでください。壊れてしまったらどうしようもありません」

「ひ!? ひいい!」


「本当ならお願いなどできる立場でないのは、重々(じゅうじゅう)承知しております。しかしながら助命いただけるなら私、一生を兄上の従僕(じゅうぼく)としてお仕えする所存です!」

「ひ……ひ……」


「なにとぞ……! 勇者の弟であることに免じて、愚弟の懇願(こんがん)お聞き届けください。お願いでございます!」

「ひ……」


「…………あの」

「……」


「あの、兄上?」

「?」



 沈黙。

 あれだけ激しく動いていたドアノブだが、急に反応がなくなった。


 アダンの回答もない。

 何秒も、何十秒もただ沈黙が続く。


 俺も魔女も、動かないドアを凝視していた。



 しかし!


 

   ガチャ。

   ギィイイイイイイイ!



 内ドアが開いた!



「え!?」

「なっ!」


 (あと)ずさる俺と魔女。

 ま、まさか……入ってくる気か!? 


 ありえない!

 俺の話を聞いてなかったのか!?


 外扉を閉めたというのか?

 自分も閉じこめられると言っただろう!



「兄上! お待ちください、お待ちを……!」

「ぎゃあ弟! 弟!」


 30代半ばの魔女が、俺の腕にしがみついた。

 魔女を腕にしたまま、俺は後ずさる。


 ギィイイイイイ……

 ゆっくり、ゆっくりとドアは開いていく。


 姿を現したのは、



  聖鎧(クロス)のアダン。


  頭から爪先まで、完全武装したアダンだった。




「ジバァアアアアン! 魔ァアアアアアア女!」

 アダンの絶叫。

 悪魔のような声だ。

「ジバァアアアアン! 魔ァアアアアアア女!」


 地獄の底から響くような声。

 これが人間の声か? 

 砦中に鳴り響くような狂号……びりびりと空気が震える。


 ガシャン!

 アダンが砦に入ってきた。




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イタいぜ!



チャッカマン



チャッカマン

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