表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/50

便箋26 聖鎧のアダン その2

 


「……ふう」

 俺は文面を読み上げて、ため息をついた。

 なんという怪文書だ。

 手紙Aと大差ない。


 ため息をつきながら、手紙にある7歳の女の子(・・・・・・)に話しかける。



「……なあ魔女。本当にこれでいくのか」

「きっとうまくいく、心配ない」


「なんか本当にスゴいよな、この文面」

「なにが?」


「なにがって完全に脅迫状だ。バレたら確実に殺されるぞ」

「バレっこなよい。まさかこんな子供が、昨日の老婆と同一人物だなんて気がつくわけない」


「……たとえバレなくても、あの男なら無関係の女の子さえ殺す気がする。腹立ちまぎれに、カッとなって」

「そうさせないように、女の子を殺したら身の破滅だって手紙に書いたんじゃん」


「最後のほうまで読む前に殺されるかもしれない」

「なに? なんかずいぶん消極的だけど」


「……お前は怖くないのか。正直、こんな危ない橋を渡らせるのが申し訳ないんだが」

「ぜんぜん平気! それよりあたし、このままアダンに利用されるほうがイヤ!」


「……強い」

「全身がカッカしてきた。あたしもう、やる気まんまんって感じ!」


「……」


 俺は恐ろしくなった。

 たしかにこの女は魔女だ。ふつうじゃない。人間ではありえないほど蛮勇だ。しかもそれを7歳の姿で言うんだから、ギャップについていけない。



「俺はおそろしい」

「なにブツブツ言ってんの。弟、手順を確認しよ」


「あーまず……アダンが戻ってくる」

「はい」


「7歳の少女、つまりお前がアダンに手紙Bを渡す」

「はい」


「家出少女のお前は、おうちに帰りたいと泣きじゃくる」

「はい」


「アダンは歯ぎしりしながらも、しかたなくお前を逃がしてやる」

「はい」


「お前は町に行って、魔物を雇う」

「3匹くらいね」


「アダンが去ったのを確かめたうえで、お前は砦に戻ってくる」

「魔物3匹を連れてね」


「お前が外扉を開ける。そんで魔物に内ドアを開けてもらう。俺は無事に救出してもらえる」

「よくできました」


「……こんな上手くいくか? というか出来るのかコレ」

「できるかできないかじゃない。やるんだ!」


「……」

「やるんだやるんだ!」



 俺は頭を抱えた。

 はたしてこんなことで兄をダマせるだろうか。


 たしかに90歳の老婆が砦から消えて、かわりに7歳の少女がいたら……誰だって別人だと思うだろう。

 まさか同一人物だとは、さすがの勇者でも気づくまい。もしかしたら手紙Bに、まんまとダマされてくれるかもしれない。



 ①老婆の魔女は、たまたまやってきた少女によって救出された。

 ②その少女は、老婆と入れ替わりで砦に残った。



 唐突すぎる展開のシナリオだが、物理的な無理は一切ない。

 めちゃくちゃ(あや)しまれるかもしれないが。


 いや、もう考えるな。

 これ以上の案が出なかったんだからしかたない。魔女の言うとおり、手紙Bでやるしかない。



「魔女」

「なに?」


「すまんな、いちばん危険な役をやらせてしまって」

「あたしにしか出来ないことだからしかたない。気にしないで」


「7歳の娘をいけにえ(・・・・)にするみたいで、俺は情けない。はずかしい」

「誰がいけにえよ。ほら手紙ちょうだい!」


「……頼む」

「うん」


「頼んだぞ」

「まかして。じゃあアダンが来たら、あたし予定どおり砦から出てくから」


「ああ」

「あたしが戻るまで餓死しないでよ。さ、はやく出てって」



 ひったくるように手紙を受け取った魔女は、せき立てるように俺を玄関室から追い出した。


 バタン。

 俺が廊下に出るや、振り返るより早く内ドアを閉められた。

 なんか、ふつうに閉められた。


「……なんだよ」



 運命の作戦だというのに、あっさりしてるなと俺は思う。ずいぶんドライなもんだ。もうちょっとこう、なにかあってもいいと思うんだが。


 とは言え、もうあとは魔女に任せるしかない。

 アダンが来るまで待つしかない。

 とくに魔女は、家出少女の大芝居をせねばならないのだ。魔女の邪魔にならないよう、俺は砦のなかで息を殺しているだけだ。


 さて、どうしたものか。

 いつもだったら手紙を書くところだが、もうその必要もない。やることがないとなると、ひどく退屈だ。


 いまからアダンが来ることを考えると落ち着けない。気持ちが焦るのにすることがないというのは、とてもイライラするものだ。


 とりあえず内ドアの前に毛布を敷いてみた。

 がらんとしたエントランスに座ると、なんだか広々としすぎて不気味な感じだ。


 閉じた内ドアの向こうに魔女がいるわけだが……さすがに話しかけるわけにもいかないよなあ。


 ドアをノックしてみようかと思うが、怒られそうでやめた。

 というか、こっち側からはドアに触れないんだった。

 ノックなんか出来ないんだった。



 静かだ。


 気配を消して隠れるのは、もともと俺に向いてないんだ。一昨日(おととい)も、地下室でゴーストに発見されてしまったしな。


 2年くらい前にモンスターのアジトを襲撃したときもそうだ。草むらに隠れたが、あっという間に見つかって殺されかけた。

 今にして思えば、モンスターが追って来ないかとソワソワしてたのが原因だった。あれでは居場所を教えているようなものだった。見つかって当然だ。


 しかし静かだ。



 と、次の瞬間!

 ドアの向こうから魔女の声が聞こえた。叫び声が。



『ひゃああ! りゅ、竜王様!』

『ひいいいい! な、なぜここに……!』



 魔女の悲鳴を聞いて、俺は飛び上がる。

 耳を疑った。


 竜王、だと?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


イタいぜ!



チャッカマン



チャッカマン

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ