表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

便箋2  砦の生活 その2

 


「なにグズグズしてんの! はやく袋取ってよ、弟!」


 魔女にどなられる俺。

 お前の鳥なんだから、お前が受け取ったらどうなんだ。


 というか、弟と呼ぶな。

 俺はお前の弟じゃない。


 おそるおそる窓穴へ手を差しこみ、鉄格子に腕をくぐらせる。

 スキマの余裕なんかない、ギチギチだ。こうやってダークコンドルからボロ袋を受け取るわけだが、いつもいつも怖い。どのタイミングで(つか)めばいいのかわからない。


 なにしろダークコンドルの爪ときたら、まるでナイフだ。下手に触ろうものなら、俺の指がちぎれかねない。


 さっきも言ったが、鉄格子のスキマはようやく片手を通せるくらいの幅しかないのだ。そして窓は、限界まで手を伸ばしてやっと手首が外に出せるのだ。

 つまりこの状態だと、外の様子がまったく見えない。カンと手探りで袋をつかみ取るしかない。


 ぱしッ。

 ダークコンドルの爪に触れずに、なんとか袋をつかむことに成功した。鉄格子の内側に、シーツ大のボロ布を引きずりこむ難しさよ。やっとの思いで砦のなかに引っぱりこんだ。


 すぐさまボロ袋を床に投げ捨て、今度はこっちの袋をぐいぐいと格子のスキマから外に押し出す。さっきと違って、今度の袋は中身がパンパンだ。たかが手紙とはいえ、鉄格子をくぐらせるだけでも大変な作業だ。

 途中で引っかかる。

 どうにかして押しこむ。


「うわッ!」


 ズルンッ!

 なんとか半分ほど押しこんだところで、いきなり袋が吸いこまれていった。


 ダークコンドルが、袋に爪を引っかけたようだ。そのまま、すさまじい飛翔力で持ち去ったらしい。窓を覗くと……なんという速さか、鳥はもう50メートルくらい向こうの空を飛んでいた。


「ああ驚いた、痛てて……」


 せまい鉄格子に圧迫された左手がズキズキ痛い。


 呪法のせいで格子に触れることはできない。

 逆に言えば、それがクッションのようになって、格子で腕が傷つくのを防いでくれているとも言える。だがその反面、実際よりも格子のスキマは小さくなってしまうわけだ。

 こないだなんか、腕が抜けなくなってパニックになった。



「あーあ、袋ボロボロじゃん。また()っといて。それから、おなか空いたから早くゴハンにしよ」


 かわいらしい姿の魔女。

 またも年齢が変わり、今度は8歳くらいになっている。少女……いや魔女は、俺に気づかうことなく階段を下りはじめた。


「……」

 俺はボロ袋を拾い、無言でついていく。

 まったくどうなっているのか、魔女の背丈はぐんと縮んでいるのに、着ているローブは寸法がぴったりだ。魔女の体格に合わせて、服のほうもサイズが変わっている。

 単なる黒いローブにしか見えないが、一種のマジックアイテムなのかもしれない。


 ふわふわとした髪を揺らし、目下の魔女はとんとんと軽やかに階段を下る。細い体、小さな背中、袖からはみだす手の白いこと……


 これがさっきまで老婆だったとは信じられない。

 本当に同一人物なのか?



 俺はこの半年、魔女が年齢を変えるのを毎日見せられている。女がみるみる若返り、ふたたび年老いるのだ。とても現実だとは思えない。

 実際、この目で見なければ、年齢操作の魔法など信じられなかっただろう。



 と―――食堂。


 この砦でもっとも広い部屋だが、スペースの半分くらいしか使っていない。もう半分のスペースは物置にしていて、(タテ)だのツボだの木箱だのを積んである。

 俺が砦に来たときからこんな状態だったが、べつに片付けようという気にもならない。俺と魔女が食事をするだけの部屋なんだから、テーブルと椅子さえあれば充分だ。


 テーブルにはすでに、夕食のメニューが並んでいた。

 パンと干し肉と、ビン詰めのスープ、あとはフルーツが数種。見たこともない果物だが、魔界の果実だろうか。


「お皿出しといて。私、スープを温めなおす」

「ああ」


 とりあえずボロボロの皮袋をそのへんに置き、言われるがまま俺は食事を配膳する。中皿を並べて、パンと肉を等分した。


 あとは果物だが……皮を()こうと思って、やめた。

 なんなんだ、このビリヤードの玉みたいなムラサキの果実は。どうやって食べるのかさっぱりわからない。しかたなく大皿にそのまま盛りつける。



「スープが温まったよ、食べようか」


 魔女が戻ってきた。

 この果物は人間が食べても大丈夫なのか、と聞こうとして俺はギョッと固まる。


 魔女が女になっている。

 もちろんずっと女だったが、そういう意味じゃなく……20歳前後の年齢になっている。


 こうして簡素な夕食が整った。






挿絵(By みてみん)





挿絵(By みてみん)




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


イタいぜ!



チャッカマン



チャッカマン

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ