暑い暑い日々に②
そして夕暮れ。暑い日でも時間は過ぎる。
「行こうか、凛子ちゃん」
「行くってどこに?」
「街。こっから車で1時間くらいかな」
この希海ヶ原の麓から1時間程歩くとバス停があり、一日二回、朝と夜しか停まらないバスが来る。そのバスに乗って1時間で街につく。その経路の逆で私はこの場所までたどりついた。だが、里美さんはもっと別の経路を持っている。
軽トラックだ。それの助手席に乗って、夕暮れの廃村を燃える夕日を横目に眺めながら、進む。
軽トラックでは流行りの曲が少し懐かしい存在であるCDから流れていた。里美さんはそれを小声で口ずさむ。
忙しかった日に、ゆったりとした時間が流れる。そして1時間かけ、私達は街についた。
「ここで何するんですか?」
「凛子ちゃんの歓迎会、あと買い物、ついでにお風呂、まぁまぁ忙しい」
「ありがとうございます」
私はお礼を言う。
「ショッピングモールに行きましょ」
その言葉通り、軽トラはショッピングモールの駐車場に停まり、そのショッピングモールにて、洋服屋に向かった。
「凛子ちゃんの作業着、パジャマ、下着、私服その他もろもろを買おうよ」
私はもじもじとする。
「ごめんなさい、私、あまりお金が」
「知ってるよ、あたしが出すよ。でも、高いブランドとかはご勘弁願いますからね」
里美さんはアハハと笑った。
「いえ、悪いですよ」
私は断る。
「あはは、凛子ちゃんはいわばあたしの会社の社員なんだから、その制服を買うのも社長の務めでしょ」
なんて素晴らしい会社だろうか。社会人の頃働いていた会社とはまるで違う。
「いつかお金貯めて返します」
「いいっていいって~」
そう言って、私の服を買っていった。作業着として、機能性の良さそうなジャージも買ってもらった。下着も、靴も、パジャマも買ってもらい、確かにこれで作業もしやすそうかつ、ぶかぶかのパジャマで眠ることもなさそうだ。
私は嬉しくなった。
「なにが食べたい? 凛子ちゃんの歓迎会だから、好きなものでいいよ」
「じゃあ、ハンバーグでもいいですか?」
「もちろんOK」
私達はショッピングモール内のハンバーグショップに向かった。そしてジュージューと焼ける熱々のハンバーグを口に入れ、思う。
"美味しい”
決して自然の中での料理ではないが、目の前の凛々しくとても優しい女性と一緒に食べているからだろうか、そのハンバーグも、とてもとても美味しかった。
そして、今日はドラム缶風呂を用意するのはめんどくさいという理由から、里美さんと私は銭湯に向かい、お風呂に入り、ほどよくのぼせて、気分良くなった。
そして帰路に着く。帰り道、運転する里美さんが口にする。
「今日は慣れない力仕事で疲れたでしょ? 助手席で寝てていいよ」
私は首を横に振った。夜になりまた満天の星が空に浮かび、そして相変わらずの里美さんの小声の歌声。車の動きについてこれず流れる星空。軽トラのガラス越しに見える透き通った海。
私は今この瞬間を決して一時たりとも無駄にしてはならないと感じた。そしてきっとそれは現にとてもとても大切な、一億円積まれても売れはしない、私の大切な記憶になっていくのを感じる。
そんな夜であった。私は外を見ながら、とても小声で、
「ありがとうございます」
そう呟いた。
「どういたしまして」
里美さんがそう笑い、聞こえていたことを理解して火照る顔、そんな大切な、暑い暑い一日だった。