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8/11

暑い暑い日々に①

"コケコッコー”


 なんだ? けたたましく鳴く鳥の声に私は目を覚ました。久しぶりに落ち着いて眠れたような気もする。私はゆっくりと体を起こし、階段を下りて、一階に向かった。

 

 暑い。そしてサンダルを履いて外に出る。


「お、起きたね」


 里美さんが外で音源のないラジオ体操のようなことをしていた。


「鳥の声が聞こえました」


「こっちこっち」


 ラジオ体操の最終章、深呼吸を終わらせた里美さんが私を案内したのは鳥小屋で、そこでは二羽の鶏がコケコケ動いていた。


「コケちゃんと、コッコちゃん。両方ともメスだから、卵を産んでくれるよ。それに、目覚まし時計にもなる」


 安易な名前だこと。私は面白くなる。


「ほい」


 里美さんは鍵を開けて中から卵を二つ取り出した。そしてそれを持って、昨日カップラーメンを食べた場所位に向かい、昨日と同じ要領で熱しているフライパンの中、卵を二つ入れ、目玉焼きにした。


 さらに飯盒でご飯も炊いているらしい。


 それからしばらくして、ワイルドな朝ごはんが出来上がった。


「はいどうぞ、目玉焼き丼」


 ご飯に目玉焼きを乗せ醤油を垂らしたその料理。味も食べる前から予測できる。だがやはり、この空気綺麗な外で岩に腰かけて食べるそれは、想像の何倍も美味しかった。


 食事が終わった折、里美さんは川の水をコップに入れ、それで歯ブラシを濡らし、歯を磨く。私にも歯ブラシ、まだ未開封のそれを渡してくれ、私も一緒にやる。


 口をゆすいだ水は地面に吐くという、なんとも野生を感じる行為に誇らしくなった。


「私も手伝います」


 私の申し出に里美さんは、”ありがとう”と笑い、川の水を汲んだもので食器を洗うことをお願いされたから、私はそれを全うする。


 そしてそれが完了し、暑い一日が動き始めた。


「行こうか」


 里美さんと私は希海ヶ原に向かう。ゴミ袋、ほうき、軍手、その他諸々を持って、向かう。そして希海ヶ原に続く獣道のようになった石段の麓にて。


「こういうのってさ、何事も手前からやるのが効率的なんだよね」


 私と里美さんは、石段の麓から、その石段の上に乱雑している諸々、木の折れ端やら、石やら、泥やら虫の死骸やら苔やらを、ほうきで掃いてゴミ袋に入れていった。


 7月の炎天下の肉体労働。もちろんしんどい。でも、何故かはよく分からないけど、私は楽しかった。


「はい、これ飲んで」


 里美さんはちょくちょくその指示を出してきて、水筒に入った水を飲ませてきた。


「まだ大丈夫ですよ」


 そう言っても、頑なに譲らず、


「熱中症は本人が大丈夫だと思っても一気に来るんだから、飲まなきゃダメ」


 と、こまめな水分補給を指示してきた。


 心から熱い夏。汗が出る。蝉が鳴く、私は水を口に入れる。ただの川の水。普通の水。だけどもそれは、過去一美味しい水であった。私はそれを自分用に用意してもらった水筒の半分ほどの量飲み、”ぷはぁ”と息を吐く。


「美味しい」


 出ていく汗、入ってくる水、雲一つない空、綺麗な空気。都会に馴染めなかった私が欲しかったのは、これだったのかも知れない。暑い夏、私は根拠もなくそう思った。


 ゴミ袋にゴミやらを詰めては石段の下に置くを繰り返す夏。綺麗な風が吹いて、ふふふと笑いたい。


「お昼にしよう」


 里美さんはそう言い、朝作ってくれていたおにぎり弁当、梅と昆布のおにぎり二つを渡してきた。おにぎりの塩味は火照った体に染み渡り、昆布の甘みと梅干の酸っぱさが心をリラックスさせる。それを石段に腰かけて食べた昼下がり。


「里美さんはどうしてこの場所を復興させたいんですか?」


 私はそんな疑問をおにぎりを口に入れながらした。


「ここはさ、形見なんだ。あたしの家族の」


 里美さんはあっけらかんとそう告げた。


「あたしの家族って、みんなもう死んでるんだ。


 別にそんな神妙な顔つきしないでよ。あたしももう30歳だしさ。悲しくないって言えば嘘になるけど、それはいつかは絶対来ることなんだ」


 私は愚かにも、里美さんの言葉に返答できなかった。


「希海ケ原はさ、あたしのおばあちゃんの所有する土地だったの。それを観光地として、無料開放していた。綺麗な海が見えるこの場所が、あたしは好きだったんだ。


 でもさ、あたしのおばあちゃんが認知症になって、父さんと母さんがその介護をすることになった。あたしも高校を卒業してサラリーマンになってこの故郷から離れてしまった。そして、だんだんとこの地の管理が行き届かなくなって、人もこなくなって、いまやもうこんな感じ。


 そして、父さんと母さんも死んじゃって、あたしの家族との思い出はこの廃れた場所だけになっちゃったの。


 だからさ、この場所を綺麗にしたかったんだ」


 里美さんはおにぎりを頬張る。


「復興、させましょう‼」


 私はそう口にした。


「もちろん‼」

 

 里美さんは飛び切りの笑顔で返答する。暑い夏の昼休憩が終わり、午前中の疲れも感じるが、私の身体は午前中よりも一層せかせかと動くのを感じた。


「ありがとう、凛子ちゃん」


 里美さんはそんな私の頑張りを見て、微笑んだ。少しだけ里美さんとの距離が近づいた気がした、暑い暑い夏の一日だ。蝉が鳴いて、鳥が飛んで、バッタが跳ねて木漏れ日に焼かれる、暑い暑い夏の一日だ。



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