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死地を探して③

「御堂さんは……」


「里美です」


「里美さんは……」


 そんな何の意味があるのか分からない訂正を経て、私は言葉を紡ぐ。


「里美さんは、なんでそんなに明るいんですか?」


 里美さんは頭をかいた。


「難しいことを考えるのをやめたんだ」


 里見さんは静かにそう告げた。


「昔はあたしもあれこれ考える質でさ、考える必要のないこと、考えてもどうしようもないこと。未来の恐怖、過去の失敗、いっぱいいっぱい考えてた。だけどさ、それって結局考えても無駄なんだって気づいたんだ。


 考えたって変わんないことは変わんないし、変わることは変わる。だからさ、今だけに目をやって、今できることを全力でやろう。そう決めたんだ」


 沈みゆく太陽がちょうど里美さんと重なって、巨大な太陽の中、里美さんのシルエットが浮かぶ。


「羨ましい」


 私は静かにそう呟いた。石段を私達が下りるのとご一緒して、太陽もだんだんと下りていた。


 そして獣道から下りて、10分ほど歩いた時、里美さんがこちらに向き直って満面の笑みで言葉を発す。


「ついたよ、あたしんち」


 その場所は古民家と形容するのがふさわしかろうと思える、まさに古民家であった。


 赤瓦、土壁、2階建てのそんな家だ。お世辞にも綺麗とは言い難いそんな家を、里美さんはとても誇らしげに紹介してきた。


「どう? どうどう?」


 そんな問いかけ。どう返すのがいいのだろうか?


「あ、本音ではなく、あたしを傷つけないであろう最適解を探そうとしているな、凛子ちゃん」


「うっ」


 図星過ぎて変な声が出た。心でも読めるのだろうか?


「あはは、その気を使って本音を言わないところはさ、決して凛子ちゃんの悪いところじゃないよ。まったく逆で、それはあなたの長所だよ。だって、あたしに嫌な気持ちを味あわせたくなくて、気を使ってくれたんでしょ?


 だからさ、そんなに驚いた顔をしないでよ」


 泣きそうになった。なんでかは知らない、いや、知ってるか。ずっとこのおどおどとした性格は、私の短所だと思って生きていた。でもそれを初めて肯定してもらえた気がして、泣きそうになった。


「でもさ、別にあたしに気を使う必要はないよ。だってさ、あたしって、とっても自己中でしょ? 死にたいって言ってる凛子ちゃんを強引に、めちゃくちゃ強引にこの家まで引っ張て来てる。そんなあたしに気を使うことなんて、我ながらないわよ」


 里美さんはあははと笑う。


「ほんとですね」


 私も少しだけ、ふふと笑えた。


 そんな夕暮れだった。


「で、この家には実はないものがあります。それはなんでしょう?」


 本音で答えろと言うことだろう。だから私は本音で答えたい。


「えっと、えっと、お洒落さでしょうか?」


 私はしっかりと考えて答えを出した。里美さんのほうから”えっ”という言葉が漏れた。


「ブ、ブー。違います」


 私は改めて考える。


「えっと、華やかさでしょうか?」


 また、”えっ”という言葉が聞こえてきた。


「ブ、ブー。違います」


 私は再び思案する。


「ちょっと待って!! 答えを言う、言うよ」


 里美さんは焦りながらそう告げる。


「正解は~、水道と電気とガスでした。あと電波も」


 今度は私が”えっ”とつぶやいた。


「ライフラインがないんですか?」


「そそ、だってここ、廃村だし」


「どうやって生きていくんですか?」


「どうやってでも生きていけるよ。昔だって、電気もガスも水道もなかったんだし」


 そうだけど、そうだけども、それでも便利さになれた現代人がそんな状況で生きていけるとは思えなかった。


「さて、今日はあたしが凛子ちゃんをもてなしてあげよう。電気も水道もガスもついでに電波もないこの家でね」


 里美さんは茶目っ気たっぷりで笑う。


 茶目っ気たっぷりだがその顔は凛々しかった。

 



 

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