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1話「無能な男、追放」

 とある高原にて。


「オラァァァァァァァァ! 逃げんじゃねぇ、スライムゥゥゥゥ!!」


 俺は剣を振り回し、ザコモンスターのスライムを全速力で追いかけていた。


「はぁ……はぁ……」


 全力で走るも、その時間5秒と持たず。若いというのに体力がないのは今のレベルと関係しているのかもしれない。


「シャー!!!」


 悠長に考え事してる場合じゃなかった。


 スライムは俺をジッと見つめて動かない。心なしか殺気のようなものを感じる。動物界において先に目を反らしたほうが負けだ。


 本来なら人間である俺が優勢である。


 それはスライムにとって人間が危険だから? 


 俺にはチャンス? 


 否、それは大きな間違いである。


 手のひらにじんわりと汗をかいているのがわかる。


 ゴクリ。と唾を呑む。が、一向に喉の乾きは潤わない。それどころか喉はカラカラに渇ききっていた。まるで砂漠にいるようだ。


 それもそのはず。この状況でピンチなのは、紛れもなく、“俺”のほうだから……。


「すみませんでした!!」


 俺はズザザザザーッ! とその場でスライディング土下座をした。が、モンスター相手には無理がある。それは100も承知。

 しかし、万が一ということもある。戦闘では、時に予想外のことが起きるというのが相場が決まっている。だから俺は少し期待をしていたのかもしれない。


 効果は抜群だ! こうしてスライムは去って行った。と、いう展開を。そこまでのシチュエーションをしていたにも関わらず、これはあまりにも酷すぎる仕打ち。土下座は使うどころをしくじると反感を買うと聞いたことがあったが、どうやら俺はやっちまったらしい。


 俺の意味不明な行動に怒ったのか、単に本能での攻撃なのか、スライムは何の躊躇もなく、こちらに一斉に飛びかかってきた。


「キシャァァァァ!!!!!」

「まっ……! 死ぬ死ぬ! マジで死ぬって!」


 いつの間にか仲間を呼んでいたスライム。俺は、為す術もなく大量のベトベトに無慈悲にも襲われていた。


 スライムをザコ呼ばわりしたのは訂正しよう。

 でもさ、普通はスライムって簡単に倒せるじゃん? 最初のレベルアップにはスライム狩りっていうくらい弱いだろ? でも、倒せるわけないんだよね。


 だって俺……レベル0の無能だし。


 そんな俺が一人でスライム狩りをしているのにはワケがある。それは数ヶ月前に遡る。


「アレン・フォールド。いきなりで悪いがパーティーを抜けてくれないか?」

「……は?」


 一つの依頼が終わり疲れもMAXに達し心身共に疲れきっていたとき、唐突にパーティーのリーダーであるブラッドに突きつけられた言葉。それはナイフのように俺の心に突き刺さった。


「正直さ、お前って顔だけが取り柄みたいなとこあるよなぁ〜。いくら顔がカッコよくても実践で使えなきゃ意味無いつーの」

「……」


 いつも笑顔の耐えない優しいブラッドはどこにいったんだ? ここにいるのはブラッドのそっくりさんだよな? そうだ、偽物に違いない。俺は必死に今のブラッドから目を背けようとしていた。いや、ブラッドからではない。この酷な状況にだ。ようは現実逃避ってやつ。


「聞こえなかったのならもう一度言うぜ。お前は今日限りでクビ。お荷物は俺らの前から消えな」

 

 これが本当のブラッドなんだと思うしかなかった。それ以外、頭が真っ白でなにも考えられなかったから。


「……わかった。だけど俺がいなくて本当に大丈夫か?」


 こんなの無意味だとわかっていても聞かずにはいられなかった。最後にブラッドの本心が聞きたかったからだ。


「何度言わせるつもりだ? 平気に決まってんだろ? なぁ、シェリー、サラ」


「えぇ、ブラッド様の言う通りですわ」

「アレン。もしかして同情でブラッド様に気に入られようとか考えてるの?」


「そんなこと……」


 完全に否定出来なかったのが悔しい。これはブラッドの嘘だと思いたい。


 俺たちのパーティーは四人。ようは俺が抜ければブラッドが女二人を良いようにできる。……そうか、もしかしたら、と、俺は停止している頭をフル回転させた。


「ブラッド。お前は俺のことが嫌いなんだよな?」

「あぁ、そうだ。当たり前のこと言わせんな」


「そっか、そうだよな。これで解決した」

「アレン、お前何一人で……」


「もういいさ。シェリー、サラ。今後はリーダーについていくことだな。今まで世話になった」


 俺は大声を出して暴れ回ることもなく、潔くその場を離れた。


「アイツさぁ〜。結局俺らにスキル見せなかったよなぁ」

「ブラッド様、どうせ聞こえてませんわ」


「あのお荷物のことですし、スキルだって大したものではありませんわ」

「そうだよな。はー! 清々したわ。今日は三人で朝まで飲み明かすかー!」

「そうしましょう!」


「……」


 聞こえてるっての。俺は静かに扉を閉め、一人店を出た。


 俺はその日、「無能でお荷物だから」という理由でパーティーを追い出された。

作品をお読みいただき、ありがとうございます。

この作品が面白い!と感じた方は星をマックスで評価してくれると嬉しいです。今後の作者のモチベにも繋がります。よろしくお願いします。

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