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名前のない人生劇

【短編】悪政を強いた王族は排除されました。私を含めて。愛しの奴隷は解放しますね。「愛しています、私だけのあなた」

作者: ヘチマチ

【シリーズ】【一話完結型】

設定ゆるゆる、ご容赦ください。


王族は排除された。私を含めて。

奴隷として私と共にいた彼を解放しなければ。


「今までありがとう。さようなら」


-----


私は王族が絶対的な権力を持つ国の第二王女として生を受けました。側妃の元に第一王子と第一王女が。王妃の元に第二王女と第二王子が。

私の母である王妃はもともと東洋の国の王女でしたが身体が弱く、双子の私たちを産んで儚くなりました。

父である国王とは会うことはほとんどなく父親という感覚よりも国王として認識していました。

私たちが十歳になった頃、国王の公務に第一王女である姉が連れて行かれるようになりました。

世間で“お世継様“と呼ばれる姉は一番父である国王に似ていました。

似ていたのは容姿だけではなくその性格も一番似ていたのではないでしょうか。


姉は簡単に言うと“苛烈で傲慢“でした。

自分は特別だと常に言っていましたし私たち妹弟さらには実の兄に対しても見下した態度をとることは日常茶飯事でした。侍女たちに手をあげることもしばしばで王族以外の人間に人権などないような態度でした。


「そんなことも分からないのですか。我が国のことを第一に考えなさい」


姉はまるで女王のようにいつも私たちに言いました。私と弟はただただ頭を下げるだけでしたが、いつも面白くない顔をしていたのは兄です。


「お前さえいなければ私が世継ぎとなるものを」


実際に男である、というだけで兄を次の国王にしようという動きもありました。兄も姉と同じく勉強はできますが姉と比べて少し人の機微に疎いところがあったので兄が国王になれば色々とやりやすいのでしょう。

姉はそんな兄のことも見下し

「女の尻ばかり追っているお兄様に公務は務まりませんわ」

と一蹴していました。

兄は確かに美しい女性が好きで身分年齢問わず手を出しては周りの者が火消しに走っていたのです。


そんな姉にも天敵がおりました。隣国、別名“平和の国“の王女様です。我が国と平和の国は和平の協定を結んでおり定期的に交流があったのです。

姉は自分よりも年下の王女様のことをとても嫌っておりました。


「あの猿女め。平和ボケした国の王女ごときが私に反論するなんて」


そう。王女様は大変口がお達者で傍若無人な姉が言い負かされるのです。交流の場には父である国王もおりますから父の前で良いところを見せたい姉にとっては王女様が一番の天敵だったのです。

姉は王女様を徹底的に避けるのでおのずと私と弟が王女様とお話する機会が多くなりました。

兄ですか?

兄は王女様が好みではないと失礼なことを言い他の子息たちと話をしていました。

隣国の王女様は私たちにも容赦はありません。


「何をヘラヘラしているの?貴方たちに意見はないの?」


そう言って冷たい目をされました。私と弟はお互いに顔を見合わせます。私たちの意見など聞かれたこともないし言ったところで変わりもしないのです。


私にも思うところはあります。

平和の国とは和平を結び良好な関係を築いている我が国ですが国境を接する小国に対しては度々争いを起こしています。我が国の言い分としては『もともと我が国の領土だった』です。

しかし私は知っています。“もともと“が三百年以上も前で記録も不確かだということを。


我が国の民には、さも最近まで小国が我が国の領土であったかのように教育が施されています。国外からの情報は統制され我が国に我が王族に不利な情報は淘汰されるのです。

私は母が東洋の国の王女だったことから母についてきて今は私についてくれている年配の侍女からこの国の歴史を聞いていました。


ある日、私たちのもとへ商人たちがやってきました。私たちは王宮の外へ出かけることは滅多になく、こうやって出入りを許された商人が来てくれるのです。今日は兄姉弟も一緒でした。様々な物が並ぶ中、数人の奴隷もいました。

この国では未だに奴隷がおります。他の国からしたら時代遅れなのですが王族がそれを許しているというのだから恥ずかしいことです。

姉は奴隷など汚らわしいと近づくこともしません。

兄は綺麗な女はいないと興味を無くしていました。

奴隷商人は姉兄が興味がないと分かると私たちに勧めてきました。


「いかがですか?最近はどこの国も奴隷を禁止しておりますから貴重でございますよ」


弟は「興味はない」とサッと目を逸らしました。

私も断ろうと思っていたのに一人の男の目つきに魅せられてしまいました。

一人の男が私たちを睨んでおりました。ジッと刺すように。

私の視線に気がついた商人は尚も私たちを睨みつける男を見て言いました。


「ああ、この男ですか。奴隷としては新しい奴ですよ。使い古しではございません。生意気なところはありますが、その分、躾甲斐があるかと」


そう言って男の背中に向かって鞭を振りました。

部屋に鋭い音が響き私は驚きのあまり飛び上がりました。鞭で打たれた男は痛みに顔を歪ませ床に這いつくばりました。


「生意気な態度を取れば、こうやって躾ければ良いのです」


もう一度鞭を振ろうとした商人を私は慌てて止めました。


「やめなさい!この人は私が引き取りましょう」


商人はご購入ありがとうございます、と恭しく礼をとったが、その顔はニンマリと笑っていたのを私は見ました。


-----


奴隷として引き取った男はその後、私の従者となりました。始めの頃、主人となった私に向かって

「お前らのような王族は排除されるべきだ」

と鋭い目つきで睨んできたことを思い出します。


私は「それは、姉や兄の前で言ってはいけないわ」と嗜めた後「私もそう思うわ」と答えました。

意外そうな顔をする男に「ねぇ、“我が国のために“って、結局誰のためだと思う?」と聞くと男は静かに「王族のため」と答えました。

私は「私もそう思うわ」と二度目の返答をし

「でも、それじゃあダメよね」と加えました。


私の従者として仕事にも慣れてきたある日、従者の男は私に言いました。


「王女様、奴隷の私を側に置いていて良いのですか?貴方が悪く言われているのを知っていますよ」


確かに、姉からは「卑しい身分の者を側に置くだなんて。周りの者に侮られますよ。王族として、そんなことも分からないのですか」と言われていました。弟からも、

「僕は奴隷制度には反対だけれど、それにしても彼との距離が少し近いのでは?信頼できる人がいることは良いことだけれど少し考えた方がいいよ」と嗜められていました。

しかし私は彼の、この国の王族としては非常識な、だけれども私としては常識的だと思える考え方や、それを私にハッキリ言ってしまう忖度しない態度が気に入っていました。

そして私自身が彼の近くにいたかったのです。これは今の私が望む唯一のわがままでした。


-----


我が国では王族が絶対的な権力を持ち情報を統制していましたが、それに反発する人たちもいました。

我が国でも有名な文化人や良識ある一部の貴族は今のやり方では結果としてこの国のためにならないと国民たちに呼びかけていました。

私たちが十五歳になると国王やその後継者とされる姉、女性関係に問題のある兄ではなく私の弟が次の王になるべきだという派閥の動きが強くなりました。

私は弟を応援することに決め私を取り込もうとする姉や兄とは極力会わないようにしていました。

私の従者となった男は「第二王子様はそのつもりがないのでは。貴方が後継者になられたら良いのに」と勝手なことを言います。


「あら、私が女王となったら沢山子を産めと言われるのでしょう。きっと殿方を数人抱えることになるわ。私が耐えられるかしら」


私の母が私たちを産んで儚くなったことは従者の男も知っています。言葉に詰まった男に私は笑いかけます。


「意地悪なことを言ったわね。ごめんなさい。国民のためになるならば女王になることは厭わない。けれど私にもその器がないことは私自身がよく分かっているの。それに叶うのならばたった一人の人と愛し愛されたいわ」


そう言った私のことを従者の男はジッと見つめていました。私も男の目を見返します。双方何も言わないまましばらく見つめ合いました。


それから急展開を迎えました。なんと弟が暗殺されかけたのです。弟を支援する貴族たちとの会議のため移動していたところを盗賊に襲われたと言うのです。しかし王族の印がついた馬車を襲う盗賊などいません。どう考えても誰かの仕業でした。

さらには弟を支援していた著名人たちが次々と拘束されました。罪名を伏せられたまま捕らえられ後から本人たちに身に覚えのない罪を突きつけられ国民から見ても違和感のある事件でした。

弟は無事でしたがこの事件で弟を含む支援者たちも皆、動きを止めざるを得ませんでした。

弟は「僕を暗殺するのが真の目的ではない。こうやって支援者を萎縮させ動きを止めることが目的だったのだ」と分析していました。


私は最も怪しいと思われる姉に接触しました。

姉は私に向かって言います。

「誰が次の王に相応しいか、そんなことも分からないの?我が国のことを第一に考えなさい」


私は思わず反論します。

「お姉様の言う“国のため“とは、結局は“王族のため“でしょう。民のことを考えるべきでは?」


姉は私が意見したことに意外そうな顔をしましたが、すぐにいつもの見下した表情で言い放ちました。


「民が私たちを支えているとでも?笑わせないでちょうだい。私たちが民を生かしているの。国は王のもの。力を持たない民に望まれたからといって余計なことする貴方たちが悪いのよ」


話し合いではどうにもならないと私が席を立つと姉は私に向かって言いました。


「貴方も気をつけなさい」


-----


私は弟や支援者によって母の生家のある東洋の国へ亡命することになりました。従者の男は当たり前のように私に付いてきてくれました。


出国前、弟は、従者の男に「姉上を頼む」と言いましたが従者の男は人の目を気にしたのか「奴隷である私に恐れ多いお言葉です」と目を伏せました。

東洋の国では年配の侍女の生家である一族のお世話になりました。侍女からは我が一族は諜報に秀でていると聞いていたので彼らに教えを乞い多くのことを学びました。従者の男は彼らに武術も習っていたようでよく外出していました。

私はこの国で得られた情報を度々弟に伝えました。弟たちは得られた情報をもとに国内外から姉を揺さぶっているようでした。また、次々と国政に異を唱えた著名人が捕らえられたことから国民から王族へ向けられる違和感が徐々に不満となって出てきていると聞きました。

ついに立太子された姉は婚約者として東洋の国の第二王子を指名しました。その意外な選定に周りの者は驚いていましたが私には思惑が透けて見えるようでした。


「お姉様は自分を手こずらせている原因の一つにこの国の諜報員の活躍があると気付かれたのね」


私がそう言うと従者の男は頷きました。


「なるほど。それでこの国を取り込み味方に付けようと?」


「そういうことだと思うわ。だけど、お姉様のことだからそれだけではないかもしれない」


「と言うと?」


「味方に付けるなんて生優しいものではないかもしれないわ。お姉様は自分たち以外を徹底的に見下しているもの」


私たちは東洋の国の王族に接触し秘密裏に会談を重ねました。そして数ヶ月経ったある日、私が危惧していた事が起きてしまったのです。


「そうですか。やはりお姉様はこの国を支配下に収めるおつもりだったのですね」


私に詳細を教えてくれたのは姉の婚約者である東洋の国の第二王子様でした。


「貴方が言っていたことは正しかったようだ。有意な情報をありがとう」


「もったいないお言葉。我が国の王族がご迷惑をおかけして申し訳ありません」


頭を下げた私に第二王子は微笑みました。


「貴方の姉上が美しく賢いことは認めるが彼女は始めの仮定から既に間違っていた。それが彼女の敗因だ。どうして私が兄上を裏切ると、信じて疑わなかったのか甚だ疑問だよ」


姉は第二王子様を唆し既に立太子されている第一王子様を失脚させ第二王子を次期国王に押し上げようと画策していたのです。

その後は国王となった夫をも葬って国を乗っ取ろうと考えていたのでしょう。我が姉ながら本当に恐ろしい人です。

第二王子様がおっしゃる通り姉はこの国の兄弟が王位をチラつかせるだけで仲違いすると信じて疑わなかったようです。それは姉が支え合う兄弟というものが存在すると知らなかったからかもしれません。


実の兄と常に足の引っ張り合いをし弟の暗殺を企て妹である私のことも脅して国から追い出す。

そんな姉はきっと誰のことも信じていないのでしょう。父である国王に認められることだけを目標に、いえ、もしかすると父のことですら心からは信じていないのでしょう。

東洋の国の第二王子はそんな姉の性格を逆手に取り姉の言う通りに兄への不満を募らせていくフリをしました。

兄を失脚させ自らが王となる野望に全力を傾け、婚約者である姉の国にも協力してもらえるよう頼む第二王子に姉はきっと笑いが止まらなかったのでしょう。

第二王子に言われるままに姉の私兵を伴い東洋の国へ入国したところを姉はこの国の軍に捕らえられました。


東洋の国の転覆を図った罪です。常に諜報員が姉に付いてきましたし、この国の第二王子様が一番の証人なのですから証拠はわんさか出てきました。

このことは両国だけではなく他国にも知れ渡ることとなり姉は窮地に陥りました。

姉は本国に助けを求めましたが父である国王はそんな姉をあっさりと切り捨てました。

『王女の独断であり、国の意思ではない』

というような文言が記された書簡を東洋の国に寄越したのです。


しかしこの判断が国王の首を絞めることになりました。なんと姉が周りの国々に「これは父である国王の策略であった」と言いふらし始めたのです。

姉は国外からの情報を統制するための一部の権力を有していました。国外から入る情報を選りすぐるだけではなく国外へ自国が有利になるような情報を流すことにも力を注いでいた姉は捕らえられてなお、その力を発揮したようでした。


「第一王女様は策が失敗した時のことも考えて自分が窮地に陥ったらそういった情報を流すよう準備されていたのですね」


従者の男が半ば感心したように言います。私はため息をつきながら答えました。


「そうね。お姉様は何かあれば父である国王から切り捨てられる可能性も考慮されていたのね。そして、それは現実となった。我が国の王族の足の引っ張り合いを国内外に見せつけて…お父様もお姉様も自身の保身ばかりで民のことは頭にありませんのね」


姉の情報操作はそれだけではありませんでした。

国政に異を唱えた著名人を捏ち上げた罪で捕らえたこと、弟の暗殺未遂、妹の国外追放が全て国王の指示によるものだったと国内外に言いふらしてしまったのです。

全てが事実ではなくとも、さもありなんと感じた民は多かったのでしょう。必然的に国王への批判が国内外から強まりました。国王は慌てて息子である兄を立太子させ自らは早々に隠居する考えがあることを国内外に発表しました。


次に姉がした行動といえば自らを捕らえている東洋の国への懇願でした。


「私は父である国王の命令に背けなかっただけ。これからは東洋の国と良好な関係を築けるよう尽力いたします。どうかご慈悲を」


そう言って塩らしく首を垂れる姉はまるで悲劇のヒロインのようでした。東洋の国の王族は姉がそんな人間ではないと分かっていたとは思いますが我が国の民が“悲劇の王女様“として姉を返すよう強く求めていたのです。東洋の国は大国である我が国とやり合うだけの力はありません。我が国とこれ以上拗れたくないとしぶしぶ姉を解放しました。

解放された姉は帰国する前に、こちらの国に滞在している私に会いにやってきました。


「これでお父様の時代は終わったわ。次は私の番、そうでしょう?」


にっこり笑う姉に私は意見しました。


「何をされるおつもりなのか、だいたいの想像がつきますわ」


「分かっていてもそれを止めるだけの力がない貴方には分からないでしょう。王族は国を導く存在です。我が国のことを第一に考えなさい。お兄様になんて任せておけないわ」


「お姉様、聞いてくださいまし。民は混乱しています。これ以上の醜聞は王族全体への不信感となって、お姉様にも降りかかるのですよ。そんなこともお分かりにならないのですか」


私の挑発に姉はクスリと笑うだけでした。


「以前にも言ったと思うけれど私たち王族が民を生かしているのよ。民が焚いた火から降りかかる火の粉など、痛くも痒くもないわ。そんなことも分からないの?」


姉と私の考えはどこまでいっても交わることはありませんでした。


-----


それから一年が経ち私が危惧していたとおりのことが起きてしまいました。兄と姉は盛大な足の引っ張り合いを披露し我が国の王族全体に不信感が募っていったのです。

国内外からの批判を受けても揺らぐことのないように見えた我が国の王族はあっという間に求心力を無くしました。

元々、他国の侵略を繰り返していた我が国のことをよく思っている国は少ない上に、今回の権力の乱用による民の人権を無視するような所業。国外へ亡命した著名人たちは他国へ働きかけ国外からの経済的な制裁によって自国の貿易を生業にしていた貴族たちは苦しい立場に立たされました。その波はどんどん広がり民の雇用や生活にまで影を落とすようになりました。

これまで王族に忠誠を誓っていたり異論を持ちながらもおとなしく従っていた自国の貴族たちが揃って王族を排除しようと動き出したのです。

排除される対象は既に国王となった兄はもちろんのこと、姉も弟も、そして私も含めてのことでした。

この知らせを聞いて私の従者である男は私の手を取り言いました。


「王女様、どうか私と一緒にこのまま国外へ逃げましょう。帰ってしまったら貴方まで断罪されてしまう」


必死な表情をする従者の男に私は少しでも綺麗に見えるよう、微笑みかけます。


「ありがとう。しかし私は王族です。責任を取らなければならないのですよ。私たち王族が排除された暁には奴隷制度も解消されることでしょう。今まで私の側にいてくれてありがとう」

 


『貴方のこと、愛していたわ』

この言葉だけは胸にしまい込みました。


-----


それから数年が経ち我が国の貴族たちによる王族の排除運動は他国を巻き込みながらも終結を迎えました。王族は形だけ残りその権力は奪われながらも他国の王族と友好な関係を作るための公務だけが残りました。

現国王としては私の弟がその職に就き小国との争いも終結させ、その責任と批判を一身に受け多くの賠償金を支払いました。もちろん東洋の国へも。

実質的な権力は貴族たちの中から選ばれた長に振り分けられ一極に権力が集中しないようバランスを模索しているようです。

父である前国王は排除運動中に何者かに暗殺されました。兄と姉は弟によって王族から除籍され、いち民として暮らすことになりました。しかしそんな待遇に我慢できない兄と姉は国外に逃亡したようです。兄は女によって刺され、姉は何やら企んでいたようですが一人では何もできなかったのでしょう。孤独の中、既に他界したと知らされました。

王族を排除した貴族たちと現国王である弟はこうなることを予想していたのでしょう。兄と姉が国外に逃亡できるよう監視にわざと穴を開けていたのですから。


私も同じく王族から除籍されました。しかしそれは弟が責任と批判を自分だけに向けられるように仕向けたからだと思います。私に悪意が向かないよう私をいち民としたのです。

しかし、国民からしたら良くも悪くも元王族。悪政を止められなかった私にも責任があるとされ身の危険を感じる日々を過ごしました。

それは当然のことでした。例え私が父のように殺されようとも文句は言いません。それでも私に付いてきた従者の男だけが心配でした。


「貴方はもう奴隷ではない。解放されたのよ。悪意を向けられる私と一緒にいては貴方の命まで危険に晒されるわ。どうか分かってちょうだい。私から離れるのよ」


男の手を取り懇願する私に彼はスッキリした顔で答えました。


「俺はもう貴方の奴隷でも従者でもない。ただの男ですよ。その俺が、あなたの側にいたいと自分の意思でここにいるんだ。貴方の頼みでも離れろというお願いは聞き入れられないな」


彼は私のことを優しく抱きしめるとこう言いました。


「俺の、俺だけの王女様。俺と一緒に平和の国で過ごしましょう」


なんと彼は既に東洋の国でできた知り合いの力を借りて幸せの国に住む手筈を整えていたのでした。

それは国王である弟の許可も幸せの国の国王様の許可も得ているというのだから驚きです。


「俺が東洋の国に貴方といる間、何もしていなかったとでも?貴方が自国のために闘われていた間、俺は貴方を逃すために協力者を増やしていたのですよ」


そう言って私の頬に流れる涙を掬ったあと、そっと私にキスをしました。


「愛しています。私だけの貴女」


-----


その後、いち民となった女は幸せの国の元王女の力を借りて国際の平和を目指す国同士の連合を立ち上げた。大国である二カ国が連合に加入したことからその輪は広がり、国同士の争いを諌める等の活動が行われたという。


女は元従者の男と共に平和のために尽力し自分たちは質素な生活を心がけていたという。そんな二人は誰かに評価されることもなく、没後、歴史の教科書に載ることもなく静かに、そして穏やかにその生涯を閉じた。


孫は言う。

「祖母は今際の際まで祖父にこう言っていましたよ、『愛しているわ、私だけの貴方』と」


シリーズ内の作品は、全て同じ世界観です。

今作で9作目!


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ぜひ、他の作品も楽しんでください。

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