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喫茶店カルペ・ディエム2

 ぼんやりとした時間が過ぎていた。コーヒーはもうぬるくなっている。僕は急に笛を吹きたくなった。このなんともいえない空気感を旋律にのせたくなったのだ。ちょうど山を登って来たわけだし公園山の展望台で吹こうと思った。

「セイコ、ちょっと公園山、行ってくる」

「えー、帰っちゃうのー」

「気持ちをまとめておきたいんだ」

「じゃあ私も行くー」

「お店一人じゃん、いいの?」

「すぐ帰ってこよ!」

 すぐ帰ってくるかは気分次第だなあ。


 公園山の展望台はカフェからすぐのところにある。途中までは舗装されているけど公園内に入ると林が広がっていて、道も山そのものになる。僕らはイチャイチャしながら向かった。公園の最深部に展望台がある。そこにいたるまでは遊具がいくつかあるが、ターザンみたいにロープにつかまって移動する遊具は年季が入っていて、誰も遊んでいないように見える。

 しばらく歩いて展望台に着いた。白いまん丸の器のような展望台。さらにそのうえにまるいテーブルがあり僕はそれに乗った。下には細江町が小さく見える。

「セイコ、来てごらんよ。町が一望できるぞ」

「じゃあ、私はニ望!」

 セイコは上にあがって来た。テーブルがまあまあ狭いからお互いの体温が感じられる距離だった。セイコは僕の肩の辺りに顔がある。僕はカバンに入れておいた笛を取り出した。

「なにを吹くの?」

 僕は無言でいつかかえるところを吹き始めた。FF9のオープニングだ。https://www.youtube.com/watch?v=NdQuypPplKY

「なんかさみしい曲だね」

 吹き終わるとセイコは言った。

「ほろんだ故郷を想う曲だからな」

 あれ、そんなストーリーだっけ。なんかFF9はごっちゃになっていてそんなだった気がする。

「そっかー」

 静かな時間が流れた。僕は大きく深呼吸をした。

「いつか大地震がきて町が流されたとき、ここにくるだろうな」

 セイコは無言だった。

「セイコはとろいから津波がきて死んじゃうだろうな」

「死なないよー。逃げるもん」 

「どうかな、じゃあいまここから突き落としたら死んじゃうだろうな」

「死なないよー、奇跡的に助かるもん」

「じゃあ、今僕が隠し持ってるナイフでメッタ刺しにしたら、さすがに死ぬだろうな」

「死なないよ。たぶん」

「いや、死ねよ! なんでメッタ刺しにされて死なないんだよ! 頼むから死んでくれよ!」

「死なないよ! だって私は生きるから!」

 僕らは興奮して取り乱してしまった。くだらない。

「はあ、でも僕は死ぬだろうな。簡単に」

 セイコは静かに笑うと「死なないよ」と優しく言って、両手をにぎってくれた。あたたかくてやわらかくてうれしかった。両手を恋人繋ぎにすると見せびらかして「ねっ」と言った。僕は正直何が「ねっ」なのかわからなかったけどなんとなく「うん」と言った。鼻で大きく息を吸うと僕の心のざわつきが収まっていた。

 またぼーっと町を見ていた。横に目をやるとうすい身体に胸の膨らみがあるセイコがいる。よくこのうすさで生きていけるものだ。

「帰るか」

 僕は言った。

「うん」

 セイコはまばゆい笑顔を見せた。


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