十九 結局、座らせてもらえないんだな。
泉が箸でメンチカツを摘まむ。
「アクロバティックサラサラは、市内で不慮の事故で死んだ女なんだげど、その事故が故意に起こされたものらしいって話だ」
風呂なし、トイレ共同の琴吹のアパート。
狭い六畳間に美少女二人と妖怪の美女二人が押し掛け、いつも通り圧の強い女子会が展開されている。
事が解決したのは昨日のことだが、なぜか今日も彼女たちの夕食の場にされ、琴吹は部屋の主でありながら小さくなりウェイターのような役割をさせられていた。
「若い女みたいだったけど。故意に事故死させられるなんて、ヤバい付き合いでもあったの?」
妃永が温泉卵を三個ほど割って取り皿に入れ、醤油をかける。
「会社経営者の娘ってネットにあったな。財産分与で親戚と揉めたらしいとか何とか」
泉がメンチカツを噛る。
「うわエグ」
妃永は顔を歪めた。
「……んだげど、恋人に別の女ができて別れ話が縺れて殺されたって話もあんだ」
「なにそれ」
玉藻が着物の袖口を抑え、鳥の唐揚げを取る。
「いろいろ噂があって分かんねかった。そこまで探るの湯守の仕事のうちに入ってねえし」
泉は淡々とそう言い、炊き込みご飯の盛られた茶碗を手に取った。
「強い怨みで妖怪化して、関係者ことごとく殺してくうちに訳分かんねぐなったのは確からしいな」
「へえ」と玉藻が相槌を打つ。
「そういう人は、井戸でお皿でも数えてりゃいいのに」
唐揚げを品良く噛りながら、玉藻が吐き捨てる。
「あたしお皿数える怨霊さんに会ったら、横から違う数言って混乱させてみたぁい」
澪が笑う。
「八枚まで数えたところで、“今、九つでい” って言えば?」
妃永も温泉卵を口にしながらケラケラと笑った。
落語のネタだっけそれ。彼女らに芋煮汁を配りながら琴吹は思った。
「あ、キミお茶淹れてくれない?」
芋煮汁を受け取りつつ玉藻が言う。
「あたしミルクセーキがいい」
右手を上げ、妃永がそう要求する。
「……ミルクセーキはありません」
「まだ無いのぉ? やっぱり作り方教えに来てあげよっか」
「ていうか、キミ少し座ったら?」
玉藻が顔を上げこちらを見る。
女性四人で次々あれ持って来い、これ持って来い言うから座れないんでしょうがと琴吹は脳内で反論した。
「……あの。アクロバティックサラサラの件は解決したと思っていいんですよね」
「多分な」
泉が答える。
「あの……皆さん、今日もここに集まってる意味は」
琴吹が問うと女性四人はそれぞれに顔を見合わせた。
「そういえば何で?」
いかニンジンを箸で摘まみながら澪が他の三人に尋ねる。
「澪ちゃんがタッパー詰めた袋見せて、“今日は温泉卵もありまぁす” って言ったがらか?」
泉が傍らに座る澪を見る。
「あたしは泉ちゃんが、じゃ行ぐかって言ったから」
「あたしは、この二人がここに向かってたから」
玉藻が美少女二人を交互に指差す。
「同じぃ」
妃永が右手を挙げた。
四人それぞれに顔を合わせたが、それぞれに食事を再開し始める。
「ま、いっか」
銘々にそう呟き、何事もなかったようにモグモグと口を動かした。
いっかって。琴吹は顔をひきつらせた。
しかし強気になって帰れとも言えない。部屋中がいい匂いだなとか、この際どうでもいいことを考える。
「何か居心地いいのよね、ここ。弥勒菩薩ちゃんのご利益?」
妃永が、ほぅっと少しエロチックな感じに溜め息を吐く。
「真言知ってただけのド素人なんですから、関係ないと思います……」
「まあ、坊や座ったら? 今回は功労者じゃない?」
玉藻が微笑し、自身の傍らを指差す。
「そうですよ。湯ノ沢さんがいなかったら、アクロバティックサラサラの調伏、難しかったかもしれないし、功労者ですよねっ」
「んだな」
メンチカツを噛りながら泉が同意した。
澪がキラキラとした目でこちらを見上げる。
女の子にこういった目で見られるのは、幼稚園以来くらいかもしれない。
「ああ……いや。あんなもので」
どんな顔をしていいか分からないなと琴吹は思った。つい口元が弛む。
「んじゃ今日は、琴吹くんの活躍を讃えるために集まったということで!」
妃永が声を上げる。
「飲み明かそ! ね、お酒持ってきて! あたし濁酒がいい!」
「……お酒とかありません。未成年の住居ですから」
結局、座らせてもらえないんだなと琴吹は眉を寄せた。




