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十六 「うっつぁし変態!」

 無理やりパルクールをやらされてるような状態で街の中を引きずり回され、琴吹(ことぶき)はもはや体力も気力も尽きそうな状態でアクロバティックサラサラの首にしがみついていた。

 夜なので年寄りの多い温泉街に人通りは少ないが、通る人を見つけるたびに空洞のような目に目隠しし、誰とも目を合わせないようにする。

 もはや使命感で、これだけを繰り返していた。

「湯ノ沢さーん!」

 足下から(みお)の声がする。

 電柱のてっぺんから下を見ると、軽トラックの荷台に乗った泉と澪の姿が目に入った。

 こちらを見上げている。追って来てくれたのかと琴吹は泣きそうになった。

「大丈夫ですかぁ? 無理しないでねぇ!」

 無理しないでって。

 無理やり連れられてるんですがと琴吹は脳内で状況説明した。

「姐さん、狐火、出しっ放しにして! 湯ノ沢さん追えねえ!」

 背後から追ってくる巨大な白狐に向け、泉が声を上げる。

 長い黒髪が後ろに(なび)いているのが、外灯の灯りでうっすら見えた。

 白狐が首を大きく振り、ひときわ大きな狐火を空中に泳がせる。

「その代わり泉ちゃんもあたしの奴隷ね!」

 高笑いとともに白狐がそう宣言する。

「うっつぁし変態! なる訳ねえべ!」

 軽トラックのあおり板に両手をかけ、泉が声を張る。

 玉藻さんの奴隷って、あんな簡単に拒否できるのかと琴吹は高い位置の夜風に吹かれながら思った。

 ところで「うっちゃし」って何、と顔をしかめる。

 そろそろ観光ホテルや旅館の建物の並びが途切れ、民家が疎らに点在する界隈に来ていた。

 アクロバティックサラサラの飛び移る足場が、電柱や民家の屋根の割合が多くなっている。

 どこまで連れて行くつもりなんだろうと琴吹は疲れきった頭で思った。

 このままの方向なら、山の方だが。

「湯ノ沢さーん!」

 澪が再び呼びかける。

「もしかして、この前の源泉の辺りに行くのかも。そこまで大丈夫そうですかぁ?」

 大丈夫な訳ないじゃん。琴吹は顔をひきつらせた。

 澪の横で、泉がスマホのようなものを見ている。何か調べつつ追っているのだろうか。

「源泉? あたしを蹴り落とした辺り?」

 背後を追う白狐が鼻筋に皺を寄せ、横に裂けた口からチラチラと牙を覗かせる。

 獣の本気で怒った顔って怖いと琴吹は思った。

「アクロバティックサラサラ!」

 軽トラック荷台のあおり板に手をかけ、泉が声を上げる。

「本当の名前はなんだ! 弥勒菩薩さまと何か関係あんのか!」

「本当の名前?!」

 自身を連れ回す女妖怪のサラサラとした黒髪を琴吹は凝視した。

 妖怪に本当の名前も何もあるのか。

 シャアアアアと声を上げ、アクロバティックサラサラが電柱のてっぺんから飛び降りる。

「うわっ! うわわわわわっ!」

 アクロバティックサラサラの首にがっちりと捕まり、琴吹は何度めか分からない悲鳴を上げた。

 もう声が枯れてガラガラだ。

 ダンッと音を立て、アクロバティックサラサラは物置のような建物の屋根を足場に、またジャンプする。

 泉が荷台からじっとこちらを見ていた。

 時おり(なび)く黒髪を抑えて、スマホを覗く。

「湯ノ沢さん!」

 泉が琴吹に呼びかける。

「源泉の近くの霊園に行ってる!」

「れ……霊園?」

 慌てる琴吹に構わず、泉は軽トラックの運転席の方に顔を向ける。運転している人に何か指示をしたのだろう。軽トラックは、スピードを上げてアクロバティックサラサラの行く方向の先へと行った。

「ど……どういうこと」

 呟いた琴吹の方に、アクロバティックサラサラがグルンと首を半回転させる。

「ひ……」

 もう何度も目が合っているのだ。今さら災厄が増える訳でもないようだが、空洞のような目を鼻先で見るのは何度でも怖い。

「な……何か考えあるの?」

「うぅん、見捨てられたんじゃなぁい?」

 アクロバティックサラサラにしがみつく琴吹の背中に、白狐が顔を擦り寄せ色っぽい声で言う。

「や……やめてください」

 フワフワとした白毛に()でられつつも、琴吹は不安で涙ぐんだ。

「考えてみなさいよぉ。泉ちゃんの奴隷と、あたしの奴隷とどっちがいい?」

「な、何で奴隷限定で考えるんですか」

 泉と澪を乗せた軽トラックが、行った道を戻って来るのが見えた。

 え、なに、と見下ろしていると、泉が口の両脇に手を当て、声を張り上げる。

「玉藻姐さん! アクロバティックサラサラが変な方に方向転換したら、狐火で知らせろな! 知らんふりしたら、源泉の上の殺生石、トイレに移動してやっかんな!」

 白狐が無言で見下ろす。

 つっ、強気。伝説にもなってる大妖怪相手に強気だと琴吹は引いた。

「本当、奴隷にしがいのある子だわあ」

 鼻筋の皺をヒクヒクと動かし白狐は呟いた。

「奴隷にしたら、どんないやらしいことしてやろうかしら。あの巨乳をツンツンしてアンアン言わせてやるんだから」

「あ……アンアン……」

 琴吹は口元をひきつらせた。夜風に吹かれる電柱の上なのに下半身をモゾモゾとさせてしまう。

「あたしの奴隷になったら、キミにも少しくらいツンツンさせてあげるわよ?」

 白狐が数本の尻尾をくねらせながら誘惑する。

 こんな事態なのに迷う。

 両脚をモゾモゾと擦り合わせつつ、琴吹は軽トラックが再び山の方に向かうのを見送った。





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