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ゲームがリリースされる

 僕らは街の外でモンスターを狩って過ごした。もう好戦的なNPCは減っているのか、NPCとはほとんど戦闘にならなかった。稀に襲って来る連中もいたけど、僕らが手強いと分かると、連中はさっさと引いていった。勝てる勝負しかしない。賢いやり方だ。

 そんな中、僕は自分が置かれている現状をつらつらと考えていた。

 相変わらず、僕は少しも眠くならなかった。それで怖くなってしまったのだ。人間がこんなに長時間眠らないでいて平気なはずがない。

 

 “一体、僕の身体は、今どうなっているのだろう?”

 

 あのパトロール隊員は、僕をコピーされた人格…… ゴーストだと思っているようだった。自分を人間だと思い込んでいるゴーストが時々いる都市伝説がある、と。

 ――ゴースト。

 ゴーストといえば幽霊だ。

 パトロール隊員が言っていた都市伝説を僕は知らなかったけれど、別の都市伝説なら知っていた。もう死んでしまった人間が幽霊となり、ネット世界を彷徨っている。そして、AIはその幽霊をコピーされた人格だと誤認識してしまう……。

 僕は不気味な想像を思わずしてしまった。

 実は僕はトラックに轢かれて死んでいるのじゃないか? そしてそれに気づかず、幽霊になってこのゲーム世界を彷徨っている。

 そう想定すると、今のこの状態を巧く説明できてしまえる気がする。僕はその不吉な想像を否定した。

 “いや、そんな事は、有り得ない!”

 そうだ。いくら何でも有り得ない。脳も電子頭脳も何もなしに意識が生じるはずがないのだから。もしそんな現象が存在するのなら、AI技術はコンピューターの進化を待たずにとっくにもっと発展していたはずだ。

 僕は出来る限り合理的に考え、自らの気持ちを落ち着けた。

 気持ちを落ち着けた後で思う。“幽霊になっている”は、有り得なくても、何かしら異常な事態が僕の身に起こっている事だけは確かなのだろう、と。

 

 “なんとか、人間の協力者を見つけなくちゃいけない。そして、僕の身体がどうなっているのか調べてもらうんだ”

 

 後少しで、きっとこのゲームはリリースされる。そうなったら、人間のプレイヤーが参加してくる。

 その人間達と、なんとかコミュニケーションを取る手段を考えないといけない。その為には、恐らくは人間のプレイヤーに一目を置かれるくらいに強くなるのが有効なはずだ。そうしたら、きっと協力を依頼されるようにもなって、話を聞いてもらえるチャンスだって生まれるだろう。

 が、その為にはうちのパーティは少しばかり問題を抱えていた。アーサーは重装備タイプで遠距離攻撃は持っていない。盾役タンクには重宝するけど、近距離戦特化と言って良い。僕は剣士で、スピードも突進技もあるからアーサーほどは困らないけど、やはり遠距離戦は得意じゃない。サヨに関してはそもそも回復援護役で、誰かを攻撃するのは性格的にも向いていない。

 つまり、僕らは遠距離戦が圧倒的に苦手なのだ。もし、地の利を活かしてそのウィークポイントを効果的に攻められたら、下手すれば何もできないまま全滅してしまう。

 いや、遠距離戦に不利以前の問題として、そもそも僕らパーティは三人と少なめなのだ。後、二人くらいは欲しいところだ。

 だから僕は遠距離戦が得意な仲間を見つけようと努力したのだけど、単独で行動しているNPCは見つからなかった。皆、既にどこかのパーティに所属してしまっていたのだ。

 恐らく、単独で行動するNPCは初期の段階でほぼ淘汰されてしまったのだろう。つまりは、仲間を見つけられなかったNPCは、モンスターに倒されたか、パーティを組めたNPC達に狩られてしまったかして、既にいなくなってしまっているのだ。

 パーティを襲って壊滅させ、残ったNPCを仲間にする方法も少しは考えたけど、やっぱりやめておいた。ゴーストにだって恨みという感情があるかもしれないし、それに、やっぱり、いくら相手がゴーストとはいえ、人道上好ましくないとも思ったからだ。きっとサヨからも軽蔑されてしまう。

 この世界で倒されたNPCがどうなってしまうのかは分からないけど、少なくとも復活はしていないようだ。倒されたNPCの記憶を保存しておくとは考え難いから、きっと消去されてしまうのだろう。なら、それって、実質的に“死”と同じなのじゃないか? 殺してしまうのは忍びない。

 NPCに対して、そんな感情を抱くのが正しいのか間違っているのかは分からなかったけれど、仮に間違っていたとしても僕にはどうにもできなかった。

 仮に彼らが人間っぽい言動をするだけのプログラミングに過ぎなかったとしても、やっぱり、奴隷狩りみたいな真似はしたくない。

 だから僕らはただただモンスターを倒したり、武具を強化する事での戦力増強をし続けた。仲間は増えなかった。

 そして、ある日、このゲーム…… “テック・ファンタジー”は、遂に一般公開されてしまったのだった。

 何故それが分かったのかと言うと、なんと開始がアナウンスされたのだ。どうしてそんな事をする必要があるのかは分からなかったけれど、きっと単なる“遊び心”だろう。そういうのが好きな運営っぽいから。

 恐らくはゲーム世界全体に響いたであろう大音量で、そのシステム管理者のものだろう声はこう告げた。

 

 『本日0時より、テック・ファンタジーは一般ユーザー様に向けてオープンいたします! 大勢のユーザー様がご参入される事が想定されますので、皆さん、ご満足いただけるように、精一杯のサービスを心掛けるようにしてください!』

 

 声が終わると同時にファンファーレが鳴る。

 響き渡ったその明るい高音を聞いて、僕は“遂に来たか”と不安な気持ちになっていた。人間のプレイヤーの協力を得なくちゃいけないのは重々承知していた。けれど、彼らは果たして“NPC”と表記された僕の話を真っ当に聞いてくれるのだろうか?

 “NPC狩り”を楽しむ連中が大半を締めないと、どうして言い切れる?

 僕がそう思う根拠は、先行してこのゲーム世界に入っているNPCのレベルの方が明らかに高いという点にあった。アイテムや武具もたくさん持っている。つまり、狩りに成功した時のメリットが大きいのだ。運営は僕らを狩らせるという目標をユーザーに与える為に、NPCを先にこのゲーム世界に入れたのじゃないだろうか?

 課金の動機を促せるし、その方がユーザー同士の軋轢も生まれ難くなる。

 “とにかく、協力的な人間のプレイヤーを見つける事に全力を傾けよう”

 そう僕は決心していた。

 もっとも、まずは様子見から始めるつもりでいたけど。

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