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リリース前のゲーム世界

 「つまり、この辺りで戦闘したらダメって事ですか?」

 

 その僕の質問に宇宙人のような天使のようなパトロール隊員は、『そうです。その通りです』と妙に高い声で返した。

 僕ら三人は顔を見合わせる。

 「それは分かったけど、僕らは襲われていた側なんですよ? 僕らを咎めるのはちょっと理不尽じゃないですか?」

 僕がそう訴えると、パトロール隊員は弓矢使いと剣士と魔法使い達…… つまり、僕らを襲って来たパーティを見やった。彼らはそこに強制的に座らされている。悪びれた様子もなくそっぽを向いていた。ただ、何も反論はして来なかった。

 『どうやらその通りのようですが、どちらにしろ今はまだペナルティはありませんので。ただ、そういうエリアがあるという点だけはご了承ください』

 「今は? いずれペナルティができるって事ですか?」

 『その通りです。実は今はこのゲームは試運転中でしてね。あなた方NPCにこの世界のルールを把握してもらうのと同時にシステムを試しているのですよ。このパトロール機能もその一環です。まぁ、システムテストみたいなもんだと思ってください』

 システムテスト?

 僕はその言葉で納得した。システムテストの期間中だから、人間のプレイヤーが一人もいなかったんだ。

 「あの、こんなパトロールなんかしなくても、宿屋の中みたいに戦闘をできなくしちゃえば良いのじゃないのですか?」

 『ああ。その案も出たのですが、“それでは自由度が減ってつまらない”という意見が出ましてね。パトロール隊の目を掻い潜って、戦闘禁止エリアで敢えて戦闘を行い強奪する…… なんてのを楽しむユーザーもいるのじゃないかって話になったんですよ。因みに、時間帯や込み合い具合、その他都合によって戦闘禁止エリアは変わる仕様になっています。その方が緊張感があるでしょ?』

 僕はちょっとパトロール隊員の言うゲームをイメージしてみた。確かに面白い気がしないでもない。

 運営直属のシステム管理者権限の部隊だからだろうけど、パトロール隊は凄まじい戦闘力を持っているようだった。有り得ない速度で移動すると僕らを襲って来たパーティを、“これからキャトルミューティレーションでもするのじゃないか?”ってな感じの光であっさりと捕縛して(絶対に、運営は遊んでいると思う)、ここまで連れて来てしまった。

 もしこのパトロール隊に逆らうような連中が現れて、勝てないまでも逃げ切れたらけっこー盛り上がりそうだ。

 ただ、マナー違反を助長しかねないから、殺伐とした雰囲気になってしまうというデメリットもありそうだけど。

 「……あの、ところであなた達は運営の方ですよね?」

 話をしていて、パトロール隊員は人間が操作しているようにしか思えなかったのでそう訊いてみたのだ。

 ちょっと不思議そうな声でパトロール隊員は『全員ではないし、いつもそうではないですが、私達はそうですね』と返した。僕はその返答にガッツポーズをする。

 「良かった! なら、聞いてくださいよ。実は僕はゴーストでなくて人間なんです。何故か僕のアカウントがNPCと認識されちゃって困っているのです。ログアウトすらできない。対応していただけないでしょうか?」

 その僕の訴えにパトロール隊員達は顔を見合わせた。そして、

 『おお、都市伝説は本当だったか』

 なんて言う。

 “都市伝説?”

 「何の話ですか?」

 『自分の事を人間だと思い込んでいるゴーストが時々いるらしいのですよ。本当だったのですねぇ』

 僕はその説明に慌てた。

 「いや、ちょっと待ってください。僕は本当に人間なんですよ。そうじゃなかったら、こんな事まで喋れるはずがないでしょう? 自分の記憶も鮮明にあるし……

 名前は“畑一郎”。高校生です!」

 ところが僕の主張をそのパトロール隊員は『有り得ないですよ』と認めてくれないのだった。

 『このゲームは、まだ一般ユーザーに公開していないのですよ。今はテスト用にNPCを入れて、どんな動きをするか試している段階で。

 だから、原理上、人間のプレイヤーが入って来られるはずがない』

 「でも、入れちゃっているのですよ!」

 『どうやって?』

 「こっちが聞きたいですよ!」

 僕は信じてもらえないもどかしさにわなわなと震えた。

 「そもそも僕は人格のコピー…… ゴーストを売ってないんですよ! だから、思い込んでいるもくそもないです!」

 しかし、パトロール隊はその僕の主張に首を傾げる。

 『なら、あなたからゴーストを売ったって記憶が欠落しているのじゃないですか? ゴーストってそういうもんですし』

 「だから、他の記憶はあるんですって! このゲームにも事前登録しているし。トラックに轢かれたと思ったら、気付いたらこのゲームにフルダイブしていて」

 『それは、記憶が欠落していない事の証明にまったくなっていないですよね?』

 僕はそれに何も言い返せなかった。

 そもそも、記憶だけを頼りに、記憶が欠落していない事を証明するなんて本人にはほぼ不可能だろう。本人がそう思い込んでいるだけなのかもしれないのだから。

 『まぁ、ゴーストを買った会社には問い合わせをしてみますよ。自分の名前まで覚えているなんてレアケースですし』

 そう言うと、いきなりパトロール隊は宙に浮かび上がった。そして、『それでは、失礼します。別業務もありますので』なんて言って、そのまま飛んで行ってしまった。

 「本当に人間なんですってー」と、僕は叫んだけど、無視をされた。とても呑気なフヨフヨフヨという音を発てている。馬鹿にされているような気分になって僕は苛立った。

 「クソッ!」

 苛立っている僕を見て、サヨは心配そうにしていた。

 “まさか、運営に信用してもらえないとは思っていなかった。これからどうすれば良いのだろう?”

 ショックで憮然としていると、僕の耳にこんな声が聞こえて来た。

 「命拾いしたわねー。あんたら」

 見ると、さっきの弓使いだった。造形は女性キャラで、生意気そうな雰囲気がある。

 「命拾いってなんだよ?」

 ショックを受けているところに挑発されたものだから、僕はつい乱暴な口調になってしまっていた。

 「分からない? あのままパトロール隊が来ていなかったら、今頃、アタシ達があんたらを狩っていたって言ってるのよ」

 「何言ってるんだよ? 後少しで、お前は僕に斬られていただろうが! その後で余裕で逃げ出せていたよ!」

 僕は思わずその弓使いを殴りそうになってしまった。しかし、それを「また、パトロール隊が来ちゃいますよ」とサヨに諫められてしまう。

 注意を受けたにも拘らず、戦闘禁止エリアで暴れたら今度こそペナルティがあるかもしれない。

 僕は歯を食いしばって怒りを堪えた。

 「ふん! ま、いいわ。今度は街以外の場所で会いましょう。その時こそ、絶対に狩ってあげるから!

 アタシの名前はキサラ。覚えておくことね!」

 そう言うと、キサラというらしい弓矢使い達は去っていった。そのまま追いかけて、戦闘禁止エリアを出たら攻撃を仕掛けてやろうかと少しだけ思ったけど我慢した。

 リスクのある戦闘は避けるべきだろう。

 怒りを鎮め、少し考えると、僕はサヨとアーサーに向けて言った。

 「これから街の外に行きませんか? とにかく、今はできる限りレベルを上げて、強くなっておいた方が良さそうです。

 テスト期間が終わって、人間のプレイヤーが参入して来たら、NPCを狩るような連中もいるでしょうし」

 それを聞いて、サヨが不思議そうな声を上げる。

 「何度か出て来ている“人間のプレイヤー”とは何者ですか?」

 僕は少し考えると、

 「このゲームの新たな参加者達ですよ。いずれ入って来ます。仲間になってくれるかもしれないし、敵になってしまうかもしれない。

 奴らは課金って手段で一足飛びに強くなる場合もあるから要注意です。だから、できる限り味方にしておきたいのですけどね……」

 このゲームの課金仕様は未知数だが、もし課金で著しく強くなれるのなら、全滅の危険だってある。面白半分にNPCを狩るプレイヤーは絶対にいるから。

 僕の説明を聞くと彼女は、

 「はあ…… それは物騒ですねぇ」

 と、分かっていなさそうな気の抜けた口調で返して来た。

 「そうなんです」と僕は頷く。

 ただ、運営が僕の話を信用してくれなかった以上、人間のプレイヤーに話を聞いてもらうくらいしか現状を打開する方法はなさそうだから、入って来てもらわなくては困るのだけども。

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