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ゴーストタウン?

 道中、ゴースト達二人に軽くコミュニケーションを試みたのだけど、二人とも人間のようでいてやはり人間ではなかった。時折、感情が欠落しているかのような印象を二人から受ける事があるのだ。

 人格のコピーは完全ではない。きっと中には想定外のアプローチや得意ではない反応もあるのだろう。複雑で曖昧な感情は、人格をコピーする機械が巧くデータ化できないのかもしれない。

 ただし、そんな二人に対して、僕は充分に感情を動かされてもいたのだけど。彼らが「人間かAIか?」と訊かれたらきっとAIと僕は答えるだろうが、それでも僕は二人を人格と意思を持った存在だと認識してしまっている訳だ。

 相手を“コミュニケーション可能な存在”と見做す人間のハードルは案外低いみたいだと、それで僕は思ったりした。

 

 アーサーの言った方角に進んで行くと、やがて大きな街が見えて来た。

 道行は非常に順調で、ピンチには一切陥らなかった。モンスターとは何体か遭遇し戦闘になったけど、街の近くだからか全て弱いモンスターだったし(因みに、サヨはモンスターを倒すのすらも躊躇していた)、NPCは遠くから見ているだけで近付いては来なかったのでそもそも戦闘にはならなかった。ゲームの仕様で、視認すると遠くからでもNPCだと見分けられるようになっているらしく、文字が大きく表示されていたからNPCだと分かったのだけど。

 敵意の有無は分からないけど、少なくとも好戦的ではないだろう。それで僕は安心した。やっぱり、このゲームは別にNPC同士でバトルロイヤルをやらせるなんて仕様ではなかったようだ。

 そこまでは予想通りだったのだけど、ちょっとおかしいと思う点もあった。街に近付いて来たというのに人間のプレイヤーに一人も出会わなかったのだ。

 街の近くになら、普通は人間のプレイヤーの一人や二人はいるだろう。よっぽど人気のないゲームでない限り。

 疑問は解けないまま、街にまで辿り着いてしまった。それで唖然となった。街の中にも誰一人いなかったからだ。まるでゴーストタウンだ。いや、綺麗な街並みでいかにも誰かが暮らしていそうな雰囲気はあるから、ゴーストタウンとは呼べないかもしれない。それよりも、“突然全ての人間が消え去ってしまった謎の街”と言った方が印象に近い。そんな都市伝説か何かがありそうだけども。

 ただ、店内に入ってみると、店員がいてアイテムや武器の売買はできるようだった。しかしその店員は人間でもなければAIでもなく、話しかけたら決まりきった返答をするだけのただのシンプルなプログラミングのようだ。

 つまり、結局この街には人間のプレイヤーが全く見当たらないのだ。

 「――こんなの絶対に変だ」

 そう僕が呟くとサヨが「どうしたのですか?」と訊いて来た。

 「“人間”がいないんだよ」

 僕の言葉の意味を彼女は理解できなかったようだったけど、それでも僕が落ち込んでいるのは察したらしく、ちょっと悲しそうにしてくれた。その顔を見て、彼女に心配をさせる訳にはいかないと思って僕はなんとか気を取り直した。取り敢えず、折角街にまで来たのだからアイテム屋や武器屋で装備を整えるくらいはした方が良いだろう。何にせよ、力を付けなくちゃいけない。これまで戦って手に入れたアイテムを売ったらそれなりの金になったので、僕らは防具と武器と回復薬の類を買った。僕は剣とマントと速度強化効果のある靴。サヨは魔法強化効果のある杖と軽くて強度に優れた帽子。アーサーはハンマーと頑丈な盾。三人とも随分と強くなったと思う。

 僕はまだ諦めきれなかったので、街を散策してみる事にした。人間のプレイヤーは見つからなくても、運営への連絡手段くらいは見つかるかもしれない。

 が、やはりそんなに都合良くはいかなかった。何も見つからない。そのうちに一休みしたくなって来た。肉体的な疲れはないけど、それでも精神的にはかなりくたびれていた。このゲーム世界に入ってから、僕は一睡もしていないのだ。不思議と眠くはならないのだけど。

 “……そう言えば、そもそも今僕の身体の状態はどうなっているのだろう?”

 家で横になっているのか、ネットカフェに入っているのか。インターネットへの接続環境がなければこのゲーム世界にも入れないはずだから、どこか安心して接続できる場所にはいるはずなのだ。

 ただ僕にはどうにもそんな場所にいそうな記憶がまるでなかったのだった。残っている最後の記憶は、トラックに轢かれそうになっているシーンだ。それから僕の身体はどうなってしまったのか、さっぱりまったくこれっぽっちも分からない。

 “……まさか、スマートフォン経由でこのゲームに接続している訳じゃないよね?”

 もしそうだとしたら、通信費用が凄い事になっていそうだと不安を覚える。それで“仮に馬鹿高い通信費を請求されたら、ゲームの運営に抗議をしてみよう”などと考えた。ログアウトできないのは、このゲームの所為なのだし、それくらい払ってもらわなくちゃ困る。

 しばらく歩くと、宿屋らしき建物を見つけたのでそこに入った。記憶している限りでは、人間のプレイヤーだったなら、このゲームの宿屋ではステータスの回復とセーブができるはずだ。ステータスの回復はできるようだけど、NPCには当り前だけどセーブはできなかった。

 「少し休んでいきませんか?」と提案すると二人とも同意してくれた。もっとも、“休む”と言ってもステータスの回復は一瞬で終わる。彼らゴーストに“疲労”という概念がなかったら何の意味もない。ちょっと心配になったので「疲れましたね」と言ってみると二人とも頷いてくれた。それだって単なるAIの仮の反応に過ぎないのかもしれないけど、確かめようもないので気にしないことにした。

 宿屋は三人一部屋だった。そういうゲームじゃないから、サヨの入浴シーンもないしベッドも別々なのだけど、それでもちょっとだけ緊張してしまった。アーサーがいなければと思わなくもない。

 しばらく休んで、疲れが取れたような気になったので僕らは宿屋の外に出る事にした。扉を開けたタイミングで、「これからどうします?」とアーサーが尋ねてくる。

 「うーん。どうしましょうか? 他の街を探してみるくらいしか思いつかないですねぇ」

 と、僕は呑気にそう返したのだけど、そこで突然異変が起こった。

 空気を切る音が聞こえ、カンッと音がした。僕は何かが飛んで来たのだと直ぐに察する。

 攻撃をされたのだ。

 見ると弓矢が転がっている。ゲームの仕様なのか直ぐに消えてしまったけれど。幸いにして、それはアーサーに当たったので僕らは無事だった。以前に会った重装備タイプもよく攻撃を受けていたけれど、もしかしたら、このタイプには攻撃を引き受けるという特殊スキルでもあるのかもしれない。彼にちょっと申し訳ない気持ちになったけどありがたい。

 僕らは急いで宿屋の中に退避した。その瞬間、何処からか炎の魔法が放たれる。ただ、ゲームスシステム上、宿屋の中に攻撃は届かないようになっているらしく炎は弾かれた。

 「一体、何なのですか?」とサヨが訊いてくる。

 「多分、僕らが宿に入るのを見ていた誰かがいたのでしょう。それで出て来たところを狙われたのです。油断していました」

 正直、僕はゴーストを少し舐めていた。NPCを操作するゴースト達にそこまでの知能があるとは思っていなかったのだ。初めに遭遇した連中は、ゲーム経験があまりない上に特別短絡的だったのかもしれない。

 それから僕はアーサーを見やると、矢の当たった彼を「大丈夫ですか?」と心配した。すると彼は「あの程度ならまったく平気です」と応えて、両腕で力こぶをつくるポーズで無事をアピールした。ステータスを見てみると、実際、ほとんど体力は減っていなかった。

 体力がある上に、防御力もかなり高いようだ。

 これは心強い。

 「流石ですね。ただ、一応、体力を回復させておきましょう。ここが宿屋で良かった」

 アーサーは僕の指示に頷くと直ぐに宿のカウンターでステータスを回復した。それから僕は戦略を考える。

 「宿屋の中では戦闘はできないみたいですから、外で僕らを狙っている連中が去るのをここで待っても良いのですが、敵が増える可能性もある点を考えると得策とは思えません」

 NPCは人間じゃないから、睡眠も食事もトイレ休憩すらも必要ない。“飽きる”かどうかすらも分からない。持久戦に持ち込んでも良い事はなさそうに僕には思えたのだ。

 「恐らく、強行突破が今の現状を打開する最も有効な戦略ではないかと思います」

 サヨを見ると僕は続ける。

 「僕とアーサーが盾になってあなたを護るように進みます。あなたは僕らが傷ついたら、回復魔法で回復させてください」

 彼女は大きく頷いた。それを受けると、「アーサー」と僕は彼に呼びかけた。

 「なんです?」

 「あなたの方が僕よりも大幅に耐久力が高い。だから、申し訳ありませんが、攻撃が激しい方面はお願いできますか?

 その代わり、僕は攻撃が手薄な所を見つけたら突撃して隙をつくります」

 「分かりました」と彼は頷く。

 それから僕らは宿屋の扉の前に集まった。「出来る限り離れないように」と指示を出す。彼女が密着して来る。こんな時だと言うのに、僕は少し照れて嬉しく感じてしまった。なんだかちょっと情けない。

 「行きますよ!」と僕が合図を出すと、僕らは外に飛び出した。それを受けてか攻撃が一斉に始まる。攻撃は同時に三方向。炎の魔法と氷の魔法と弓矢。物影から攻撃して来ているので正確な人数は分からないけど、どうやら敵のパーティは三人か四人程度らしい。不幸中の幸いだ。これくらいならなんとかなるかもしれない。

 弓矢の攻撃が一番軽いと判断すると、アーサーには炎と氷の魔法の盾役を担当してもらった。僕は剣で弓矢を受けながら、「こっちへ」と弓矢が飛んでくる方向へ行くように指示を出す。炎と氷の魔法に逆らって進めるとは思えなかったからだ。

 攻撃を受け続けるアーサーと僕の体力は激しく減っていった。サヨはそれを心配して直ぐに回復魔法を使ってしまう。僕はそれを諫めた。

 「落ち着いてください。もう少しくらいは耐えられるので、回復魔法を使う頻度を下げて節約していきましょう」

 不安な気持ちは分かるが、彼女の魔力が切れてしまったらそれこそ全滅してしまう。彼女は僕の忠告に頷いて、回復魔法のスパンを少し長めにした。

 僕は弓矢が放たれる位置から、大体の敵の居場所を予想した。ある程度の間合いに入ったら、タイミングを見計らって突撃して一気に倒す。弓矢使いの体力は低い。記憶している限りでは、このゲームでは弓矢が切れたら、補充アクションをしなくてはならなかったはずだ。NPCも同じ仕様だとしたら、絶対に隙ができる。

 すると案の定、弓矢が止まった。

 “今だ!”と僕は思う。が、少しだけ嫌な予感を覚えた。もし、これがブラフだとしたら?と疑ったのだ。多分、僕が相手の立場だったなら、威力が魔法よりも弱い弓矢を囮に使って罠を張るだろう。

 僕は踏み込んだ瞬間、ビルの影を警戒した。すると案の定、そこから人影が飛び出して来た。剣士だ。僕はその剣戟を剣で受け、「アーサー!」と叫びながらその剣士を突き飛ばした。アーサーは「おう!」と応えると、彼の武器である巨大なハンマーでその剣士を攻撃した。

 重量級のパワー攻撃がまともに入った。かなりのダメージになっているだろう。これであの剣士はもう下手に動けないはずだ。それから僕は踵を返すと、弓矢使いに向かった。弓矢使いを倒したら、後はアーサーにサヨを守ってもらいながら全力でこっちの方に逃げてもらうだけだ。

 物影には、いかにも軽量の弓矢使いの姿があった。僕は剣を握りしめて斬りかかる。が、そこで妙なアラーム音が聞こえて来たのだった。

 『はーい。こちらシステム運営直属のパトロール隊です。この近辺での戦闘行為は慎んでくださーい。戦闘禁止エリアです』

 声は空の上から聞こえて来た。見ると、宇宙人と天使の間のような奇妙なデザインのキャラクターが、ドローンの浮き輪とでも呼ぶべき変な乗り物に乗って浮かんでいた。

 「はい?」と、僕は頭の上に思いっ切りクエスチョンマークを浮かべて固まってしまった。

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