表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/20

NPCに人権はない

 僕が目を覚ましたのは、僕が人間のプレイヤーと認められてから数日後の事だった。意識不明だったのがゲームの所為なのかどうかは分からないけど、どちらにせよ身体は動かせなかったのだからそれほど変わらなかっただろう。

 両親は意識を取り戻した僕を見て、涙を流して喜んでいた。僕は「ゲームをしていたから大丈夫だよ」と言ってみたのだけど「何を言っているのよ?」と信頼してはもらえなかった。夢でも見ていたと思われたらしい。ま、無理もない。

 NPC達は本当は僕が人間だと知ってとても驚いていた。ただ、薄々予感していたのか、それほどの拒絶反応はなかった。ある程度、人間達と親交を持った後だったのも良かったのかもしれない。

 人間嫌いのキサラがどう反応するかと心配していたけど、それほど態度は変わらなかった。彼女らしいといえばらしいかもしれない。

 一か月程が過ぎると、僕はようやく再び学校に登校できるようになった。藪沢は逮捕されて既に教室にはいなかった。僕はゲームの中で奴を殺してから姿を見ていないから、まるであの時に本当に僕が彼を殺しているかのように思えた。

 彼の犯行が明るみになった経緯は「本人が自白した」としか説明されなかったらしい。人間のプレイヤーをNPCとして認識していたというゲーム運営の落ち度を隠す為かもしれない。

 前にも述べた通り、運営を責めるつもりは僕にはないから、それでいいかと思っている。

 あれからテック・ファンタジーの世界をさんざん探しているのだけど、サヨはまだ見つけられないでいた。或いは、まだ彼女は蘇ってはいないのかもしれない。再投入されている他のNPCには出会っているから、運営の話は嘘ではないはずなのだけど。

 

 「はあ……」

 

 教室で大きく溜息をついた。毎日毎日、サヨの手がかりすら見つけられないでいた僕はすっかり落ち込んでしまっていた。彼女の存在は僕の中でとても大きかったのだ。不意に、

 「どうしたの? 大丈夫?」

 と、僕を心配する声が聞こえた。声の質はまるで違っていたのに、僕は何故だかサヨのような気がして顔を向けた。

 ところがそこにいたのは長谷川さんだったのだった。

 長谷川沙世。

 サヨの元の人格であるかもしれない彼女。僕は思わず彼女を凝視してしまった。その時に初めて優しいサヨと長谷川さんが重なったような気がした。

 「何?」

 と、そんな僕に彼女は不思議そうな顔を見せる。

 「いや、ごめん。なんでもないんだ」

 僕がそう返すと、相変わらず不思議そうな顔のまま「そう? なら、いいんだけど」と彼女は軽く首を傾げる。

 僕は彼女に何かを言おうと口を開きかけた。優しい彼女ならきっと僕を拒絶したりしないだろうと思ったからだ。

 が、

 「沙世ちゃーん」

 と、そこで彼女を呼ぶ声が。彼女の恋人の村上アキだ。僕は口をつぐむ。彼女は「どうしたの? アキ君」とあっさり彼の方に行ってしまう。

 まぁ、そうか。

 と、僕は思う。彼女はサヨじゃないんだ。恋人までいる。

 それからスマートフォンを見つめた。テック・ファンタジーの世界に入って、サヨを探そうかと考えたのだ。

 ところがそう迷っていると、「そろそろ授業が始まるよ?」と、話しかけられた。

 吉田誠一だった。

 「分かっているよ」とそれに僕。スマートフォンを仕舞った。

 「まだ、サヨってNPCが忘れられないのかい?」

 そんな僕の様子で僕の心中を察したのだろう。彼はそう尋ねて来た。

 僕は素直に認める。

 「まあ、ね」

 少しの間の後にこう続けた。

 「“異常”だって思うか?」

 彼は首を横に振った。

 「いいや。とても正常な心理だと思うよ」

 「僕はNPCの彼女が殺された時、本気で悲しんだんだぞ? それでも?」

 「それでも、だよ。コミュニケーションが可能で、しかも何度も自分を助けてくれた存在が死ぬのに、それに対して何も感じないなんて、むしろそっちの方が異常だろう?」

 「でも、相手はNPCなんだぞ?」

 彼女は本当は人間のような心なんて持ってはいない。そう見えるだけ。

 「関係ないよ。大切なのは、その人にとって相手がどんな存在に見えるのか?だから。極論を言えば、NPCでも人間でも大差ないのさ。だって自分以外の人間は、もしかしたら、感情なんて持っていなくてただただ反応しているだけの空虚な存在に過ぎないのかもしれないじゃないか。僕らにとってそうは見えないというだけの話でさ。

 それは他人の意識の世界が永遠に分からない以上、どうしようもないんだ」

 そこで言葉を止めると、それから吉田はこう続けた。

 「道徳的な対象としてAIをどう扱うのか? 実はこれは議論になっているんだよ。コミュニケーション可能に見える存在を、奴隷や道具として扱うのは、果たしてその人の人格形成に悪影響を及ぼさないのか?

 AIに心があろうがなかろうが関係ない。悪影響を及ぼすのなら、道徳的対象としてみるべきだ……

 そして、そう考えた場合でも議論は一様ではない。

 デイヴィッド・J・ガンケルはAIに対して道徳的地位を与えるべきだと主張していて、ジョアンナ・ブライソンはAIは完全に道具として扱うべきだと主張している。つまり、AIやロボットに権利を与えるべきか否か? って議論だね」

 そんな議論がされているなんて僕はまったく知らなかった。世の中ってのは広いもんだ。吉田はまだ喋った。

 「ゴースト…… 人格のコピー技術が確立してから、様々な事件が起こっているよ。故人のコピー人格を欲しがり、執着し、財産の相続や権利を与えたがる人間が現れ始めているんだ。

 これから先、人間とAIの区別がつかなくなっていけば、こういった問題はますます混迷していくだろうね。

 果たして、僕らはAIに権利を与えない明確な根拠を示せるのだろうか? 仮に権利を与えるとした場合、AIの場合はどこまでを“個”と見做すべきか?といった問題もある。コピーはいくらでも作れる。その全てに同じ権利を与えて良いのか? 仮に投票権を与えるとしたら、言うまでもなく公平な選挙にはならないね」

 なんだか難しい話になって来た。僕は少し考えると言った。

 「でも、人間は絶対にAIに権利を与えようとは思わないのじゃないか? 反対の声の方が大きいに決まっている」

 吉田はあっさりと頷く。

 「そうだろうね。しかし、それでも穴はいくつもある……

 例えば、君だって、もしも現実世界にサヨが現れて、AIって理由で奴隷として扱われていたら、助けてあげたいって思うのじゃないか?」

 「それは……」

 確かにその通りかもしれない。

 「それに、人間とAIが融合する可能性だってあるし人間がAIに操られて、実質的に権利を持つケースだって考えられる。

 この問題はね。きっと今後、人間社会がAIと共に進化していく事を考えるのならより重要になっていくと思うよ。そしてそれは、君がNPCのサヨに対して抱いている感情が証明しているのさ」

 そう言われて、僕はなんだか変な気持ちになってしまった。吉田は僕を異常とは言わなかったけれど、やっぱり異常と言われている気がした。

 いや、“異常じゃないからこそ問題”なのか。

 僕は何かを言おうとしたのだけど、そこで授業の開始を告げるチャイムが鳴ってしまって言えなかった。

 そして、何を言おうとしていたのかは直ぐに忘れた。

 

 テック・ファンタジーの世界。

 森の中、アーサーが巨体を大きく揺らしながら歩いている。元々大きかったが、最近になって特性の装備を手に入れて彼は更に大きくなってしまった。

 この見た目で、以前よりはスピードも上がっているから、“移動要塞”って感じになっている。

 「NPCが投入されるとするのなら、この辺りだと思うのですがねぇ」

 などと言って彼は森の中を見渡した。

 「そうですね。僕らが初めてこの世界に入ったのもこの辺りでしたから」

 このエリアは街からは離れているがモンスターは弱い。きっとスタートしたばかりのNPC用に運営が設定したのだろう。ただあの運営は何をするか分からないから、もっとレベルの高いモンスターが出るエリアからサヨをリスタートさせるかもしれないが。

 「あの子、攻撃って概念がないのか?ってくらいに滅多に攻撃しなかったから、この辺りのモンスターにでも負けるのじゃない? 復活して早々に死んでいたりして」

 キサラがそう言った。

 「嫌な事を言うなよ~」

 充分に有り得るから否定しづらい。

 「ところで……」

 と、僕はキサラを見やった。

 「どうしてお前までいるんだ? 別のパーティだろう?」

 キサラは頬を膨らませる。

 「あんたが貴重なヒーラーだから、守ってやろうってんじゃないの。相変わらず、遠距離攻撃に弱いくせに」

 それはその通りだった。モンスターにはまず負けないが、遠距離戦が得意な人間のプレイヤーの実力者に遭遇したら苦労するかもしれない。

 ……ただ、それにしても、この態度はなんかおかしい。

 キサラをじっと見つめる。

 「何よ?」と彼女。

 「いや、別に」と僕。

 

 もしかしたら、僕はNPCに好かれる性質なのかもしれない。正直、生きている現実の女の子の方が良い……

 そう思いかけて、僕は“そうとも言えないか”と否定した。

 サヨの優しそうな笑顔を思い出していたからだ。

 

 ――本当に人間とAIの差って何処にあるんだろう? このゲーム世界の中だと特にそう思う。サヨは間違いなく人間よりも美しかった。彼女よりも人間の方が素晴らしいなんて僕には少しも思えない。

 人間よりも、頭が良くて性格が良くて美しい。そんな存在を、僕らが奴隷として扱う社会に、果たして僕らはいつまで耐えられるのだろう?

 もし、賢くて美しいAIに社会の統治を任せられたのなら、世界平和だって実現するのじゃないか?

 そんな想像までしてしまう。

 もっとも、そんな事を言ったら、僕は絶対に批判されるだろうけど……

元は中編を考えていたのですが、

物語のテンポだとかを考えて書いていたら、長くなってしまいました。

だから、連載に。

ただ長いってだけじゃなく、連載が似合っているテンポの話だとも思ったので。


メッセージは分かってくれたと思います。

ただそれに対して、内容がちょっと長くなり過ぎてしまった感はありますかねー

色々と反省しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ