脳の機能拡張とAI
随分と昔から、人間の脳をインターネットやAIに結びつけて機能を拡張するという発想はあった。
ただ単に考えるだけで、ネットを検索したり、高度で複雑な計算をAIにやらせたり、或いは人格のコピーデーターをネットの海の中に保存したり。
しかし、そういった発想を現実化する為には、脳に対して直接電極をセットしなくてはならず、それには非常に危険な外科手術を施さなくてはならない。また、脳チップの劣化対策も大きな課題だ。劣化してしまうのであれば、そういった危険な手術を何度も行わなければならなくなる。
物理的に身体を傷つけて脳チップなどを接続する方法を侵襲的手法と呼ぶのだが、だからそのリスクを回避する為の代替案として身体を傷つけない非侵襲的手法が開発された。ヘルメット型のデバイスを頭に被り、脳活動の計測を行ったりするのだ。が、当然ながら、この非侵襲的手法ではできる範囲は限られている。
この問題に、脳と情報機器の接続を夢見る研究者達は頭を悩ませた。そこに登場したのが『ナノマシンを活用する』という新技術だった。
ナノレベルの極微細なロボット…… ナノマシンが膨大に入ったカプセルを人が経口摂取すると、腸内でカプセルが溶け、血管を介して脳や神経組織にナノマシンは侵入する。そのナノマシンによって構成されたナノマシンネットワークを脳チップの代替とする技術が開発され、ブレイクスルーが起こったのだ。
定期的にナノマシンカプセルを飲まなくてはならなくなるが、比較的安全な上に機能のアップデートも容易だった為、瞬く間にこの技術は普及をした。
もちろん、不安視する声も多少はあったのだが、ナノマシンネットワークによって脳機能を拡張した人間とそれ以外の人間とでは能力に著しい差が生じてしまう為、否応なく誰もがこの技術を取り入れる事になった。
今では子供の頃からナノマシンカプセルを飲むのが普通になっていて、人間の能力の向上に大いに役に立っている。極まれにナノマシンが体質に合わない人間もいて、新たな差別を生むとして社会問題になってもいるが、少しずつその原因も分かって来ていて、遠からず解決できる見込みだ。
ナノマシンネットワークによってもっと巧く脳の機能拡張に成功すれば、人間自身のコントロール能力も向上し、戦争や飢餓や環境問題を人類は乗り越えられるのではないか?と期待されている。
誰もが悟りを開いたブッタになれる時代が来るかもしれない…… という訳だ。
もっとも、それはもう少しだけ先の話かもしれない。今のところ、脳の機能拡張が、人間の愚かさや醜さを乗り越えられる目途は立っていない。だからこそ僕らは今でも煩悩に苦しみ悩み続ける毎日を送っているのだ……
ああ、早くに解脱を達成し、この苦しみから解放される日が早くに来ないものか!
……なーんてね。