Mission 3.ケモミミ少女に○○を~麓の町でのおつかいミッション その2
バトルエンジニアという、罠や飛び道具や爆弾などを作って戦う、戦う技術屋を生業にする男、ジェルンは、時として大量破壊を伴う仕事も多々こなすことから、冒険者や町の人から怖れられ、敬遠されているため、遠く離れた山の中に住んでいる。
そんな彼は、またひとつ大きな仕事をこなして戻ってきたとき、家の前の小屋に迷い込んで眠り込んでいたケモミミ少女・ソフィーを見つける……。
とりあえず、ソフィーを保護することにしたジェルン。
差し当たって、山の家にはソフィーには必要なものが不足しすぎているので、彼女の生活必需品を買いそろえるため、ジェルンは彼女を連れて近くの町に繰り出すのだった。
主人公:ジェルン
バトルエンジニアという、その辺にあるもので何でも武器にして戦える戦闘のエキスパート
直接的に戦うと言うよりも罠や飛び道具や爆弾などを作って戦う
他、薬などを使った回復にも長けている、戦う技術屋さん
ダンジョン踏破には欠かせない職業
ただ、時には大量破壊を伴う仕事も多々こなすこともあり、町の人からは怖れられていて、あまり町での居心地はよくないらしい……
ソフィー
主人公の暮らす山の中に迷い込んでしまった獣人族の女の子
種族の中では発育が良くないらしく、きょうだいからもイジメに遭って、逃げ出したら気が付いたら知らない場所に出てしまっていたらしい
さまよった挙げ句、主人公の小さな家を見つけたが、留守だったので、鍵の掛かっていなかった道具小屋に忍び込んで、眠り込んでいたところをジェルンに見つかる
さて、マイヤーさんの仕立屋から街中を歩くこと約10分程。
目的の店に到着する。
ここは、俺がこの町を訪れている時には最も多く利用している下町の庶民的なレストラン。
酒場よりも落ち着いた家庭的な雰囲気が気に入っている店だ。
「こんちわ~」
ソフィーを連れて店のドアをくぐると。
「いらっしゃい! あら、ジェルンじゃない。久しぶり」
お店の女将さんが出迎え、俺の後ろにいたソフィーを見て目を丸くする。
「あら、ジェルン。いつの間にそんなに可愛らしい彼女さん捕まえたんだい?」
「え、あ、いや、それは……」
「手なんか繋いじゃって、見せつけるじゃないの。あんたみたいな歳の男をそんなに慕ってくれる若い娘なんて、なかなかいないんだから、大事にしなきゃダメよ」
否定しようとしてハッと気が付けば、ソフィーと手を繋いだままだった。
否定したところで説得力の欠片もないとはこのことだ。
ここで、このことを言い争っても仕方がない。
「まあ、なんでもいいよ。それより、席空いてる?」
「ああ、そうだね。そこの奥の窓際席なんかどう? 今日は天気もいいからカップルでランチするにはもってこいの場所だよ」
そう言って、女将さんは俺達を奥にある窓際席へ案内してくれる。
「じゃ、ごゆっくり♪ オーダーはそのベル鳴らしてね」
「ありがとう」
女将さんは俺達を席に案内すると、また店内に戻っていく。
『ソフィー。食べられないものとか、あるか?』
『ううん、そういうのはないよ』
『好き嫌いは少ない方?』
『うん、ほとんど無いかな。だから、いつもきょうだいから嫌いなもの押し付けられるのよ。わたしは問題なく食べられるけれど、それでも好む好まないはあるから……』
『それも辛いな』
飛び出したエピソードに、思わず苦笑する。
『じゃあ、逆に好きな食べ物とか、食べたいものはあるか?』
質問を変えると。
『お肉が食べたいです……。ハンバーグとか……』
『ハンバーグならあるぞ。じゃあ、ソフィーはそいつにするか』
『はい』
ソフィーの注文が決まると、ベルを鳴らして人を呼ぶ。
「はい、ご注文どうぞ」
「ハンバーグセットと……おれはそうだな……キノコと鶏のクリームパスタで」
「ハンバーグセットとキノコのクリームパスタね。りょーかい。しばらく待っててね」
女将さんがちょっと意味ありげに笑いながらオーダーを承ってキッチンの方に入っていった。
注文から10分位して、料理が出てくる。
『わぁ……』
目の前に並べられたハンバーグのディッシュと、パン、サラダ、ポタージュスープを見て、ソフィーは目を輝かせる。
『美味しそう……』
目をキラキラさせて、感動に震えるソフィー。
そして、ハッと我に返る。
『……あっ! ご、ごめんなさい……。わたし、美味しそうなものを前にすると、いつもこうなんです……』
ちょっと恥ずかしそうにそう告白する。
『まあ、いいじゃないか。美味しいものを前にして、テンション上がるのは程度の差はあってもみんな多かれ少なかれそういうのはあるもんだ。さ、暖かいうちに』
『はい』
ソフィーは俺に促されて、ハンバーグをカットして、早速口にすると。
『ふおっ! お、美味しいですぅ~っ!』
めっちゃとろけちゃいそうないい笑顔で彼女は身もだえるような仕草で歓喜の声を上げる。
『そんな顔されたら、見ているこっちまで幸せになっちゃいそうだよ』
『えへへ……子供みたいですよね……恥ずかしいなぁ……』
照れたようにはにかむソフィー。
『いや、女の子が美味しいものを食べて、素直にそういう反応するのは見ている側としても可愛らしいし、良いなと思うよ。何より、楽しそうなのがいい』
『そうですか? そしたら、ジェルンが恥ずかしい思いしないんだったら、わたし、あなたの前ではこんな感じにしていていいんですね』
『ああ、もちろんいいさ。女の子は素直がいちばんだよ』
『えへ。じゃあ、そうしますね』
ソフィーは嬉しそうに笑う。
そんな彼女の笑顔を見ながら、自分もパスタを食べ始めた辺りで。
ふと気が付くと、何やら周囲の視線がこちらに集中しているような悪寒がして、ぐるっと見回すと……。
ホントにこっち、見られてた……。
おまけに、みんなぽかーんとした顔をして……。
店内が妙にざわついている。
「あの歩く火薬庫が女の子を連れてるぞ……」
「連れてる女の子の方も変わってんな。なんだ? あの耳。しっぽまである……」
「なんか、めちゃくちゃ仲良さそうだけど、あれ、どう見てもまだ子供だろ?」
「てか、あいつ、どこからあんな女の子を連れてきたんだ? まさか、攫ったんじゃないだろうな」
「えー……? それ、犯罪だろ……」
「それを言うならあんな少女に手を出してる時点で犯罪だろ」
………………。
店の常連たち(もちろんみんな顔見知り)が俺達の様子をそれぞれのテーブルから遠目に見ながら、ひそひそ話をしているが。
おまえら、それ全部丸聞こえだぞ……。
幸い、まだソフィーにはこっちの言葉はほとんど分からないから、彼女には彼らが何言ってるかは分からないはず。
言ってることが分からなければ、とりあえず害はないだろう……まあ、俺は色々言われることには慣れているし……と、思っていたら。
『ジェルン! あなた、怒らなくていいんですか!?』
ソフィーはどうも勘が強いようで、言ってることの意味が分からなくても、こちらが良く言われていないことだけは気が付いてしまったようで。
俺よりもむしろ彼女の方が相当頭にきてしまっている様子。
『まあまあ、落ち着けよ』
『あなたは言われっぱなしでいいんですか?』
俺がソフィーをなだめてもなかなか収まらない。
『人の噂話なんてそんなもんだって。そんなのにいちいち目くじらを立てていたらきりがない』
『でも……わたしを連れてることで、ジェルンが悪く言われているのは、わたしには我慢ができません!』
『悪く言われているというか……実のところはいじられてるとかネタにされてるってとこだと思うけどな』
『うう~~~~~~……』
『まあ、落ち着けよ。こういうのは下手に反応するだけ損だ』
『それは分かりますけど……』
ソフィーは不満そうに頬を膨らませる。
『あんまりああいうのは気にするな。飯がまずくなる』
『うう~~……。そうですね……』
『せっかくの美味しいランチが台無しになっちまうからな。これ以上はやめておこうな』
『はぁい……』
そんなわけで、この話はここで終わって、食事を続けようと思ったのだが。
「よう、ジェルン」
さっき、俺達のことをあれこれ噂していた常連の一人、ラファエルが俺達の席にやって来た。
「ああ、久しぶり」
こいつは結構腕利きの大工で、俺も結構仕事道具を作ってもらったり、大がかりな仕事だと、装置類の設計から製作から一緒にやったりと、仕事を共にすることが結構多い間柄だ。
「この子……どうしたんだ? もしかして、嫁さんか?」
「ぶほっ!」
ラファエルのヤツ、藪から棒になんて事言い出すんだ。
「おまえ、そう見えるのか?」
「まあ、あんな仲睦まじいイチャイチャっぷりを見せつけられたらな」
「は?」
イチャイチャだと?
どこをどう見たらそう見えたのだろう?
「……なんだ? 違うのか?」
俺の間の抜けたぽかーんとした反応に、ラファエルも何かおかしいと思ったようだ。
「違うって。歳の差を考えろよ……え?」
右腕に何かが纏わり付く感触がして、そちらの方を見ると……。
『えへへ……ジェルン~♪』
ソフィーがいつの間にか俺の隣にやってきてて、俺の右腕に纏わり付いたのだ。
『お、おい、ソフィー!? 何してんの!?』
そんな俺とソフィーの姿を見て。
「……なんかもう……ご馳走様ってヤツだな……。まあ、おまえのことだし、ヤることヤってんならちゃんと責任取ってんだろうから、俺としては何も言うことはないし、隠すことないと思うんだが……。まあ、なんつーか……おめっとさん。すまんな、邪魔したな」
そう言って、苦笑交じりにラファエルはそそくさと自分の席へ戻って行ってしまう。
「あ、ちょっと待て、ラファエル! 違うんだ、これには深いわけが……」
そんな俺の言葉ももう届いていなかった。
「行ってしまった……」
しばし、呆然としてしまう。
丁度今、自分の席に戻ったラファエルが、こちらの方を遠目に見ながら、周りの席の常連たちと何やら話している。
恐らく、話題は俺とソフィーの関係についてだろう。
そして、俺の隣で腕に纏わり付いたまま離れないソフィー。
これ、絶対みんなに間違って知れ渡るヤツだ……!
『おい、ソフィー! 何してんの? 思いっきりこれ誤解されたって……』
ちょっと抗議混じりにソフィーに問い詰めると。
『ジェルンが人攫いみたいに見られたらマズいと思って、ちゃんと仲良しだよ、悪いことされてないよ……って、アピールしたつもりだったんだけど……』
そんな答えが返ってくる。
……そうか。
ソフィーはソフィーなりに、気を遣ってくれた結果の行動だったわけか。
となると、さすがに責めるわけにもいかないな。
『あのな……今の、ソフィーのこと、俺の嫁さんだって誤解されたと思うぞ』
正直に今の状況を彼女に説明する。
『ソフィーにとっては、あまり良くない状況だと思うが……。やっぱり、今からでも誤解を解きに行ってくるか』
そう言って腰を浮かしかけたところを、くいっと服を引っ張られて引き留められる。
『どうした?』
『その誤解、解かなくていいかも……って、ちょっと思っちゃいました……』
『はぁ?』
『だって、夫婦だったら、わたしたち、一緒にいてもおかしくないじゃないですか。そしたら、ジェルンが悪く言われることもないし、わたしも堂々と一緒にいられますから……』
まあ、確かに……。
とは言っても、俺なんかと夫婦にされてソフィーはいいのだろうか?
『ソフィーは俺みたいなおっさんと夫婦ということにされてて、構わないのか?』
普通は嫌がるところだろうが……。
『わたし、ジェルンだったらいいよ?』
『ええんかいっ!』
『だって、とりあえず表向きはのフリでしょ? それくらいだったら全然大丈夫だし、それに……わたしは、結構……』
彼女の台詞の最後の方はなんか口ごもる感じで良く聞こえなかったけど、まあ、ふりをするだけならと割り切っちまうのもアリか。
ソフィーがそれで特に嫌ではなさそうだから、とりあえず当面はそうしておくのが何かと好都合といえば好都合ではあるな。
『わかった。それならとりあえず表向きはソフィーのことは、俺の嫁さんとして町の人には紹介することにするよ』
『うん、わかった』
ソフィーも別に嫌がるでもなく、素直に笑って頷いている。
ソフィーがそれで困らないんなら、俺としてもソフィーと一緒にいるのに特に説明も要らないから、面倒がないし、まあ、こうするのがいちばんいいんだろうな。
今はそういうことで、納得しておくとしよう。