Mission 3.ケモミミ少女に○○を~麓の町でのおつかいミッション その1
バトルエンジニアという、罠や飛び道具や爆弾などを作って戦う、戦う技術屋を生業にする男、ジェルンは、時として大量破壊を伴う仕事も多々こなすことから、冒険者や町の人から怖れられ、敬遠されているため、遠く離れた山の中に住んでいる。
そんな彼は、またひとつ大きな仕事をこなして戻ってきたとき、家の前の小屋に迷い込んで眠り込んでいたケモミミ少女を見つける……。
主人公:ジェルン
バトルエンジニアという、その辺にあるもので何でも武器にして戦える戦闘のエキスパート
直接的に戦うと言うよりも罠や飛び道具や爆弾などを作って戦う
他、薬などを使った回復にも長けている、戦う技術屋さん
ダンジョン踏破には欠かせない職業
ただ、時には大量破壊を伴う仕事も多々こなすこともあり、町の人からは怖れられていて、あまり町での居心地はよくないらしい……
ソフィー
主人公の暮らす山の中に迷い込んでしまった獣人族の女の子
種族の中では発育が良くないらしく、きょうだいからもイジメに遭って、逃げ出したら気が付いたら知らない場所に出てしまっていたらしい
さまよった挙げ句、主人公の小さな家を見つけたが、留守だったので、鍵の掛かっていなかった道具小屋に忍び込んで、眠り込んでいたところをジェルンに見つかる
翌日。
俺はソフィーを連れて、荷馬車に乗って町へ向かう。
さすがにあんなことがあってすぐにこの間の町に行くのは憚られたので、少し遠いが、その隣町を目指すことにした。
御者席には俺、傍らにソフィーを乗せて、山道を下っていく。
ソフィーは初めて見る辺りの景色の変化を目まぐるしくキョロキョロと見つめていて、初めてのお出かけに少し気持ちも踊っているようだ。
『町に出かけるのですか?』
朝、ソフィーが作ってくれた朝食を食べながら、今日は町に行くと告げると、彼女は一瞬キョトンとする。
まあ、なんの前置きもなく、いきなり言ったからだと思うが。
そして、彼女はこんなことを尋ねてきた。
『……では、お帰りはいつ頃になりますか?』
ちょっと近所に行ってくるくらいのノリで聞き返してきたのだった。
おいおい。
行って戻るだけで2~3日の行程だし、俺がいないその間、彼女を一人だけここに置いていくのも好ましくない。
それに……。
『いや、君も一緒に来てもらう。むしろ、来てもらわないと困る』
そう彼女に告げると、彼女は。
『わたしも……ですか? ……いないと、困りますか?』
あまり町には出たそうじゃない感じの反応だな。
『まあ、とにかく君が着る服がない。着た切り雀にしておくわけにはいかないからな。それから、君がここに住む以上、君のプライベートスペースも確保しないといけないから、急いで増築の準備をする必要がある。ぐずぐずしていると、冬になってしまうからな。季節がいいうちに終わらせておきたい。そういうわけで、急いで買い出しに出る必要があるんだ』
すると、彼女はまた昨日みたいに恐縮して。
『す……すみません……。ぜんぶ、わたしのためのお買い物なんですね……』
そう言って、身をすくめる。
『まあ、そんな顔をするな。そんなわけで、急いで出発するぞ』
彼女の頭をとんとんと軽く叩きながら、出発を告げると。
『分かりました!』
彼女は少し嬉しそうな顔で頷いた。
さて、馬車で丸一日かかる行程の、そこそこの長旅ではあったものの、初めて見る景色に新鮮な反応を見せるソフィーを見ているだけで結構楽しくて、退屈することはなかった。
一人だとただただ疲れる旅程なのだが、彼女一人居るだけでだいぶ違うものなのだなと思ったものだった。
さて、朝に家を出発して、目的地に到着したのは日が暮れて少し経ってからという頃合い。
なので、今日は素直に宿に入って、買い出しは明日以降ということにする。
この町で常宿にしている宿屋にソフィーと一緒に顔を出すと、なんだか宿の女将さんがにやにやという感じの顔で俺達二人を見比べている。
その顔に少し嫌な予感がしたが、細かく説明するのも面倒なので、そのままにしておいたら……。
通された部屋は、中を見てびっくりした。
めちゃめちゃスイートルームクラスじゃないか。
「え、ちょっと待って女将さん! 部屋、間違えてない?」
女将さんに確認するが。
「ああ、いいんだよ。ここで」
「いいって……代金に見合ってないだろ、明らかに」
「まあ、いいってことよ。今は空いてる時期だし、あんたには結構泊まってもらったり、仕事を頼んだりと世話になってるから、このくらいちょっとしたお祝いくらいに思ってとっときなって。可愛い彼女連れてるじゃないの」
女将さんは豪快にそう笑って戻って行ってしまった。
さすがに俺と女将さんのやりとりはソフィーにはちんぷんかんぷんだったのが救いか。
「……?」
案の定、彼女は微妙な笑顔で首を傾げていた。
ここは、女将さんのご厚意に甘えさせてもらうとしよう。
『まあ、入ろうか。だいぶ疲れたんじゃないか?』
ソフィーを促して、一緒に部屋に入る。
『わぁ……きれい……』
スイートルームらしく、綺麗に整えられた部屋を見回して、彼女は少し控えめながらも感嘆の声を上げた。
『俺もこの町に来る度にこの宿に泊まってるけど、こんな部屋に泊まるのは初めてだ』
『そうなんですか』
『まあ、俺一人だったら、泊まれればいいやくらいの感覚だったからな。さすがに今日はソフィーを連れてることだし、もうちょいマシな部屋……くらいに思って頼んだら、こういう事になったってとこ』
女将さんが変な意味で気を回してくれたという辺りは黙っておこう。
『そうなんですね……』
しかし、いつも泊まる安部屋とは見るからに違うよな。
とにかく控えめだけど綺麗に飾られているというか。
カーテンとか、テーブルにかかってるクロスとか、いつもの部屋の飾り気ない殺風景な感じすらある部屋の中の風景が、こうも違うとは。
男が女性を連れ込んで恥ずかしくない部屋ってのは、こういうものなんだろうな。
そういう意味でも女将さん、気を遣ってくれたのだろう。
翻って、自分の家を考えると……うん、とにかく殺風景!
飾り気の欠片もない。
さすがに女の子の生活空間として、あれでは失格だろう。
『なあ、ソフィー』
『はい、なんでしょう?』
『やっぱり、ソフィーも自分の部屋持つならこういう部屋がいいよな……?』
『そうですね。こういう部屋が持てたら、素敵だと思います』
ソフィーがご機嫌な顔をして頷いた。
だよな……。
『そしたら、明日は自分の部屋をどう飾るか考えながら、必要な布を一緒に買っていこう。カーテンとか、シーツとか、クロスとか、そういうの』
俺がそう提案すると、ソフィーは笑顔で頷く。
『はい!』
そして、彼女は一人ぶつぶつと、早速自分の部屋をどんな風にレイアウトするか、考え始めていた。
そんな彼女の姿は年相応に可愛らしく、微笑ましく眺めていたが。
突然彼女はこちらの方に振り向いて。
『あ、あの……っ! 新しく作るお部屋って、どのくらいの広さになるんでしょう?』
『えっ? そ、そうだな……』
いきなり訊かれてびっくりする。
まだ、正確な寸法までは決めていなかった……。
『う~ん……そうだな……』
今のところざっくりと、増築しようとしている側の間口がこのくらいだから、一人部屋だとだいたい増築する奥行きがこのくらい……。
そうやって考えると、大雑把ながらだいたいの広さが決まってくる。
『だいたいなんだが、今居るこの部屋の半分から3分の2くらいってところだね。もう少し具体的に示すと……こんな感じ』
部屋の片側の端の、だいたいの境界の隅に当たる感じの場所で、両手を直角に伸ばして、サイズ感を示してやると。
『あ……結構広いんですね……』
ソフィーがそんな感想を漏らす。
『実家ではどうだったんだ?』
そう聞き返すと。
『うちは女きょうだい3人でだいたいそのくらいの広さの一部屋でしたから』
そんな返事が返ってきた。
そういや、ソフィーの家は兄弟多いんだったな。
3人でそのスペースは少々狭いよな。
それに、彼女はあまりきょうだいとの折り合いが良くなかったはず……。
『だから、わたし、部屋にいる時はいつも3段ベッドの一番下の自分のスペースに引きこもって、本ばっかり読んでましたね……』
ああ、やっぱりか。
なんとなくそうなんじゃないかなとは思ったけど。
『だから実質、わたし、自分の部屋ってベッドのスペースだけっていう状態だったんで、こんな広いお部屋をいただけるなんて、夢みたいです』
ソフィーはそう言って、小躍りする。
『そりゃあ、部屋の装飾の計画にも熱が入るってもんか』
『はい!』
ソフィーはにこにこ顔で頷いた。
そんな感じで、その日の夜、ソフィーはずっと新しいお部屋の飾りをどうするか、お風呂を挟んで夜遅くまで考えていた様子だった。
俺は彼女より先にお風呂をいただいて、彼女が俺と入れ替わりにお風呂に入っている間に疲れのせいか、さっさと自分のベッドで眠りに落ちてしまっていたので、彼女がいつまで起きていたのかは分からないが。
さて、翌日。
宿の部屋で朝食のルームサービスをいただいた後、俺達は宿を出て街に繰り出した。
とにかくまず最初に向かったのはこの町の仕立屋さん。
まず、何はなくともソフィーの服を買わないとな。
とにもかくにも、ソフィーには今現在着ている服しかないので、下着から何から、イチから全部揃えてやらなきゃいけない。
昨日とかもそうだけど、お風呂に入っている間に彼女は下着やら服やら洗濯してたみたいだけど。
ちなみに、寝間着は俺のまだ着ていないシャツがあったので、それをしばらく使ってもらうことにしたのだった。
幸い、彼女の体格が俺達の種族の一般的な同世代の女の子よりも大柄ではあるものの、俺のサイズのシャツであれば、彼女に必要充分なサイズよりは大きかったので、それでとりあえずはなんとかなったようだが。
まあ、そんな不自由な生活とも今日でめでたくおさらばだ。
女の子の下着とかも買ったりするので、言葉の面の心配はあるが、男の俺はいない方がいいだろうということで、俺は席を外す。
一応、本当に「はい」「いいえ」「これ」とか、そのレベルの片言だけは覚えさせたので、最低限はなんとかなるだろう。
どうにもならない時だけは俺を呼ぶように言っておいたが。
俺は店先で店主のマイヤーさんとお茶を飲みながら、最近の町での出来事などの世間話に花を咲かせていた。
元々冒険者であったが故の性分なのか、それとも時折しか山から出てこないからなのか……たぶん、その両方だと思うのだが、町に出てくると、ついついそういう話を根掘り葉掘り聞いてしまう。
そんなことをお茶を飲みながら話しているうちに。
「ジェルン……」
背後からソフィーが俺の事を遠慮がちに呼んだ。
『ん? どうした? 終わるにはまだ随分早いよな?』
振り返ってソフィーに尋ねる。
何か問題でもあったのだろうか?
『あの……ごめんなさい。こんなにたくさん買ってしまって……』
両手に買った服を抱えたソフィーが申し訳なさそうに、少し大柄な身体を縮めるようにして立っていた。
とは言っても、胸に少し抱えるくらいの量しかないじゃないか。
「女将さん、これさすがにちょっと少なすぎない?」
ソフィーの応対をしてくれたマイヤーさんの奥さんに聞いてみると。
「それがね、この子……そんなにたくさん要らないって言うのよ……。これ以上はダメって」
まあ、普段から見るに、ソフィーはかなり控え目な性格をしているし、その性格からして、やっぱり遠慮したのだろう。
『ソフィー。分かっているとは思うが、うちはそんなにしょっちゅう町に買い物に出られるわけじゃない。それに、山の中の生活だから、服も汚れれば、破れたりすることもしょっちゅうだ。だから、必要ギリギリの枚数じゃ、すぐに足りなくなってしまうぞ。それこそ、そこにある木箱に箱詰めするくらいにとりあえず買っておきなさい』
ソフィーにそう言い聞かせると。
『すみません……』
彼女はさらに申し訳なさそうな顔をする。
『そんな顔をするな。必要なものだ。それに、これからたっぷりこき使うし、服も汚れる仕事もたくさんある。それくらいないと、服が持たない』
『ありがとうございます……』
そんなソフィーをもう一度女将さんに預け。
「すみません、ちょっと強引でもいいんで、箱いっぱいくらい、買わせちゃって下さい」
「ええ、まいど!」
「お手数かけます」
「いいんですよ。こっちはたくさん買ってくれるだけで、ありがたいんだから」
女将さんは豪快に笑って、ソフィーと一緒にもう一度店内へ戻っていった。
それから小一時間くらいして、ホントに膝丈くらいの木箱に詰め詰めになるくらいに服を買い込んで、彼女が戻ってきた。
とりあえず、荷物はお店に頼んで宿まで運んでもらうとして、時間的にはお昼時。
おなかも結構減ってきたし、とりあえず、お昼ごはんを食べに行くことにしよう。
『あの……ジェルン……』
彼女を連れて街中を馴染みの店に向かって歩いていると。
不意に左腕の肘辺りの袖がくいっと引っ張られる。
『ん? どうした?』
『ありがとう……』
ソフィーはものすごく申し訳なさそうな顔をしていた。
『気にするな。子供がお金のことなんか気にしなくていいんだよ』
『そ……そうですか……』
彼女は俺の反応に目を丸くする。
そして、なぜかどことなく悲しそうな感じなんだが……。
『どうしたんだ?』
尋ねてみたが。
『なんでもありません!』
彼女は頬を膨らませてぷいっとそっぽを向いてしまった。
……あ、そうか。
子供扱いが気に入らなかったのか。
『ほら、はぐれるぞ』
ソフィーの手を取る。
嫌がられるかと思ったら、案外素直に手を繋いできた。
やっぱり心細いのだろう。
少なくともこれから当分の間、俺が彼女の支えになってやらないといけない。
そんなことを思った。
さて、とりあえず行く先の店はもうすぐだ。