Mission 2. 迷子のケモミミ少女を保護するべし その2
バトルエンジニアという、罠や飛び道具や爆弾などを作って戦う、戦う技術屋を生業にする男、ジェルンは、とある町の領主からの依頼により、コボルドが大量発生したダンジョンの制圧の仕事に取りかかることに。
結局、町の安全を迅速に確保するため、丸ごと焼き払う方策をとらざるを得ず、ダンジョンの下層エリアに封じ込めて焼き払って処置したジェルン。
しかし、その処置により、ダンジョンは当分の間探索不能になり、冒険者たちの怒りの的になってしまい、彼は早々にその町から撤収することになってしまう。
主人公:ジェルン
バトルエンジニアという、その辺にあるもので何でも武器にして戦える戦闘のエキスパート
直接的に戦うと言うよりも罠や飛び道具や爆弾などを作って戦う
他、薬などを使った回復にも長けている、戦う技術屋さん
ダンジョン踏破には欠かせない職業
ただ、時には大量破壊を伴う仕事も多々こなすこともあり、町の人からは怖れられていて、あまり町での居心地はよくないらしい……
あれから、泥のように眠り込んで、ふと気が付けば、すっかり日も高くなっていた。
「ふあ~……よく寝た……」
大きく伸びをする。
時間的には……どうやらお昼を少し過ぎたくらいだろうか。
……ん?
なんか、いい匂いがするな。
そうか、時間的には少し遅いかもしれないが、ソフィーが昼でも食べている頃か。
まあ、とりあえず、戻ろうか。
俺もおなか空いたしな。
なんか、軽く作って食おう。
そう思って、部屋を出ると。
『あ、おはようございます』
ちょうどソフィーは居間の食卓の上に食事を準備しているところだった。
『ちょうどよかった。一緒にお昼食べませんか?』
『なんだ? 俺の事待ってた?』
そう尋ねると、彼女はふるふると首を横に振った。
『いえ。わたしもあの後そこで寝かせてもらってて、さっき起きてきたばかりなんです』
『そうなのか』
俺の反応に、ソフィーはにこやかに頷く。
『おじ様が起きてこなかったら、虫が付かないように上から何か被せて置いておこうと思ってたんですけど、ちょうどタイミングよく起きてきて下さいましたし……今から一緒にお昼ごはんにしませんか?』
『いいのか?』
『ええ、是非。そもそも、食材はここのおうちにあったものですよ?』
どうして遠慮するのかよく分からないといった風に首を傾げながら、笑顔を浮かべるソフィー。
まあ、差し支えなさそうだし、お言葉に甘えるとしようか。
『じゃあ、ありがたくいただくとしようか』
そう言うと、ソフィーは嬉しそうに頷く。
『はい♪ ぜひそうしてください。もうすぐ整いますから』
そして、彼女は配膳を続けながら、言葉を続ける。
『あ、そうだ。わたし、一つ大事なことを聞き忘れていました』
『何を?』
『おじ様のお名前をまだ教えてもらってないです……』
………………そうだっけ?
ソフィーの名前を聞いた時とかに、俺名乗ってなかったっけ?
『俺、名乗ってなかった?』
『はい、まだです。最初に起こされた時に「家主だ」と言われただけですよ』
『そうだっけ?』
俺の反応に、彼女は『そうですよ』とばかりに大きいモーションで頷く。
マジか……。
『それは悪かった……。俺はジェルンっていう』
『じゃあ、これからはジェルンって呼んでいいですか?』
『ああ、そうしてくれ』
俺がそう答えると、彼女は嬉しそうに笑って。
『分かりました。じゃあ、ジェルン。そろそろ準備できましたから、先にいただいちゃって下さい』
『いいのか?』
『ええ、冷えたら勿体ないですから、暖かいうちにどうぞ~♪』
『じゃあ、お先に失礼するよ』
とりあえずいつもの自分の席に着く。
パンとオムレツとサラダと……軽く食べようと準備したと本人が言っているように、それほど手の込んだメニューじゃないけど……このオムレツ、見るからにめちゃくちゃふわふわじゃないか?
この子、実はかなり料理上手なんじゃ……?
「いただきます」
手を合わせてから、早速気になったオムレツをフォークで掬って口にする。
……これは!
美味い。
塩加減がいいというのもさることながら、何よりもこの柔らかな食感。
見た目に違わず、中までふわっふわ、しかも芯の辺りはとろっとろの半熟。
そして、つるんとした喉ごし。
たまに自分で作るオムレツのちょっと硬い感じのとは全然違う。
今度はパンにも手を伸ばす。
すると、触れようとした手にパンから立ち上る熱気を感じる。
どうもこちらもしっかりと温めてあるようだ。
だから、普段の冷えたままのパンより柔らかくなっていて。
割くとなかから一瞬ふわっと湯気が上がる感じ。
そういうちょっとした一手間も忘れない辺り、ソフィーはかなり几帳面な性格してるのかもしれない。
次に、サラダ。
だいたい俺はいつも削った岩塩をかけるくらいで済ませているが。
何やらドレッシングらしきものがかかっている。
そんなもの、用意済みのものなんて置いてないから、間違いなく彼女が一から作ったものだ。
どれどれ……。
………………。
うん、いいな。
岩塩だけで味わういつものシンプルなのも別に悪くはないと思っていたが、やっぱりこっちの方が野菜を食べるのが純粋に楽しいな。
俺は面倒くさがりだから、こういう一手間二手間かけずに済ませてしまうところがあるから、食事もかなり作業的な感じになってるところがあった。
だけど、こんな食事だったら食事が楽しいだろう。
そんなことを思いながら彼女の用意してくれたランチをのんびりと食べていると。
ソフィーが食事の支度をしていたキッチンを軽く片付けを済ませたようで、こちらへ戻ってきた。
『あ……どうでした? たいしたものじゃないんですけど……』
『ああ、ソフィー、君、料理上手いじゃないか』
戻ってきた彼女にそう声をかけると、彼女は少し嬉しそうな顔をする。
『そうですか? お口に合ったみたいで良かったです』
そして、俺の反対側の席に着き、『いただきます』と手を合わせて、彼女も食べ始める。
『料理はわりと得意な方? ……いや、普通に得意だよね。普段からやってる感じかな?』
『はい。お家ではいつもお母さんに付いてやってました。うち、兄弟多いので……』
『そうか……。ご家族は今頃心配してるだろうな』
なるべく早くなんとか帰してやりたいが。
ところが、意外な答えが返ってきた。
『どうでしょう? わたし、お家では褒められたことがないので……。お料理も、さっきみたいに上手いって言ってもらったこと、全然なくて。むしろ、出来が悪くてどうしようもない子って思われてる節があるので……』
いきなり後ろ暗い話になったぞ。
『どういうこと?』
その理由を尋ねてみると、意外な事実が明らかになった。
彼女をいじめていたのは、実は彼女の兄弟だったというのだ。
彼女の故郷では、男の子なら狩りが得意かどうか、女の子なら子供が産めるかどうか、男の子にとって魅力ある体型かどうかが重要で、一族の女子として発育の良くないソフィーは、出来の悪い出来損ないという言われ方を普段からされていたという。
当然、親世代のそういう評価は子供たちにも影響を及ぼすわけで、兄弟や友達関係の中でいつもいじめられたり仲間外れにされるのは日常だったらしい。
そんな中では料理や裁縫が得意であっても評価されることもなく、美味しくごはんが作れても褒められることなどほとんどなく、むしろちょっとしたミスなどがあれば、それをあげつらって貶されることばかりだったという。
『なんだそれ……』
その話を聞いて、俺は開いた口が塞がらなかった。
とは言うものの、それが一族の価値観だとしたら、それをひっくり返そうとするのは至難の業なのはすぐに想像が付く。
『なので……ものすごく図々しいお願いだとは思うのですが……わたしのこと、ジェルンのところにずっと置いてもらえないでしょうか……?』
そんなことをソフィーは俺に頼み込んできた。
まあ、正直なところ、彼女がメイドとして居てくれるなら、俺としては色々と助かると思うが。
それが本当にいいことなのかはなんとも言えないな……。
『それはつまり、帰りたくないと、そういうこと?』
一応念のため確認しておこうと思って、訊いておく。
『はい……正直、今は帰りたくありません』
『そうか……』
とりあえず、本人がそう言うなら、無理に送り返すのも考え物だな。
とりあえず、どのみち当分はうちに置くことになるわけだしな。
『わかった。それなら、俺から提案がある』
『はい』
『とりあえず、好きなだけうちにいればいい。せっかく料理なんかも得意みたいだし、住み込みのメイドとして雇おうと思うんだが、どうだろう?』
俺からそう提案すると、ソフィーは驚く。
『えっ……。置いていただけるだけでありがたいのに、雇うって……。お給金なんて、いただけません』
慌てて遠慮する彼女だが。
『まあ、そう言うな。これからいろいろとお金が必要な場面も出てくるだろうから、このさきずっと無一文というわけにもいくまい。こっちだって、雇うと言ってもそんなに高給出せるわけでもないし、そういう時のために貯めておけば、いざという時に役に立つだろう』
『す……すみません……。ありがとうございます……』
ソフィーは恐縮しきりだったが、お金がないと困ることもあるのは本人も分かりきった話でもあるので、最後は素直に俺の提案を受けてくれた。
そして、もう一つ。
『それから、言葉の問題があるな。これからここで暮らしていくなら、こっちの言葉は覚えないと辛いだろう。一通り、日常の会話ができるくらいまでは特訓だな』
『はい。分かりました!』
これも、大事なことだ。
まあ、本人もやる気みたいだし、若くて賢そうな感じの女の子だから、覚えは早いだろう。
『じゃあ、ソフィー。これからよろしく頼む』
『はい! わたしも……よろしくお願いします』
こうして、俺と遠い国の異種族の女の子との暮らしが始まったのだった。